和食STYLE

豆腐百珍のすべて 37 佳品 なじみ豆腐

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

前回で[通品]10品が完結し、今回からカテゴリーが[佳品]に変わります。
[佳品]とは、「尋常品より風味が良いか、見た目が美しいもの」とあることから、第1回『木の芽田楽』から第26回『鶏卵様(たまごとうふ)』までの[尋常品]の、レベルアップした料理が並ぶことになります。
とはいえ写真や絵が残っていないため、すべて料理した感想としては、[通品]26品と[佳品]20品に、果たしてそれほど違いがあるかは疑問です。

ただし今回ご紹介する『なじみ豆腐』に関しては、「上々の白味曾をよくすりて」「文武火にて烹(に)たつる」「器物は柚みそ皿などよし」と、味噌の種類や火加減、器まで細かく指定されています。

『なじみ豆腐』に対してここまでイメージが固まっているということは、どこそこの店で出されている料理、というように、はっきりとした指針があったのでは……と思えてなりません。

ちなみに「文武火」とは中国における火加減の呼び方で、「文火」がとろ火、「武火」が強火、「文武火」は中火ということになります。
また「柚みそ皿」とは、樂家の代々が手がけている、柚釜(柚子の上部を切り、中身をくり抜いて料理を入れる)を盛るための小さめの小鉢のことです。

『なじみ豆腐』とは、白味噌ダレに豆腐をしばらく浸して馴染ませるからつけられた料理名なのか、もしくはある料亭のおなじみの料理なのか……。
筆者の醒狂道人何必醇(せいきょうどうじんかひつじゅん)こと曽谷学川の妻が、大坂の料亭の娘だったことを鑑みると、後者であった可能性は否めません。

■なじみ豆腐レシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
白味噌…50g
酒…100ml
長ねぎ…適量
青唐辛子…少々
おろし大根…適量

【作り⽅】
1.豆腐は水切りしておく。
2. 白味噌を酒でのばしたタレに、1の豆腐をしばらく浸す。
3. 2を中火にかけ、焦げないよう鍋を揺らしながら、タレがどろりとなるまで煮る。
4. 3を小鉢に盛り、長ねぎと青唐辛子の小口切り、汁気を絞ったおろし大根を乗せる。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』