和食STYLE

豆腐百珍のすべて 26 尋常品 雞卵樣

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『雞卵樣』と書いて「たまごとうふ」と読みます。『豆腐百珍』には難読漢字が多々ありますが、中でもルビを見てさえ「?」が浮かぶのがこの料理名です。
「雞卵」を「たまご」と読むのは理解できます。ですが「樣」は「様」の異体字であり、検索しても「さま・ショウ・ヨウ・ゾウ」とは出てきても、「とうふ」とは書かれていません。

ちなみに「様」にはかつて8種類もの使い分けがあり、「八様」と呼ばれていたそうです。
今回の、つくりの右下が「永」の字になっている「樣」は「えいさま」と呼ばれ、手紙を書く際、敬意のある目上の人の宛名に使う最上級の「様」でした。
次いで最上級とまではいかないけれど、敬意を持つ相手には右下が「美」の「びざま」。
やや目上の人には右下が「次」の「つぎさま」。
同等の者には現在一般的に使っている、右下が「水」の「みずさま」。
目下の者には、右下が「平」の「ひらざま」。
……と、ランク順に書き分けられたそうです。「ひらざま」の手紙などいただいた日にはショックを受けそうで、無くなって良かった習わしだと思います。

後の3つは記録に残っていないとのことですが、「樣」が最上級というならば、『雞卵樣』は、江戸時代の卵が高級品だったことに関係があるのかも知れません。さらに「樣」には「〜のよう」という意味もあるため、豆腐と人参で卵に見せかけたもどき料理である『雞卵樣』の「樣(とうふ)」には、両方の意味がかかっているのだと思われます。

■雞卵樣(たまごとうふ) レシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
葛(片栗粉でも可)…大さじ1
人参…1本(使用するのは中心部のみ)
水…人参が浸る量
塩…小さじ1/2
砂糖…大さじ1
お好みの薬味…少々

【作り⽅】
1. 水切りした木綿豆腐をすり鉢でよくすり、ふるいにかけた葛を加えてよくすり混ぜる。
2. 直径1.5mm程度に中心部だけ丸く残した人参を鍋に入れてヒタヒタに水を張り、塩と砂糖を加えて弱火でコトコトと煮る。人参が柔らかくなったら火を止め、自然に冷ましておく。
3. ラップに1を1cm幅に広げて伸ばし、葛粉をまぶした2を中心に置いて巻き寿司のように細く丸めて、ラップの両端をしっかりと止める。
4. 3を熱した蒸し器に入れ、中火で5分程度蒸す。完全に冷めてから2cm幅に切る。塩、醤油など、お好みの味付けでいただく。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』