豆腐百珍のすべて 1 尋常品 ⽊の芽⽥楽
⽂:時代⼩説家/江⼾料理・⽂化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)
【⾖腐百珍とは】
天明 2(1782)年5⽉に刊⾏され、⼤ベストセラーになった江⼾時代のレシピ本。⾖腐料理だけを 100 品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。⼤根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『⾖腐百珍続篇』『⾖腐百珍餘録』も刊⾏された。
1 尋常品 ⽊の芽⽥楽
『⾖腐百珍』は、100 品の⾖腐料理(伝承および創作料理含む)を「尋常品」「通品」「佳品」「奇品」「妙品」「絶品」の6段階に分類し、評価するなど、読み物としても楽しめるユニークな料理書です。
それまでに発刊された料理書は、流派を伝えたり、当時の⾷⽂化の記録を残したりといった専⾨書であるのに対し、⼀般の⼈々を読者対象にし、初⼼者に料理への意欲を沸かせる編集になっています。
筆者が醒狂道⼈何必醇(せいきょうどうじん かひつじゅん)という戯号の、謎の⼈物であることも話題になりました。
初版は⼤坂⾼麗橋壱町⽬の書物所「藤屋善七」から発売されて評判を呼び、重版では京の「⻄村市郎右衛⾨」「中川藤四郎」が版元に加えられ、さらに江⼾の「⼭崎⾦兵衛」の名が奥付に⼊った版が刊⾏されました。これらが全て天明2年に出ていることから、『⾖腐百珍』がいかにスピーディーに浸透していったかがわかります。
著者はなぜ、このような企画本を出そうと思い⾄ったのか︖
そもそも彼の正体は何者なのか︖
カテゴリー分けにどのような意味があるのか︖
本書の⼤ヒットによる⾷⽂化への影響とはどのようなものだったのか︖
……全 100 品のレシピをご紹介しながら、これらの謎を徐々に紐解いてゆきたいと考えております。
今回は“⼾々に平⽇もてあつかひ、調理する所のもの”と定義された「尋常品」26 品の1番⽬に挙げられた『⽊の芽⽥楽』をご紹介致します。当時⽥楽はポピュラーな料理で、多くのバリエーションがありました。これはその中でも春先によく⾷べられた、⾊味の美しい⼀品です。
●⽊の芽⽥楽レシピ
【材料】
⽊綿⾖腐…1/2丁
⽩味噌…⼤さじ3
味醂(原⽂では⽢酒の堅練り)…⼩さじ2
⽊の芽(粉⼭椒でも可)…適量
【作り⽅】
① ⾖腐は⽔切りして⻑⽅形に切り、串を刺しておく。
② ⽊の芽を、⽥楽の本数分残して残りを細かく刻む(粉⼭椒を使っても良い)。
③ ⽩味噌を味醂で溶いて弱⽕にかけ、2を加えてとろみをつける。
④ ①を両⾯焼いた後、天⾯に3を塗って焼き、あれば⽊の芽を飾る。
※⾖腐の⽔切りは、⾖腐の上にまな板と重しを乗せ、1時間ほどかけてゆっくりと⽔分を抜くと綺麗に仕上がります。時間のない場合は、⾖腐をキッチンペーパー等でくるみ、割り箸などを敷いて⽫から浮かせ、電⼦レンジに3分かければ OKです。
(くるま うきよ)
時代小説家/江戸料理・文化研究家。
企業内グラフィックデザイナーを経て、故・新藤兼人監督に師事し、シナリオを学ぶ。現在は、江戸時代の料理の研究、再現(1000種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『美の壷』他のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)『1日1杯の味噌汁が体を守る』(日経プレミアシリーズ)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。新刊『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)発売中。。
http://kurumaukiyo.com