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日本の旬を知りたい! [二十四節気の魚 5月]

5月にある二十四節気は5月5日の立夏、そして5月20日の小満となります。
今回ご紹介するのも日本の旬を語る魚、2題です。
日本人の魚食文化を再認識いただくこの「二十四節気の魚」の連載も1年間続けさせていただきましたが、
今回をもって最終回とさせていただきます。ありがとうございました。

立夏●5月5日●黒潮の使者、初夏を運ぶ

江戸時代、緑鮮やかな季節になると江戸っ子は、庶民も金持ちも、相模沖に到着する魚の群れに目の色を変えたといいます。見栄っぱりな彼らは「女房を質に入れても」と高値のこの魚に大金を投じようとしたとか。
江戸時代の俳人、山口素堂が春から夏にかけ、江戸の人々がもっとも好んだ風物を詠んだ句の下線部にふさわしい語句を選びなさい。
目には青葉 山ほととぎす ____


①寒鰆
②初鰹
③初諸子
④春鰊
【解説】

回遊魚であるカツオは20度ほどの水温をもとめ、南の海からイワシを追って、春から夏にかけて日本の近海へとやってくる。南九州の沖に姿を現すのが3月ころ。その後、4月から5月にかけて紀州沖から房総沖へ、さらに7、8月頃には三陸沖から北海道沖へと北上していく。
大きいものは60㌢にも達し、背は鉛青色で、腹は銀白色。全身滑らかな皮膚におおわれ、体側には縦走する数条の濃青色の線がある。身肉の味わいもさることながら、こうした姿体が、江戸っ子の粋といなせな感覚にマッチして喜ばれたのだろう。

俎板(まないた)に 小判一枚 初がつお

素堂とともに蕉門―松尾芭蕉の門下―の宝井其角(きかく)の句にあるように、カツオの値段は元禄(1688-1704)のころでも相当の高値を呼んだようだ。というのも、5月ころのカツオは脂がのってうまい上に、江戸時代には小さなカツオ舟ゆえに漁獲量も少なく、江戸っ子の見栄も手伝い、高値で取引されたのだ。



銀皮造り 初がつおの腹身は皮つきのまま刺身にするとおいしい。すりおろした生姜とともにいただく。

「鰹は刺身 刺身は鰹」の言葉どおり、鮮度(いき)のいいカツオなら、やはり刺身で食べるのが本命で、今日ではしょうが醤油か、にんにく醤油(またはにんにくのスライス)が添えられるが、江戸時代にはからし味噌が主流だったらしく、古川柳にも

初鰹 銭とからしで 二度泪(なみだ)

などと詠み込まれている。

カツオ漁といえば、一本釣り。生きたイワシをえさにまき、船のまわりにおびきよせて、釣り上げる。伝統のかつお一本釣りで知られる本場、土佐高知では初ガツオをたたきにする。



カツオの皮目を稲わらの炎で炙ることで燻製に似た香ばしさがつき、赤身の風味とうまみが際立つのだ。



土佐料理の代表格にして、土佐造りとも呼ばれる“鰹のたたき”は、さっぱりとしたなかに感じる、深い旨みが持ち味。



鰹のたたき 独特の風味と食べ応えが魅力の土佐の味

薬味は生姜、茗荷、大葉などをたっぷりと。さらにポン酢のかんきつ類も加わり、風薫る初夏の海、山、野の香りと味が口のなかで響きあうようだ。新緑の候、艶やかな赤身の澄んだ風味を愉しむ季節の便り、そんな形容をしたくなる初がつおである。

①はかんざわらで冬の味、③はつもろこ、④はるにしん、ともに春の味。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】②初鰹(はつがつお)  

小満●5月20日●懐深き、大衆魚

初夏の潮風とともに脂がのって、おいしくなるアジ。いままさにこの時季、5月から6月においしさのピークをむかえています。
産地の漁師たちだけが愉しんでいたアジの生食が日本中に広がったのは、東京オリンピックの少しあとのこと。アジの代表的な生食のうち、誤りを選びなさい。


①さんが
②たたき
③なめろう
④水なます
【解説】

料理法が多様なアジは漁師料理をルーツとする郷土料理が豊富な魚。ムロアジはトビウオと並んで、伊豆七島・八丈島名物の「くさや」の原料となる。また、薬味と味噌をアジの身と細かく包丁でたたく「なめろう」は房総の漁師料理。これを氷水に溶けば「水なます」といい、平たくまとめて焼けば「さんが」という。

1965年ごろ、伊豆半島周辺の郷土料理「たたき」に東京の料亭の板前が感動して店で出したところ、一気に広まり、アジが生食できることに日本中が気がついた。たたきの起源は、伊豆の漁師さんが船上で内臓を手でとって、味噌などとまぜた「沖なます」だ。塩焼きか干物が中心だったマアジの料理に、一大革命をおこしたのが、生食の“発見”だったのだ。



アジのうまみとたたきに近い食感が味わえる「なめろう」 

ひとくちにアジといっても、断面が平たいマアジの仲間と、丸みを帯びたマルアジの仲間がある。後者はマルアジのほか、いずれもクサヤの原料となるムロアジ、クサヤムロなど赤身系のアジがこれにあたる。

前者は肉質が白身系で、マアジのほか高級魚のシマアジ、魚に詳しい人たちのあいだで味がいいわりに安いと評判のカイワリなど。そのなかで鮮魚・加工品原料としてもっとも人気があるのがマアジだ。
マアジは成魚になると沖合を回遊するのが普通。しかし、内湾や瀬に居すわり、回遊しないのも一部ある。これらは「瀬付き」と呼ばれ、数は少ないが珍重されている。



上が回遊する「黒アジ」、下が瀬付きの「黄アジ」

回遊するアジが黒っぽい色をしているのに対し、瀬付きは黄色や金色をしているため、産地や市場では回遊するものを「黒アジ」、瀬付のものを「黄アジ」「黄金アジ」などと呼び分ける。瀬付きは回遊しないため脂がのっていて、黒アジより味がよいとされ、各地でブランド化が進んでいる。
黄アジブランドをざっとあげただけでも、山口萩の「瀬つきアジ」、島根浜田の「どんちっちアジ」、長崎の「ごんあじ」に「旬(とき)あじ」、宮崎延岡の「灘あじ」など等。



まだ生きているかのような黒々とした目をしている「活け造り」 

アジのトップブランド「関アジ」は黒アジだが、一本釣りで獲り、一日生け簀で寝かせ出荷直前にたくみな活け締めを行い、すばらしい身質で入荷する。ブランドではないが、淡路島周辺と、鹿児島の八代海を漁場とする出水(いずみ)のマアジはこだわりの強い寿司屋など全国のプロの料理人がこぞって賞賛する。



アジの仲間はどの種も尾に近い部分の側線に、ぜいご(ぜんご)と呼ばれる鋭い棘のようなウロコが発達しているのが特徴。


日持ちするのも嬉しい夏の常備菜。小アジ、豆アジをみかけたら「アジの南蛮漬け」にしたい。


魚のなかでフライにしてもっとも美味。フライ用の冷凍品でなく、一度鮮魚でお試しあれ。別世界のおいしさが待っている。

マアジはうまみ成分のイノシン酸が豊富で、脂肪量とのバランスが良く味は淡泊だが、開いて天日干しした干物は、味が凝縮され、生食とはまた違った旨みを楽しむことができる。また、動脈硬化や血栓の予防にもよいとされるDHA,EPAもサンマ、サバ以上に含まれている。
かくも懐の深いアジ、たかが大衆魚と侮ることなかれ。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】①さんが  

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年に東京・大阪で初めて開催。その後、地方開催の要望に応え、北は札幌、函館、八戸から南は沖縄糸満、鹿児島まで25の市町で開催へと広がり、小学生から80歳代まで世代を超えた累計2万4千名もの受検者を47都道府県から輩出しています。
昨年10回目を迎え、2019年6月23日(日)に酒田・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・鹿児島で開催されました。

詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/