日本の旬を知りたい! [二十四節気の魚 1月]
いよいよの2020年。この1月の二十四節気は6日の小寒、20日の大寒。寒さも厳しさを増すころだが、その次に来る二十四節気は立春。暦の上ではもう春の足音が聞こえてくる候というわけだ。1月にご紹介するのは、各メディアでも冬の風物詩として語られる魚の2題です。
小寒●1月6日●底魚の宝
寒さが厳しいこの時季、海の底に生息するこの魚は海の水が冷たくなるほどに皮下脂肪を蓄え、肝も大きくなってきます。 どうです、この肝のホイル蒸し。フレンチのフォアグラと並び称されるほど珍重されます。 が、こればかりではありません。「捨てるところなし」といわれるこの魚、肝や身に限らず「七つ道具」と呼ばれる異なる食感と味わいを持つ部位が名物鍋をひきたてます。 冬の味覚の食材として誉れ高いこの魚を選びなさい。
①鮟鱇 ②皮剥 ③河豚 ④真鱈
【解説】
「岐阜のあゆ、水戸のあんこう、明石だい」という言葉があるほど、古くから水戸のあんこう料理は全国の食通たちが、五指の中に入れるほど。偕楽園の梅で名高い水戸地方では「あんこうは梅の咲くまで」といわれ、冬場の名物料理だ。
江戸時代の川柳にもこうある。
魚へんに安いと書くは春のこと 柳多留
見た目からはちょっと想像できない美味しさをもつアンコウは深海性の魚で、海底の砂泥に半ば身を沈めて、背中に生えている糸状のひれをゆり動かし、餌にする小魚たちをおびき寄せる。この姿から英語ではアングラー・フィッシュ(釣りをする魚)という。大食漢で、おどろくほどの量の魚を丸のみする。 海底で、小魚が目の前に来るのを待ち伏せするアンコウのこの生態は、日本では「あんこうの待ち食い」ということわざに。働きもせずに儲けるたとえに使われる。「あんこう武者」という言葉もあった。格好ばかりで、口では強そうなことを言うがその実、臆病で卑怯、つまりは役に立たない侍をいった。 怠け者のイメージを持たれているアンコウ。が、食材とみるや、その評価はがらりと変わってくる。 アンコウは成長すると1.5メートルにもなり、そのうえくにゃくにゃとしてとらえどころがなく、全身がヌメリに覆われている。これではどんな料理名人でも、まな板の上で大型をおろすには始末に悪い。それでアンコウ産地で考え出されたのが、「吊るし切り」という独特の手法である。鉤(かぎ)に口を引っかけて吊るし、水を入れて腹を膨らませてさばくのだ。皮をむき、ヒレを落とし、腹に包丁を入れて肉をとり、臓物を切っていく。 最後に、鉤に残るのは口のまわりの骨だけだ。
鮟鱇は唇ばかり残るなり 江戸川柳
これを七つに分け、皮、肝臓、卵巣、胃袋、ひれ、白身、あご肉を「アンコウの七つ道具」と称し、肉より皮や臓物が美味とされる。捨てるところがない、と言われるゆえんだ。
古くからの産地である福島や茨城など常磐地方に見られる伝統の「吊るし切り」七つ道具をそれぞれ紹介してみよう。 ひれ(トモ):アンコウの両腕にあたる部分で付け根付近の食感がよい。 皮:女性に嬉しいコラーゲンがたっぷり。一品料理としては、とも酢和えが代表的。
胃袋の「とも酢和え」。蒸した肝を味噌と砂糖、酢で溶き、湯がいた身や胃袋、皮を和える。同じ魚で和えるから‘とも和え’という。えら:アンコウはエラも食べられる。弾力ある食感が楽しめる。 きも:肝臓の‘あん肝’は、酒肴としても絶大な人気を誇る。海のフォアグラともいわれ珍重される。肝の大きさでアンコウの価格が決まるほど。 胃袋(水袋):モツのような食感。湯通しして酢味噌で食べてもおいしい。 卵巣(ヌノ):これを鍋に入れると、体が温まるといわれる。ポン酢で食しても美味。 柳肉:身の部分。白身で淡泊。から揚げにしてもおいしい。
軟骨も食べられるアンコウのから揚げは、とり肉に似るフグに似る柳肉の刺身「あん刺し」。新鮮さゆえの産地の贅沢この七つ道具をすべて使うのが、あんこう鍋。 大きくわけると、しょうゆ仕立ての東京風。そして、本場、常磐では肝を溶かし込んだみそ仕立ての鍋となる。各部位をそのまま鍋にしてしまうと臭みがあるので、ぜひ湯通ししたい。下ごしらえは、ほぼそれだけで完了する。
から煎りした肝や味噌で濃厚に仕立てる常磐の味「どぶ汁」。身も心も温まる寒い冬にはもってこいの逸品である。もとは漁師の船上料理だったとか「東のあんこう 西のふぐ」とは東西の鍋の両横綱を並び称した言葉だが、近年のアンコウ水揚量日本一は、なんとフグの本場、下関である。 萩市の見島沖から対馬海峡にかけての日本海で漁獲されるアンコウは、沖合底びき網漁の基地、下関に水揚げされる。主に関西圏に出荷されているが、下関ではフグほどにはアンコウを食べる習慣がない。そこで、10月から2月に獲れた重さ2キロ以上のものを‘下関漁港あんこう’としてブランド化をめざしている。 下関のあんこう鍋は―といえば赤みそと白みそをブレンドして溶いただし汁に肝でコクを加えている。身や皮などを地元産の野菜やエビなどと煮込み、まろやかながら比較的あっさり仕上げた鍋だ。
ところで、腹が突き出ている超肥満型の関取を「あんこ型」というが、これは決して鯛焼きに詰める‘あんこ’のことではなく、姿かたちが魚のアンコウに似ているからで、言葉がつまって「アンコ型」となったそうだ。
②~④いずれも冬場に旬を迎える。②カワハギはアンコウと同様、肝が尊ばれ、その大きさが値段を決める。白身はフグに似たシコッとした身質をもち、甘みがあり旨みがあるのが特徴。肝じょうゆで食べるといっそうその美味しさがひきたつ。③フグ。アンコウと並び称される冬の味覚。④マダラ。フグ同様、白子が珍重される。ちり鍋が定番。
日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】①鮟鱇
大寒●1月20日●釣りたてをその場でかぶりつきたい
氷に穴を開け、糸を垂らして小さなアタリをじっと待つ。ワカサギ釣りは日本の冬の風物詩。大寒のこの時季に獲れる冬のワカサギは、脂がのり切って身が締まった食べ頃です。天ぷらにしていただくと、白身魚ならではの口当たりのよい食感が楽しめます。 徳川将軍家に献上されたことに由来するワカサギの漢字表記を選びなさい。
①香魚②公魚③千魚④年魚
【解説】
湖でのワカサギ釣りのイメージが定着していることもあって、ワカサギは淡水魚と思われがちだが、実際には海水魚に分類される。水温や水質に対して適応力が高いため、湖や沼などにも生息できる。
銀色に光る10センチ前後のワカサギ。飽きのこない優しい味わいをもつ、冬便りを告げる食材だ日本最大の漁獲量を誇る青森の小川原湖、そして茨城の霞ヶ浦(かすみがうら)、秋田の八郎湖、北海道の大沼、アマサギ、シラサギといった風雅な名で呼ばれる島根の宍道(しんじ)湖などが有名な漁場である。 氷上釣りの本場、長野県の諏訪(すわ)湖は大正4年に霞ヶ浦から移植され、いまや有数の稚魚生産地でもある。 このワカサギが漢字で「公魚」と書かれるのは、江戸時代に霞ヶ浦で獲れたワカサギは11代将軍・徳川家斉(いえなり)に献上され、「公儀御用魚」として扱われたためと伝わる。
脂のりのよさと骨の柔らかさが身上、霞ヶ浦産のワカサギ江戸時代に始まった霞ヶ浦のワカサギ漁は7月から12月まで。脂がのり骨がやわらかいことが特徴といわれる。地元ではこの特徴を生かした「半生の煮干し」を食べるのが伝統だ。ほかにも甘露(かんろ)煮、いかだ焼き、佃煮などの加工品は名産として昔と変わらず親しまれている。
霞ヶ浦名物「半生の煮干し」(左)といかだ焼き(右) 提供:天正氷結した湖での穴釣りで釣り上げたばかりのワカサギを、寒さしのぎの手あぶり用のコンロで焼いて食うのはうまいに違いない。またその場で揚げてもたまらないだろう。揚げ物は衣をゴテゴテつけるより、小麦粉をまぶす程度の素揚げにし、そこにひと塩すれば充分だ。
家庭ではひと手間かけるとご馳走に変身する。フライのマリネスナック感覚で食べられる加熱したワカサギは、何尾でもいけそうだが、揚げ物が余ったらぜひ南蛮漬けにしたい。このときは二度揚げするとよい。そもそも骨が柔らかく、骨ごと食べられる魚だが、より柔らかく食べるために、ひと手間を惜しまないように。 一度揚げたワカサギはしばらくそのままおいて常温まで冷ます。そうすると中の骨まで油がしみ込み、もう一度揚げたときの熱でしみこんだ油が骨をやわらかくしてくれる。ほかの魚にも適用できる二度揚げのコツだ。
パン粉に胡麻をまぶして揚げる、ごま風味のフライまた南蛮漬けは酸味と甘み、ピリッとした唐辛子の辛味がポイントだ。酸味を強くすればかなり長持ちするから、大事に味わって、冬を堪能したい。
淡泊な白身ゆえバリエーションが豊かなワカサギ。柳川風の卵とじ頭から尻尾まで丸かじり。骨ごと食べられるので、カルシウム補給にはもってこい。さらに低カロリーで鉄分、ビタミンBの含有量も豊富なワカサギ。 立春から3月にかけてのこれから、産卵期の子持ちが格別においしい時季を迎える。
ワカサギは独特のキュウリ臭がすると、嫌がる人もいる。それもそのはず、実はキュウリウオ科に分類されている。同じ科に属する③千魚(チカ)は北海道や三陸以北にすみ、姿も味もワカサギに似る。ただ、身も骨もよりしっかりしているので、天ぷらにするとやや硬く感じ、フライの方がむく魚。①香魚はスイカもしくはキュウリの香りが好まれるところから、④年魚は春に生まれ、秋に産卵、冬にはその一生を終えてしまう儚(はかな)さからついたアユ(鮎)の別名。
日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】②公魚
日本さかな検定(愛称:ととけん)とは
近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。 この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。 魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。 2010年に東京・大阪で初めて開催。その後、地方開催の要望に応え、北は札幌、函館、八戸から南は沖縄糸満、鹿児島まで25の市町で開催へと広がり、小学生から80歳代まで世代を超えた累計2万4千名もの受検者を47都道府県から輩出しています。 今年10回目を迎え、2019年6月23日(日)に酒田・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・鹿児島で開催されました。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。
日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/