日本の旬を知りたい! [二十四節気の魚 11月]
今年の二十四節気は、11月8日が「立冬」、11月22日が「小雪」。暦の上では、いよいよ冬到来の足音が近づいてきましたが、果たして長い秋となるのか? それとも一気に冬本番となるのか? このところ自然災害に見舞われている日本列島はどうなるのやらといったところです。 今月にご紹介するのは寿司ネタとしても人気の高級魚と、海のミルクとも言われる貝。魚の美味しい季節、食卓に旬を供える生活を意識したいところです。
立冬●11月8日●熟成の旨みは「鮮度が命」にあらず
- 提供:福山市
冬間近を感じさせる秋の深まりとともにうまみがのり、大きく育ってきました。 見た目に似合わずコクのあるその身は、白身の王様とも。白身魚の刺身では極上とされ、とりわけえんがわは食感も甘みも旨みも文句のつけようがないほどと称される、この魚を選びなさい。
①カレイ②カワハギ③ヒラメ④フグ
【解説】
「たいやひらめの舞い踊り」の言葉通り、春のマダイと並び称される、冬にうまい白身魚の代表格。水深50~200㍍の深海、砂地の色や周囲の環境に同調するよう体色や模様を変え、砂に身を隠して棲んでいる夜行性の魚だ。口が大きく、小魚やエビを主食としている。
程よい歯ごたえのあとに、ふわぁ~と広がる上品なクセのない甘み。一度味わったことのある方にはヒラメのおいしさはご承知のとおりだが、時期によって味に大きな差がある。 「三月鮃(ひらめ)は犬も食わぬ(または、猫またぎ)」とも昔からいわれ、また古川柳に「知恵のなさ四月鮃の刺身なり」と詠まれるとおり、ヒラメのおいしい時季は10月から2月までといっていいだろう。「産卵を終えて味が落ちる春から夏にはヒラメを仕込まない」との見識をみせるすし屋は少なくない。
ヒラメの薄造り。うまみの成分、イノシン酸が豊富なため、白身でも味にコクがある透き通るかのような白身はほどよく身が締まり、クセのない美味だから多くの人に好まれる。食味のよさで知られる縁側とよばれる部分は、くりくりっとした歯ざわりと口中でのとろけ具合がたまらない。ここはヒラメがよく使う背びれと腹びれを動かす筋肉。まずいわけがない。
食通が夢中になるヒラメの「縁側」とは、ヒレの基部にある骨にはさまる柱状の表裏・上下4本の筋肉をいう。1尾から少量しかとれない。魚は必ずしも鮮度が命とは限らない。数時間から数日ねかせておいた方がおいしくなるものがある。サイズの大きいマグロや硬い身をもつフグなどがそう。ヒラメもそのうちの一つだ。 食べる直前に締めたものは、コリコリとした歯ごたえで食感がいい。死後硬直する前で、筋肉が硬くなりかけているためだ。でも、そこにはうまみが足りず、本当に美味しいヒラメの風味を味わうことができない。
背側の身の握り。腹身にくらべ脂が少ないが、旨みと香りが深い締めてからすぐ食べても美味しい魚もある。しかしヒラメはもともと身が硬めなだけに、締めてから1~2日ねかせておくことで、死後硬直した身が酵素の働きで熟成され、うまみ成分が増し、身肉も適度にやわらかな食感になる。魚の性質を理解している店では、ヒラメは締めたてではなく、ねかせたものが出てくる。ヒラメの食べさせ方一つで、店のレベルがわかる。
ヒラメのもう一つの愉しみ、昆布締め。もともと冷蔵庫のない時代の保存食だ。食通垂涎の的、ヒラメ「縁側」の握り。ヒラメによく似ているカレイとの見分け方を示す「左ヒラメに右カレイ」という言葉がある。 体の左側に目があるのがヒラメ、右側にあるのがカレイという意味だが、もうひとつの見分け方が「口と歯」。ヒラメは魚食性のため、口が大きく歯がとがり、怖い顔をしている。一方。ゴカイ類などを食べるマコガレイやマガレイなどはおちょぼぐちで、歯も小さく、やさしげ印象がある。そのため「大口ヒラメの小口カレイ」ともいう。マガレイにはたとえば「口細(クチボソ)」という別名もある。
目の位置から「左ヒラメに右カレイ」という。向かって左がカレイ、右がヒラメ「ヒラメ関東、カレイ関西」は、昔から好まれてきた地域をあらわす。関東人がこよなく愛するヒラメは江戸前ずしではタイ以上の人気を誇る。
日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】③ヒラメ
小雪●11月22日●冷たい海が太らせる海のミルク。
冬の足音がすぐそこに聞こえるこの時季、牡蠣(かき)が冷たい海のなかでふっくらと育っています。 独特の旨みがたまらない海の味覚、カキ。あなたのお好みは、レモンを搾った生牡蠣、芳しい香りの焼き牡蠣、それとも食感がたまらない牡蠣フライでしょうか。 日本各地に産地があるなか、‘カキのあるところ’を表す地名の由来をもつ北海道の産地を選びなさい。
①厚岸 ②松島 ③的矢 ④安芸
【解説】
根室と釧路のほぼ中間にある厚岸は、江戸時代からニシンやサケ漁が盛んでアイヌ民族の中心都市だった。“アッケシ”はアイヌの言葉で‘カキのあるところ’という意味だ。最近は外国人観光客にも知られるようになり、彼らのお目当ては地元産カキ。ぷりぷりに太りコクがあり、まろやかなうまみが凝縮されている。 駅の近くには道の駅「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」がある。イタリア語で「貝の形をした食べ物」の意。館内には2017年春、おしゃれなオイスターバーもオープンした。 いまや全国各地に広がるカキの養殖産地。1673年ごろ、安芸国草津(現在の広島市西区)の小林五郎左衛門という漁師が、海中にひびを建てる養殖法を発見。以来、広島は日本一の産地に。広島の漁師たちは、採れた牡蠣を船に積んで大阪へ。幕府から独占営業権を得て、川に屋形船を浮かべて、牡蠣の販売とともに牡蠣料理を出すようになった。道頓堀や淀屋橋に浮かぶ牡蠣舟は戦前までは大阪名物だった。
大阪・淀屋橋の畔に今も見られる「かき舟」の名残り安芸の国、広島の郷土の味‘カキの土手鍋’。鍋の周りに味噌を塗りつけ、だしでカキと豆腐や葱などの野菜を煮ながら食べる。生ガキを使い、甘みのある白味噌、府中味噌を鍋の内側の周りに塗るのが本場流。食べる直前に味噌の土手を崩し、好みの味に調整する。ふっくら、プリプリした身と、とろりとした食感は日本人のみならず海外の偉人たちを魅了してきた。かのカエサル(シ-ザー)のイギリス遠征はカキを求めるためだったという説もあり、ナポレオンも牡蠣を常食していたといわれ、鉄血宰相ビスマルクは175個(!)を一度に平らげたという。バルザックやヘミングウェイら文豪も恐ろしく牡蠣好きだったそうだ。 魚介類の生食を敬遠する欧米人もこのカキだけは例外で、冬のパリの名物料理もレモンを添えた生ガキ。レストランではみんながオードブルに注文している。 魚介の生食の魅力を世界中に広めている日本だが、かつてはカキといえば熱を通したものに限られていた。近代になって洋風文化の移入とともにカキの生食が日本にも伝わったという。
国内生産量の1%程度ながら、食通をうならせてきた三重県の的矢ガキ欧州一のカキ生産を誇るフランス。その養殖中心地は世界遺産モン・サン・ミシェルで有名なノルマンディ地方だ。英仏海峡に挟まれたこの地域では、潮の満ち引きが激しく、ここのカキは一日に2回、空気にふれたり海に沈んだりを繰り返す。それに合わせてカキは殻を開けたり閉じたりするため、芳醇な身ができあがるといわれる。 1960~70年代にかけ、このノルマンディでカキの病気が蔓延し、壊滅状態に瀕した。廃業寸前に追い込まれた養殖業者たちは病気に強いカキを求め世界中を探し求め、たどり着いたのが宮城・松島湾で養殖されていた生命力の強い種ガキだった。 いまではフランスで流通しているカキの9割が松島のカキの子孫なのだ。 それから50年、今度は宮城県のカキが壊滅状態に陥る事態となる。 2011年3月11日、東日本大震災。 宮城のカキ生産者たちは津波によってほとんどの種ガキを失い震災直後、彼らのほとんどはその養殖を諦めかけていた。その時に立ち上がったのがフランスのカキ漁師たち。世界中から救援の手が差し伸べられるなか、フランスは三陸一帯のカキ生産者に向けて、必要な資材や義援金を支援した。 そして種ガキは日本一の産地、広島からの供給をうけ、三陸産のカキは復興への道を歩み始めている。
殻からジュッと汁がこぼれ、芳しい香りがあたりに広がるような焼きガキ旬を迎え、丸々と太ったカキを網で焼き、心ゆくまで味わいつくす今では全国で見られる牡蠣焼き小屋は、すっかり冬の風物詩に。 焼くときはまず、殻が平らなほうを下にして、一度返して汁気があふれてきたら食べ頃のサイン。そのままで、あるいはレモンを搾ったり、醤油をかけても。プリッとした食感の中から、海の濃厚な旨みと風味がほとばしる。火を通しすぎぬことがポイントだとか。
かくも人々を魅了し、世界を絆で結ぶ存在でもあるカキは「海のミルク」と呼ばれるほど栄養豊富な海の幸でもある。 たんぱく質、グリコーゲン、ミネラル、ビタミン各種などを豊富に含んでいるうえ、低カロリー。消化もよく、血中コレステロールを下げるタウリンも多く、まさに冬の優等生。かのクセものたちのような大食いはいかがなものかと思うが、たっぷり食べると、冬場の体力がつくこと、まちがいなし。
店頭にならぶむき身のマガキには、「生食用」と「加熱用」のラベルが貼られている。新鮮な方が「生食用」で、少し日が経った方が「加熱用」と思いがちだが、実は出荷前の作業で一定時間紫外線殺菌した海水で殺菌したものが「生食用」。殺菌せず、水揚げしてすぐに出荷したものが「加熱用」。決して加熱用のものの鮮度が悪いということはなく、むしろ栄養も旨みも多い。加熱するときは加熱用を選びたい。
日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】①厚岸(あっけし)
日本さかな検定(愛称:ととけん)とは
近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。 この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。 魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。 2010年に東京・大阪で初めて開催。その後、地方開催の要望に応え、北は札幌、函館、八戸から南は沖縄糸満、鹿児島まで25の市町で開催へと広がり、小学生から80歳代まで世代を超えた累計2万4千名もの受検者を47都道府県から輩出しています。 今年10回目を迎え、2019年6月23日(日)に酒田・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・鹿児島で開催されました。 詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。 日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/