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日本の旬を知りたい! [二十四節気の魚 9月]

9月8日は「白露」。露が下りて植物の葉が白く輝く頃、空気が冷えてきた様子を表わします。
そして9月23日は「秋分」。昼と夜の長さがほぼ同じで、太陽は真東から登り真西に沈む日にちです。
「秋分」は秋の真ん中の日というわけですが、果たして今年は残暑も終わっているでしょうか。
9月にご紹介するのは、いずれも日本人の魚食習慣にとってなくてはならない魚です。

白露●9月8日●なんでもござれの万能魚

胴に輝く黒い斑点。頭でっかちの肥満体。私たちにとってもっとも身近な魚、いわしがこの時季産卵をひかえて丸まると太っています。ふつう、いわしといえば、このマイワシ。料理はもちろん、しらす、飼料、油・・・なんでもござれの万能選手。斑点にちなんで、呼ばれているマイワシの別名を選びなさい。

①ななつぼし
②はかりめ
③もんだい
④やいと

【解説】

別名「七ツ星」のとおり、体には小さな黒い点がいくつも並んでいるが、たいてい7つより多く、十数個くらい。ほかに、私たちにとってなじみ深いのは、めざしやごまめに向くカタクチイワシに、丸干しに向くウルメイワシ。きびなごやにしんも実はいわしの仲間だ。
種類によって獲れる時期が異なるが、マイワシは脂がのる初夏から秋にかけて美味となる。とくに今の時期、産卵に備えて大きく育ち、栄養をため込む。
腹が太っているのは脂がのっている証拠。鮮度は目の黒さと体の斑点がはっきり見えること、体の張りなどで見極める。ウロコは大変落ちやすく、落ちていても鮮度が悪いとはいえないが、ついていればかなり新鮮。新鮮なものは刺身や酢の物、たたきなどに。塩焼き、煮付け、マリネ、つみれなどもおいしい。



脂のりがたっぷり、旨みが強いこの時季のいわしはやわらかく、とろけるよう。

いわしの煮付けといえば、醤油で炊くのが定番だが、脂もこくもある秋のいわしはできるだけ余計な調味料を使わずに炊くと、いわしがもっている本来の力強さがダイレクトに伝わる。塩でシンプルに炊き上げる「いわしの塩煮」はさっぱり感があるが、脂もおいしく、旨みが口の中にひろがるこの時季おすすめのひと品。



塩でつくると身が光ったように。青魚特有のいわしの臭みは酢を少し加えて煮ると消える。1尾に小さじ半分ほどの塩と、日本酒を加えると旨みがひき立つ


焼き物にすると、脂がポタポタ落ちるくらい非常に脂がのっていて旨みも強い

青魚特有の臭みをとるには、生姜や梅干しを使うといい。青魚に酸味が加わると、がぜんおいしくなる。



梅干しの酸味がきいた「いわしの梅干し煮」


いわしの煮付けの定番「しょうゆ煮」

たくさんある小骨はやわらかで、丸ごと食べられ栄養たっぷり。骨を丈夫にするカルシウムやその吸収を助けるビタミンDが豊富。コレステロールを下げる働きのあるEPAや頭の回転を良くするDHAもたっぷり含む。



いわしは身がやわらかいので、包丁は使わず、手で開くことだ。皮もきれいにとれる。

鰯裂くに 指先二本 安房(あわ)育ち  鈴木真砂女(まさじょ)

東京の銀座裏で小料理屋を切り盛りした俳人、故鈴木真砂女さんは魚どころの千葉県鴨川(安房地方)に生まれ、卒寿を過ぎても魚河岸に通い、厨房に立った女将でもあった。包丁がなくても親指の爪と人差し指二本でさばく。殺生の手ざわりに、滋味をいただく感謝も深まろう。

いわしは、私たちの食生活に欠かせない魚であると同時に、「海の米」とも「海の牧草」ともいわれ、世界中の海の生態系を支えるタンパク資源でもある。大きな群れをつくり回遊している姿は、まるで巨大な一つの魚のようで、その色は海の青と同化する保護色にもなっている。一致団結して集団でカツオやカジキ、マグロなど天敵から身を守る。



体に白い点が規則的に並んでいるアナゴは関東では②はかりめ(秤目)と呼ばれる。
体側面に弓道の的のような特徴的な黒色斑をもつマトウダイは能登地方で③もんだい(紋鯛)と呼ばれる。西洋では、キリストの使者ペテロの指紋が黒い紋として残ったと聖書に記されている。
フレンチではペテロの仏語読み“サンピエール(Saint pierre)”と呼ばれ、ポワレやムニエルの定番となる。

クロマグロの代替魚として、愛媛県や和歌山県で完全養殖されるようになり一躍注目を集めるスマは、胸びれの下に灸(きゅう)を思わせる黒い斑紋がある。これにちなみ西日本では④やいとの名がある。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】①ななつぼし

秋分●9月23日●日本の秋といえば、何といっても

惚れ惚れするような、この美しさ。誰もが知っている「秋」の代表的な魚、さんまの登場です。スラリとしたこの体型、銀白に輝く体色。背側の濃い青色が、この銀白色をより際立たせています。この姿形を表現した秋の味覚、さんまの漢字表記を選びなさい。


①秋味
②秋鯵
③秋鯖
④秋刀魚
【解説】

台風一過で秋本番。青空が広がり、秋風が吹くと、さんまがむしょうに恋しくなってくる。秋刀魚の文字どおり、刀身のようにスリムで銀色に腹を光らせたさんまの大群は、秋の訪れとともに親潮にのって太平洋岸の沖合いを南下する。
その体形から狭真魚(さまな)と呼ばれていたのが訛って‘さんま’になったともいわれる。とはいえ、この時季、たっぷり脂がのり、けっこう肥満体。小さな頭に、力士さながらに肩が盛り上がり、アンバランスなほどウエストも太る。南下するにつれ、適度に脂も抜けて、食べごろになっていく。

秋刀魚焼く 煙の中の 妻を見に  山口誓子

かつて路地裏では、七輪を持ち出し、ぼうぼう青白い煙をたて、さんまを焼く光景がどこでも見られた。戦後、電灯を使った「さんま棒受け網漁」という漁法が開発され、1960年ごろまでに漁獲量は飛躍的に拡大。どの家も晩ごはんのごちそうといえばさんま、それを焼く煙がよく火事に間違えられたという。ワタの苦味は格別で、強火でないと生臭さがとれない。



薄塩をした後で30分ほど冷蔵庫に置き、焼く前にもう一度振り塩を。熱々のところを大根おろしとすだちを添えて、醤油を少々。少し苦味のある内臓も見逃せない。

塩焼きが王道のさんまながら、昔ながらの料理法も知っておきたい。フライパンひとつでできる蒲焼きもその一つ。醤油、みりん、酒の味付けでもいいし、市販のうなぎのタレを使って好みで甘く、または辛くすればとても簡単に仕上がる。さんまの蒲焼きはいわし、うなぎと並ぶ三大蒲焼きのひとつ。
もう一つ、丸ごと食べる「生姜煮」は常備菜として重宝する。材料はさんまと刻み生姜だけのいわば、佃煮だ。酢と水を同量入れてことこと炊き上げる。骨も内臓も血合いもみんな一緒に食べられ、1週間は冷蔵庫で保存できる、毎日でも食べたい味だ。



やわらかくなった骨の食感も、わたのほろ苦さも味わえる「生姜煮」


さんまの握り寿司 ※築地玉寿司提供

かつては漁師の特権だったさんまの生食は、輸送技術と漁師の鮮度管理がもたらした新しい食べ方だ。遠い消費地でも可能になったのは2000年代に入ったころ。寿司や刺身はもちろん、サラダにカルパッチョ、たたき、なめろう。今のさんま人気を後押ししているのは、こうした生食の広がりだ。

新鮮でおいしいさんまの見分け方は、目が澄んでいること、口先が黄色いこと、そして頭が小さく見えるのは身が太っている証拠。



鮮度の良いさんまはご覧のように、口先が黄色い

7月初旬に北海道沖で初水揚げの報せが根室からとどき、秋の訪れとともに親潮にのって、大海原を回遊しつつ、太平洋を日本列島に沿う様に南下するさんまの群れ。ちょうどこの頃から10月ころまでに三陸沖を経て、常磐沖から房総沖へ。11月から初冬にかけて伊豆半島や紀伊半島の沖合いにやってくるころには、脂が落ち、身が引き締まってくる。伊豆地方の名物さんま寿司や、熊野地方のさんま丸干しにはこの脂がぬけたさんまが向く。ここ数年不漁のニュースがつづき、今年も出足が鈍く、気をもむ毎日が続く。

選択肢の①~③とも文字どおり、秋の味覚。①秋味はアキザケのこと。②あきあじ、③あきさば。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】④秋刀魚  

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年に東京・大阪で初めて開催。その後、地方開催の要望に応え、北は札幌、函館、八戸から南は沖縄糸満、鹿児島まで25の市町で開催へと広がり、小学生から80歳代まで世代を超えた累計2万4千名もの受検者を47都道府県から輩出しています。
今年10回目を迎え、2019年6月23日(日)に酒田・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・鹿児島で開催されました。

詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/