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日本の旬を知りたい! [二十四節気の魚 8月]

8月にある二十四節気は、8月8日の「立秋」と8月23日の「処暑」。いずれも夏の終わりを意味するところだが、実際の気候はいかがだろう?
今年は梅雨が長かったこともあって、夏の暑さは突然に舞い降りてきた感がある。夏本番はまだまだ続くといったところだろう。
さて今月は、もちろん焼いても蒸しても美味しくいただけるが、夏の納涼感を感じさせてくれるという点では、
ぜひぜひ刺身や洗いでいただきたいという白身魚の2題。

立秋●8月8日●「洗い」が絶品。味と風格の夏魚

春のマダイ、冬のヒラメとならぶ、夏を代表する白身魚です。
暑い夏には氷水で身を引きしめた「洗い」にかぎる、と食通に言わしめるこの出世魚を選びなさい。


①オニオコゼ
②キジハタ
③スズキ
④マゴチ

【解説】

お盆近くになると築地市場の食通たちが競って好むのが「洗い」。三枚におろした身を薄くそぎ切りして、冷たい氷水にくぐらせ、身を引きしめてから食べる調理法だ。白身がきゅっと縮んで独特な食感。さっぱりとして、なんともいえないコクがでる。
この「洗い」に欠かせないのがスズキ。江戸前の魚、すなわち東京湾の魚のなかで夏魚といえば、風格といい、味といい、右に出るものはいない。東京のスズキがうまいのは、昔から深川の祭りまでといわれてきた。深川の祭りといえば、勇壮な神輿で知られる冨岡八幡宮のそれで、祭礼は8月15日。
スズキはブリなどとならぶ出世魚のひとつで、生まれてからコッパ、セイゴ、フッコ、スズキと呼び名が変わる。立派に成長し体長が1㍍近くになったスズキは脂がたっぷり。「洗い」にすると余分な脂がとれる一方、コリコリ感が増し、氷水に浸すから納涼感もたっぷりだ。




精悍な顔に、銀色に輝くウエスト。すずしげな容姿がスズキという名前の由来とも。

繊細かつ淡泊な味わいのスズキは刺身もいい。身がシコシコしているので、薄造りにする。



眩しいほどの白身は透きとおるような白金色で、真珠のような輝きを放つ。白金色の背後には、ほんのわずかに気品ある淡いピンク色が配してある。

洗いや刺身のほかにも、夏のスズキは滑らかな舌触りをもち、かつクセがないため和洋中どんな料理にも合う。塩焼きやみそ焼きなどの焼き物、蒸し物、ムニエルなどにしてもおいしい。



スズキのポワレ。たっぷりのオリーブオイルに10分ほど漬けて、胡椒で下味を調える。オリーブオイルをまぶしながら焼き上げる。


島根県の松江名物“すずきの奉書(ほうしょ)焼き”は宍道(しんじ)湖産のスズキを塩で締め、水にぬらした和紙で幾重にも包んで蒸し焼きにする。奉書の香りが純白の白身にほんのりと移り、風味高い味わいとなる。提供:松江観光協会

夏の白身魚としては、タイやヒラメをもしのぐ味をもつスズキ。
暑い季節に脂がのると、昔から「土用に食えばお灸より効く」とも「絵に描いてなめても薬になる」とも語られた。事実、ビタミンA、ビタミンEのほかカリウムや鉄が含まれ、疲労回復や動脈硬化、骨粗しょう症などの予防にもいいといわれる。
また、夏のスズキの江戸料理のなかに、そうめんをつかった「鱸麺」というのもあり、やはりスズキは夏に似合う魚なのだ。



白身ならではの淡泊さのなかにも奥底にややくせのある滋味を含み、そのふた味がみごと渾然一体となってスズキのおいしさを生む。やわらかなうちにも張りのある歯ざわりが美味をよく引き立て、旬の夏になるとヒラメに替わって代表的な白身の鮨ネタになる。白身のご多分にもれず、締めてから時間が経つほどに旨みが生じてくる。そのほどよさを見きわめる職人のワザが試される魚の一つである。

①オニオコゼ、②キジハタ、④マゴチのいずれも夏の白身魚。


 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】③スズキ      

処暑●8月23日●夏の太陽も跳ね返す銀白の輝き

銀色の光沢が鮮やかな大型のこの魚。長細い体は1㍍以上にもなるため、一般の小売店では切り身になって店頭に並びます。脂肪が多いわりに、あっさりとした上品な味ゆえ、塩焼きやバター焼き、蒲焼き、竜田揚げなどの料理に利用できます。
夏から秋に旬を迎えるこの白身魚を選びなさい。


①アナゴ
②ウツボ
③タチウオ
④ハモ

【解説】

ほぼ1年を通じて日本近海で水揚げされるタチウオは、沿岸に回遊してくる夏から秋にかけて漁の最盛期を迎える。



提供:福山市

細身の魚体は全長1㍍超にも達し、銀白色に光って刀剣の太刀を思わせる。その姿から太刀魚の名がつけられたという。
江戸の小咄に
――とある一軒家に深夜「金を出せ」とギラギラ光る抜身をさげて強盗が押し入った。主人は恐ろしさに布団を頭から被ってふるえていたが、その時足許にもぐり込んでいたネコが突然刀にとびかかった。飼い主の危急を救うため身を挺して立ち向かうとはなんとも感心なネコよと、よくよく見れば、強盗のさげていたのはタチならぬタチウオだった――。
また、小魚などのエサを獲る際、なんと立ち泳ぎをして襲いかかることから立ち魚と呼ばれるようになったという説も。
漁師さんたちからは、幽霊魚とも呼ばれるタチウオ。神出鬼没でその姿をすぐに消してしまうという。魚群探知機に出る魚影は、パッと消えたり現れたり。これも、立ち泳ぎしているから魚影がつかみにくいといわれる。

身質がよく、どんな料理にしても美味で、熱を通すと淡泊な白身が旨みがグンと増すのが特徴のタチウオ料理の筆頭はやはり塩焼きだろう。骨離れがいいうえに、やわらかい白身がしっとり甘くておいしい。



焼けば脂がしたたり、脂肪の多い魚とわかるが、口にすれば身はきめ細かくあくまで上品淡泊、余韻にはほのかな甘みが。

淡泊な味だから、塩焼きのほかバターとの相性もよく、ムニエルなどフランス料理にも好まれる。塩焼きがいちばんの料理とされるが、鮮度がよければ刺身。クセがなく、こんなに食べやすくおいしいのかと驚かされる。
脂がのっているのに味わいはあっさり、刺身にすればタチウオの旨みが舌にはじけるのだ。



左は皮付きの炙り。皮をつけたまま炙ると、歯切れのいいやわらかさと香ばしさが愉しめる。右の刺身は、クセのない白身のほどよい脂にほのかな甘みが後からやってくる。


すし屋さんでは、銀の皮目をこんがり炙ってタネにすることも。提供:玉寿司

刺身はたしかにうまいが、ほかの魚以上に鮮度のよさを必要とする。タチウオ釣りが人気なのは、釣り人たちが刺身のおいしさを知っているからにちがいない。また、ギラリと光る大タチが釣れあがって宙に舞う姿は荘厳ですらある。
うろこの代わりに体をおおっている銀粉、この銀粉がどれだけ残っているかが鮮度の目安になる。新鮮なものは文字どおり太い刀のような白銀色を放ち、美しい。一年を通じてあまり味がかわらないのに夏が旬とされているのは、そんな涼しげな外見のせいもありそうだ。
味も美味な太刀魚だが、生活のうえでも実は関わりが深い魚。というのも、タチウオの体表を覆うグアニンと呼ばれる銀白色の物質はかつて模造真珠の表面を覆う材料にされ、近年では マニキュアやシャドウのラメにも使われていたのだ。

冒頭の画像は、山口県周防大島の新名物「太刀魚の鏡盛り」。
県内の漁獲量の6割を占める周防大島で、引き縄釣り漁で1尾ずつていねいに漁獲されたタチウオをブランド化しようと、5年ほど前に島の観光協会や漁師、料理人が一つになって誕生した。銀箔きらめく刺身を大皿にもりつけると、顔が映るほどにまぶしく光る鏡盛りになり、旬のすだちなどを香らせて食すそうだ。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】③タチウオ        

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年に東京・大阪で初めて開催。その後、地方開催の要望に応え、北は札幌、函館、八戸から南は沖縄糸満、鹿児島まで25の市町で開催へと広がり、小学生から80歳代まで世代を超えた累計2万4千名もの受検者を47都道府県から輩出しています。
今年10回目を迎え、2019年6月23日(日)に酒田・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・鹿児島で開催されました。

詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/