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日本の旬を知りたい! [二十四節気の魚 7月]

2019年の7月に登場する二十四節気は、7月7日の「小暑」と7月23日の「大暑」。
正確に言えば二十四節気は、その日から始まった約2週間の時期を指すので、大暑ならば8月7日の立秋前日までとなります。
「小暑」は夏に向かって次第に暑さが強まっていく頃を表わし、「大暑」は夏本番の到来という、最も暑い時期を表わします。
この7月に取り上げる2種類の魚はいずれも謎多き魚。見た目は似ていながら料理法も若干違ってきています。それぞれの魚食文化を感じ取っていただきたい2題です

小暑●7月7日●煮る関東 焼く関西

ふっくらとした口当たりのあとにまろい舌ざわりが広がり、口中いっぱいに心ざわめかす複雑な生きものの味わいを残してのどをすべり込んでいきます。江戸前の天ぷらや寿司が有名ですが、関東では煮る、関西では焼くのが主流と、くっきり嗜好が分かれます。江戸前の羽田沖や宮城県の松島湾、瀬戸内海に面した明石や赤穂、広島などが産地として名高いこの魚を選びなさい。


①アナゴ
②ウツボ
③ウナギ
④ハモ

【解説】

ウツボやハモと同様、ウナギの仲間であるアナゴはいまでは一年中見かけるが、梅雨時から脂がのってうまくなる魚だ。穴子は名のとおり穴を好む習性があり、夜間にイワシやイカなどのエサに誘われて筒に入ったところで漁獲される。



見た目とは、当てにならないものである。お茶目な顔して実は肉食。スリムなくせして大食らい。美食が彼らのモットーだ。なにしろ主食はエビやカニ、貝などだそうだから相当のグルメで、それをとってきて料理して食べるだからまずい筈はない。
家庭で簡単にできておいしいアナゴ料理といえば、あなご煮だ。だしに酒、みりん、醤油を加え、開いたアナゴを煮るだけという簡単な料理法。ポイントは落としぶたをして、できる限り細いとろ火でゆっくりと時間をかけて煮ること。時々菜ばしを使い、触れてみて、好みのやわらかさになったら出来上がり。アナゴ煮の際に、頭もあれば使うとよい。一度あぶった頭を鍋の中に一緒に入れるだけで、アナゴのだしが出て、ぐっと風味が増す。



ふんわりした食感、さっぱり上品な味を生かしたアナゴ煮は家庭料理にうってつけ。

関東の煮穴子には、短時間で醤油の色合いを漬けずに白く仕上げた沢煮と、とろけるほど柔らかく煮たものがある。



開き(冒頭の写真)を買うときは、身に弾力があり、体に透明感とぬめり感があるものを選ぶ。ところどころ色あせているものは鮮度が落ちている。


一方、焼き穴子は関西から瀬戸内にかけてよく見られるもので、「あなご飯」はこれをご飯にのせたもの。 アナゴを使った駅弁も全国各地に見ることができるが、とりわけ宮島口(広島県廿日市(はつかいち)市の「あなごめし」は売り切れご免の人気駅弁だ。宮島のアナゴ筒漁で使うエサは、カキのむき身だとか。


ふだん“ふわとろ”の穴子を食べなれている関東人からすると、別物ともいえる味わいと食感が愉しめる焼きアナゴの弁当。香ばしく、あとから濃厚なうまみがやってくる。提供:あなごめしうえの

ハモがいない北海道や東北ではアナゴをハモと呼ぶ。体側にならぶ白い斑点から、東京で秤竿(はかりざお)の目盛りに模してハカリメ、愛知ではメジロ、関西では特大のアナゴをデンスケと称す。



江戸前の天ぷらにはメソッコと呼ばれる15~35㌢ほどの脂肪の少ない若魚が好まれる。素揚げした「骨せんべい」はカルシウムの宝庫。

低カロリーで高たんぱく。しかもアナゴは目の働きを助け、肌を健康に保つビタミンAが豊富。ビタミンD、E、カルシウム、DHA、EPAなども多く含む。
そんなアナゴには解明されていない謎が多々ある。つい最近、ようやく産卵場所―日本最南端の沖ノ鳥島の南約380㌔でふ化後間もない仔魚(しぎょ)が採取された―が特定されたものの、産卵回数も不明、産みつけた卵も未だ発見されていない。しかも稚魚といわれる「ノレソレ」は、成長していく段階でいったん体長が縮み、体重が減るらしい。



白く透き通った美しい姿が、シラウオを思わせる「のれそれ」。生臭みがなく、さっぱりした上品な味の珍味で、主産地は瀬戸内海。生のままポン酢をつけて食べる「べらた」は岡山の郷土料理のひとつ。 提供:大阪府水産課  
 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】①アナゴ    

大暑●7月23日●土用丑の日

江戸時代の才人、平賀源内が仕掛け人ともいわれる「土用の丑(うし)の日」に欠かせないうなぎの蒲焼き。関東のようなとろける蒲焼きのほかに、うなぎには地方独特のおいしい食べ方が各地に根付いています。以下より、うなぎ料理にはあたらないものを選びなさい。


①きらすまめし
②せいろ蒸し
③ひつまぶし
④まむし

【解説】

夏の土用は、立秋前の18日間のことで、例年7月20日ころに土用入りする。その土用の時期にある丑の日が、土用丑の日。暑い盛りで夏ばてしないように、うなぎをはじめ、土用しじみ、土用もち、土用卵など精のつくものを食べる習慣が広がった。
年によっては丑の日が2回あり、それぞれ一の丑、二の丑と呼ばれる。昨年はその当たり年で、7月20日と8月1日がそれにあたった。



白焼き

食通が舌で書いたうなぎを味読すると、丑の日が何度あっても足りなくなる。食通で知られた作家の吉田健一は白焼きの茶漬けを推した。上等な吸い物のように、うなぎの味がのりとわさびに溶け合い、「海とも山とも付かない境地」と記す。
『万葉集』で大伴家持が「石(いわ)麻呂にわれ物申す夏痩せに良しといふ物ぞ鰻とり食(め)せ」と詠み、江戸時代に「本日土用丑の日、うなぎ召しませ」の名キャッチコピーが生まれて以来、この国の夏は、うなぎなしでは過ごせない。
開きにしたうなぎを甘辛いしょうゆのタレで味付けし、香ばしく焼き上げる。うなぎの蒲焼きは、長い歴史をもつ日本独特の調理法だ。現在の蒲焼きの原型は、江戸時代後期ごろから広まった。それ以前には、ぶつ切りにしたうなぎを串に刺して焼いて食べたという。その形状が植物の蒲(がま)の穂に似ていることから、「蒲焼き」の名がついたとの説もある。



蒲焼きの名の由来とされるぶつ切りのうなぎ焼き

「せいろ蒸し」は柳川の名物郷土料理。福岡では「うなぎといえば柳川」というほど有名。うなぎ料理といえば、柳川ではせいろ蒸しが当たり前。タレを絡めて味付けしたご飯の上に、蒲焼きにしたうなぎ、錦糸玉子を乗せせいろで蒸したものだ。最後まであつあつのまま食べられるように、また、うなぎの旨味を蒸すことによりご飯に染み込ませるためともいわれている。柳川市内には、老舗うなぎ料理屋が数多く存在し、各店舗で伝統のタレと暖簾を守り続けている。



柳川名物「せいろ蒸し」 提供:若松屋

名古屋名物「ひつまぶし」は一品で3つの味、ウナギを味わい尽くす食べ方だ。まずは、うな丼を4等分に区切る。最初の4分の1はそのまま食べ、2回目の4分の1には、刻んだねぎ、わさび、のりをのせ、ほどよく混ぜて食べる。3回目では、2回目の味にだしをかけ、お茶漬けにして食べる、そして最後は自分が最も好きな食べ方で食べる。というのが、地元流だとか。



なごやめしの人気No.1「ひつまぶし」 提供:名古屋めし普及促進協議会

「まむし食べに行こ」と聞けば、よその土地の人は、一瞬とまどう。呼び方も独特なら食べ方も独特。「まむし」とは、大阪でうな丼のことである。
鰻を腹開きにして切り分けずに直(じか)焼きし、蒸さずにご飯にまむしてやわらかく仕上げるから、鰻まむしとなる。武士の町であった江戸では、腹を切るのを忌んで背割きにし、頭を落として切り身にしたうなぎをまず焼いてから蒸すのに対し、町人の街・大阪では手早く腹から割(さ)き、頭をつけたままうなぎに串を打ち、素焼きにし、たれをつけながら炭火でじっくり焼き上げる。これを地焼きという。



江戸前と違い、頭つきのまま地焼きする。この蒲焼き頭は焼き豆腐と炊き合わせて「半助豆腐」という街場の味となる。

関西焼きともいわれるこの料理法は、やわらかく仕上げるのが容易でなく、蒸しという工程が入る関東焼きよりも高い技量が求められるという。

土用丑の日には、「う」の付く食べ物がよいとされた。うなぎのほか、うどん、うり、馬肉(うま)、牛肉(うし)、そして梅干し。昔からウナギと梅干しは食べ合わせが悪く、消化不良を起こすなどといわれてきたが、科学的な根拠はないようだ。ビタミンB1が多く含まれるウナギと、梅干しに含まれるクエン酸にも疲労回復効果があるため、むしろ夏ばて予防に高い効き目があるようだ。
ところで、江戸前の蒲焼きが現在の外食文化のさまざまな事物のルーツだということをご存知だろうか。
江戸前鰻はなにしろ、こしらえる手間がかかる。こんなうまいものをもっと手軽に食う方法はないか、ということでいろいろな工夫が考えられた。 鰻は食べたいが、どうしても店に行けないことがある。ときには身分をはばかって行けない人もいた。そんなある人は「おから鰻」というものを考案する。おからを煎(い)って、薄く醤油で味つけし、熱くしたやつを重箱に詰める。それに蒲焼きを入れてもってくると熱々が食べられるという寸法だ。今でいうテイクアウトの最初だろう。



次に商品券。先に代価を支払い、受取書付(かきつけ)にお代を書き入れてとっておき、これを贈答としてつかうというものだ。手数はかかるが、相手の好きなときに蒲焼きをご馳走できるというわけである。
丼物も実は鰻から生まれた。
忙しくて食べに出られない人が、取り寄せたのでは焼き冷ましになってしまう。そこで一計を案じて、熱い丼飯に鰻をのせて蓋(ふた)をしたら、よい具合に蒸されてとてもうまかった。ほどなくして市中の鰻屋の看板に「丼うなぎ飯」が掲げられるようになったという。
すなわち丼物の元祖となる。
外食に欠かせない割箸(わりばし)。
鰻の脂とタレの染みた飯をいっしょに食べる鰻丼では、箸にべっとりとついた汚れが容易に洗い流せない。そこで使い捨ての箸がよいとよろこばれた。後には各種飲食店に広まったという。


そんなウナギをめぐる昨今は安泰とはいえないのが実情である。
ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されて久しく、今シーズンのシラスウナギ漁――ウナギの稚魚、シラスウナギを捕獲し養殖池で育てる養殖うなぎが国内流通量の99%強をしめている――も昨年に続き不漁に終わり、来夏も品不足必至という。
ありがたくも心して、召しませ。



①の「きらすまめし」は大分県臼杵(うすき)市の郷土料理でしょう油に漬けたアジやサバ、ブリの切身におから(きらす)を和えたもの。


 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】①きらすまめし      

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年に東京・大阪で初めて開催。その後、地方開催の要望に応え、北は札幌、函館、八戸から南は沖縄糸満、鹿児島まで25の市町で開催へと広がり、小学生から80歳代まで世代を超えた累計2万4千名もの受検者を47都道府県から輩出しています。
今年10回目を迎え、2019年6月23日(日)に酒田・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・鹿児島で開催されました。

詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/