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さかな歳時記「二十四節気・小寒」 津軽海峡から豊洲へ。

二十四節気●小寒●1月6日

東京・豊洲市場で5日、新春の初競りがありました。10月に築地市場から移転して初めて迎えた正月。
毎年高値が話題になる生の本マグロは、278㌔の大物が史上最高値の3億3360万円(1㌔120万円)で落札されました。
豪快な一本釣りで名高い、この本マグロの産地を選びなさい。


①青森県大間
②青森県三厩(みんまや)
③函館市戸井
④松前
   
【解説】

マグロといっても、その種類はさまざま。寿司屋などで使われるホンマグロ(正式名:クロマグロ)やインドマグロ(同:ミナミマグロ)、スーパーなどで売られている比較的安価なメバチマグロやキハダマグロ、回転寿司でよく見かけるビンナガ(同:ビンチョウマグロ)などがある。
なかでも最も旨く、最も高値がつくのが日本近海で獲れる本マグロ。台湾付近が産卵場所で、小型のマグロは太平洋と日本海に分かれ、日本列島沿岸付近を北上する。津軽海峡付近まで北上すると今度は逆に南下を始める。これは餌となるイワシやイカなどを追って動くためだ。
成長した中・大型の本マグロは、サバやイカを追いかけ、今度は太平洋側と日本海側の沖合を北上する。そして津軽海峡に入る群れ、北海道沿岸をさらに北上する群れなどに分かれ、その一部は太平洋を回遊し、アメリカ大陸沿岸まで達するものとみられている。
日本近海を回遊し、時季によって獲れる場所も異なるため、それぞれの味わいにも特徴がある。津軽海峡では、特に秋から冬にかけて、サバやサンマ、イカをたっぷり食べ、脂がのった大型のものが一本釣りで揚がることが多く、最高級品として知られる。



大間港に水揚げされる巨大な本マグロ  提供:大間町観光協会

津軽海峡は意外に狭い。青森・大間の岬に立つと、天気のいい日には18kmほど先の函館が真近に見える。この狭い海は有数のマグロ漁場であり、青森側の大間、三厩、函館側の戸井といった漁港の名がつくマグロはブランド化している。



大間岬には「まぐろ一本釣りの町」を象徴するモニュメントが 提供:大間町観光協会

大間は一本釣りの船が多い。4㌧程度の小型の船で荒波に立ち向かい、ときには200kg、あるいは300kg以上もある大物を、文字通り一本の釣り糸だけで揚げる。しかも、数多くの漁船が大物を求め、狭い漁場に密集するのだ。



トロと赤身の握り、そして鉄火巻き 赤身はさわやかな血潮の香りと密度の濃いうまみ、トロは濃厚でありながら決してしつこくない。シャリとよくなじみ、寿司のためにある、とさえ思える。提供:大間町「浜寿司」

今は魚群探知機などでマグロの群れを探しながら漁をするが、マグロは釣り糸を見抜き、しかも最高時速100km近い速さで泳ぐという相手である。機械任せで釣れるほど甘くない。海流や海底の地形などを考慮に入れ、マグロの行動を予測しなければならない。さらに、先回りできたとしても、どの餌―生きたサバやイカを使う―をどのタイミングで入れるか、経験と勘を最大限に活用する真剣勝負だ。
マグロがかかると、それこそ格闘が始まる。1983年に映画化された吉村昭原作の「魚影の群れ」(相米慎二監督、緒方拳、夏目雅子、佐藤浩市出演)のマグロを釣り上げるまでの壮絶な格闘シーンは大間を舞台にしている。
船に引き揚げる際に、電気ショッカーで一瞬にして気絶させ、船に揚げるとすかさず尾を落とし、内臓を外し、脳天と尾から神経を抜く。そして腹に水をたっぷり入れ、船倉の氷の中にしまい込む。
この血抜きと冷やし込みの作業が最も重要だという。マグロは体温がなかなか下がらず、釣り上げたままにしておくと自分の熱で身が焼けてしまう。身焼けすると売り物にはならない。いくら大物を釣り上げたとしても、冷やし込みをきちんとしないと値がつかないのだ。



競り落とされたマグロは、仲卸の店に運ばれ、解体される。1m以上の長さのマグロ包丁を使い、2~3人がかりで丁寧に切り分けていく。身を傷めず、きれいにおろすには高度の技術を必要とする

3億3千万あまりの史上最高値で競り落とされた本マグロは、1月4日午前4時20分ごろ、津軽海峡の竜飛岬沖合1kmの海域で約20分かけ釣り上げられたという。278㌔の魚体は4.9㌧の漁船の水槽に入りきらず、船上で腹に氷を詰め込んで港に水揚げ。約14時間かけて豊洲に運んだ。
これまでの最高値は2013年の初競りで、やはり大間産の222㌔のクロマグロ。1億5540万円(1㌔70万円)だった。



江戸前伝統の赤身の漬け

   

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】①青森県大間     
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年に東京・大阪で初めて開催。その後、地方開催の要望に応え、北は札幌、函館、八戸から南は沖縄糸満、鹿児島まで25の市町で開催へと広がり、小学生から80歳代まで世代を超えた累計2万4千名もの受検者を47都道府県から輩出しています。 来年10回目を迎え、2019年6月23日(日)に石巻・酒田(予定)、東京・静岡・名古屋・大阪・鹿児島などで開催いたします。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。
日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/