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さかな歳時記「二十四節気・小雪」 神の魚、降臨。

二十四節気●小雪●11月22日

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木枯らしを引きつれ、首都圏にもやってきました。11月、シーズンの前触れを告げるように北海道産や山形県産が入荷。やがて北風が舞い込む12月、秋田県産の登場で、本格的なシーズンに入ります。
雪に閉ざされた里海へ、雷鳴と潮鳴りをとどろかせやってくるこの魚、漢字で書けば、魚に神で「鰰」。秋田県にとっては、ソウルフードのこの魚を選びなさい。


①キビナゴ
②ニシン
③ハタハタ
④ワカサギ
 
【解説】

ハタハタには地域によって異なる旬が二度ある。東北の旬は晩秋から初冬。秋田県の男鹿半島沿岸ではこの時季、深海魚のハタハタが産卵のため沖合から沿岸にやってくる魚群をねらう定置網漁が主体。一方、北陸から山陰沖の旬は春。エサの多い深海へ回遊するハタハタを底びき網漁でとる。こちらは産卵魚でないため、脂のりがよく、干物などに加工されることが多い。
♪秋田名物、八森はたはた、男鹿で男鹿ぶりこ・・・と秋田音頭で歌われる「ぶりこ」とはハタハタの卵のことだ。



ハタハタの卵は「ブリコ」と呼ばれ、特有のぬめりとプチプチした食感が特徴だ。


秋田県男鹿半島の沿岸。この季節、海岸をブリコが埋めつくす

ハタハタの子なのになぜブリコと呼ばれるのか。江戸時代に水戸から秋田に移された佐竹の殿様――現在の佐竹敬久(のりひさ)秋田県知事はその子孫で21代目にあたる――が、太平洋で獲れるブリを懐かしんでハタハタをブリと呼び、そこからブリコと呼ばれるようになった、と。もう一説あり、ときの領主が抱卵するハタハタを禁漁としたため、庶民はブリの子と称して食べたからとも伝わる。
ふだんのハタハタは、水深100~400㍍ほどの深場の砂泥地に生息している。12月に水温が急速に下がる浅瀬にやってきて、水深5㍍前後のホンダワラなどの藻場に産卵する。メス1尾が1000~2500粒の卵を持ち、オスとともに大群で押し寄せるというから想像するだけで壮観である。
「鰰」と書かれるのは、初冬の雷が鳴るころに沿岸に近寄ってくるのと、その雷を神様にたとえたことが由来だとか。



晩秋から初冬にかけわずか1ヵ月ほどの漁期。男鹿半島の漁師たちはよほどの時化でないかぎり、船をだす


ハタハタ漁の初物はオスメスを腹合わせにして神棚にお供えし、そのシーズンの豊漁を祈るのが漁師たちの習いだ

やわらかくて上品な味わいのハタハタは塩焼きや一夜干しが最高ながら、郷土の味「しょっつる(塩汁)」ははずせない。しょっつるは塩漬けにしたハタハタを長時間貯蔵し、そこからしみでる汁をこしたもの。ハタハタはこのしょっつる鍋の材料にも使われる。



一夜干しの炭火焼。上品な脂が香り立つ焼きたてのおいしさは最高


ウロコも小骨のないハタハタは小さな子どもにも安全。頭と尾をはずして、身をタテに箸で何度かつまめば中骨はするっとはずれる

秋田のハタハタはそのおいしさもさることながら、資源を守るための活動が地元漁業者を中心に行われている点が注目されている。年によっては全面禁漁も実施。将来資源が減少しないために幼魚の漁獲を避けることや、水揚量の制限を申し合わせている。


 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】③ハタハタ    
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。 魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。 平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――5月21日申込み締切り(5名以上のグループ受検は5月14日締切り」となっております。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。
日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/