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さかな歳時記「二十四節気・白露」 不漁一転 今年こそ

二十四節気●白露●9月8日

秋の訪れを前にサンマ漁が始まり、店先でも初物を見かけるようになったのは旧盆のころ。一尾300円台の値札に臆していたら、8月の終わりには食指がのびる100円台にまで。
近年は漁獲が減り、特に昨年は記録的な不漁だったのに比べて今年は期待が持てるようです。刺身にまで料理の幅を広げた昨今のサンマ。とはいえ、秋の気配が濃厚になるにつれ、あの煙にいぶされた塩焼きのおいしさは捨てがたいものです。
ほろ苦いワタ(内臓)こそサンマのうまさとまでいわれるほど、内臓もおいしく食べられるその理由を選びなさい。


①骨が少なく身離れがいい
②消化がとても早い
③胃や腸が長く大きい
④餌をほとんど食べない

【解説】

季節感が薄らいできた昨今だが、それでも秋は彩り豊かだ。横綱格は秋刀魚だろう。
全国紙が「今年も食べたい秋の味覚」を読者に聞いたら、ほかを断然引き離していた。2位に新米が入り、3位梨、4位松茸、5位は栗、6位の柿までは団子レース。海育ちは12位の戻り鰹まで姿が見えず、秋刀魚の独壇場である。
食べておいしいだけでなく、秋によく似合う。秋刀魚を焼く光景は一幅の絵画である、と言ったのは魚博士で知られた末広恭雄だった。したたる脂が炭火にはぜる。煙は流れて、夕靄(もや)にとけこんでいく。そこはかとない郷愁が呼びさまされる。

あはれ 秋風よ
情(こころ)あらば伝へてよ
――男ありて 今日の夕餉(ゆうげ)に
ひとり さんまを食(くら)ひて
思ひにふける と

佐藤春夫の名詩もあって、この大衆魚のイメージは不動である。こればかりはタイもヒラメも代役はつとまらない。

しみじみとして、ときにほろ苦くもあるサンマの味わいを人生に重ねたくなるのはだいたいが昭和世代である。
聞けば最近は、腸なんか捨てて開きにしてね、という客も多いそうだが、あの腸(はらわた)の苦味こそがサンマの味だと言い張るのも、かの世代の特徴かも。



惚れ惚れするような、この美しさ。スラリとしたこの体型、銀白に輝く体色。背側の濃い青色が、この銀白色をより際立たせている。この姿形を表現したのが「秋刀魚」という漢字だ。

サンマは北太平洋を回遊し、夏から秋にかけて、産卵のために日本の沿岸を南下する。秋の味覚といわれるのはこのためだが、近年は日本沿岸で不漁が続き、現在の不漁は2010年からで長期化している。とくに昨年は半世紀ぶりの不漁だった。
今シーズンは記録的な不漁から一転、9月初旬まで主産地の北海道の水揚量は前年を上回っている。
サンマ漁は資源保護のため、出漁する船の大きさで解禁日が決めてある。七夕が過ぎてすぐにやってくる初物は試験操業によるもので、刺し網漁でおこなわれる。実際のサンマ漁は棒受け網漁といって、夜間、船の片側に突き出した棒に明かりを照らし、その明かりに誘われてやってきたところを網ですくう。



さんま棒受け網漁船

その棒受け網漁解禁日が7月15日で、まずは5㌧未満の船から始まる。それ以後、しだいにトン数が大きくなり、8月の旧盆を過ぎると、100㌧以上の船が解禁に。本格的なシーズンに入る。
9月のサンマの水揚げは、根室・花咲(はなさき)、厚岸(あっけし)釧路と北海道が中心だ。

塩焼きが王道のさんまながら、昔ながらの料理法も知っておきたい。フライパンひとつでできる蒲焼きもその一つ。醤油、みりん、酒の味付けでもいいし、市販のうなぎのタレを使って好みで甘く、または辛くすればとても簡単に仕上がる。さんまの蒲焼きはいわし、うなぎと並ぶ三大蒲焼きのひとつ。
もう一つ、丸ごと食べる「生姜煮」は常備菜として重宝する。材料はさんまと刻み生姜だけのいわば、佃煮だ。酢と水を同量入れてことこと炊き上げる。骨も内臓も血合いもみんな一緒に食べられ、1週間は冷蔵庫で保存できる、毎日でも食べたい味だ。
かつては漁師の特権だったさんまの生食は、輸送技術と漁師の鮮度管理がもたらした新しい食べ方だ。遠い消費地でも可能になったのは2000年代に入ったころ。寿司や刺身はもちろん、サラダにカルパッチョ、たたき、なめろう。今のさんま人気を後押ししているのは、こうした生食の広がりだ。



やわらかくなった骨の食感も、わたのほろ苦さも味わえる「生姜煮」


さんまの握り寿司 築地玉寿司提供

塩焼きサンマの内臓がおいしく食べられるその理由(わけ)は、サンマには胃がなく、腸も短いので食べたものが消化後すぐに排泄されるからだ。ただし、内臓は鮮度が落ちやすいので、新鮮なものを厳選したい。
新鮮でおいしいサンマの見分け方は、目が澄んでいること、口先が黄色いこと、そして頭が小さく見えるのは身が太っている証拠。

この週末には脂ののった太いやつを焼いて、まるごと楽しもうか・・・。



鮮度の良いさんまは口先が黄色い

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】②消化がとても早い    
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。
また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――5月21日申込み締切り(5名以上のグループ受検は5月14日締切り」となっております。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/