さかな歳時記「二十四節気・立秋」 「洗い」が絶品。味と風格の夏魚
二十四節気●立秋●8月7日
春のマダイ、冬のヒラメとならぶ、夏を代表する白身魚です。 暑い夏には氷水で身を引きしめた「洗い」にかぎる、と食通に言わしめるこの出世魚を選びなさい。
①オニオコゼ②キジハタ③スズキ④マゴチ
【解説】
お盆近くになると築地市場の食通たちが競って好むのが「洗い」。三枚におろした身を薄くそぎ切りして、冷たい氷水にくぐらせ、身を引きしめてから食べる調理法だ。白身がきゅっと縮んで独特な食感。さっぱりとして、なんともいえないコクがでる。 この「洗い」に欠かせないのがスズキ。江戸前の魚、すなわち東京湾の魚のなかで夏魚といえば、風格といい、味といい、右に出るものはいない。東京のスズキがうまいのは、昔から深川の祭りまでといわれてきた。深川の祭りといえば、勇壮な神輿で知られる冨岡八幡宮のそれで、祭礼は8月15日。 スズキはブリなどとならぶ出世魚のひとつで、生まれてからコッパ、セイゴ、フッコ、スズキと呼び名が変わる。立派に成長し体長が1㍍近くになったスズキは脂がたっぷり。「洗い」にすると余分な脂がとれる一方、コリコリ感が増し、氷水に浸すから納涼感もたっぷりだ。
精悍な顔に、銀色に輝くウエスト。すずしげな容姿がスズキという名前の由来とも。繊細かつ淡泊な味わいのスズキは刺身もいい。身がシコシコしているので、薄造りにする。
眩しいほどの白身は透きとおるような白金色で、真珠のような輝きを放つ。白金色の背後には、ほんのわずかに気品ある淡いピンク色が配してある。洗いや刺身のほかにも、夏のスズキは滑らかな舌触りをもち、かつクセがないため和洋中どんな料理にも合う。塩焼きやみそ焼きなどの焼き物、蒸し物、ムニエルなどにしてもおいしい。
スズキのポワレ。たっぷりのオリーブオイルに10分ほど漬けて、胡椒で下味を調える。オリーブオイルをまぶしながら焼き上げる。島根県の松江名物“すずきの奉書(ほうしょ)焼き”は宍道(しんじ)湖産のスズキを塩で締め、水にぬらした和紙で幾重にも包んで蒸し焼きにする。奉書の香りが純白の白身にほんのりと移り、風味高い味わいとなる。提供:松江観光協会夏の白身魚としては、タイやヒラメをもしのぐ味をもつスズキ。 暑い季節に脂がのると、昔から「土用に食えばお灸より効く」とも「絵に描いてなめても薬になる」とも語られた。事実、ビタミンA、ビタミンEのほかカリウムや鉄が含まれ、疲労回復や動脈硬化、骨粗しょう症などの予防にもいいといわれる。 また、夏のスズキの江戸料理のなかに、そうめんをつかった「鱸麺」というのもあり、やはりスズキは夏に似合う魚なのだ。
白身ならではの淡泊さのなかにも奥底にややくせのある滋味を含み、そのふた味がみごと渾然一体となってスズキのおいしさを生む。やわらかなうちにも張りのある歯ざわりが美味をよく引き立て、旬の夏になるとヒラメに替わって代表的な白身の鮨ネタになる。白身のご多分にもれず、締めてから時間が経つほどに旨みが生じてくる。そのほどよさを見きわめる職人のワザが試される魚の一つである。①オニオコゼ、②キジハタ、④マゴチのいずれも夏の白身魚。
日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】③スズキ
日本さかな検定(愛称:ととけん)とは
近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。 この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。 魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。 平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――5月21日申込み締切り(5名以上のグループ受検は5月14日締切り」となっております。 詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。
日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/