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さかな歳時記「二十四節気・大暑」 土用丑の日

二十四節気●大暑●7月23日

江戸時代の才人、平賀源内が仕掛け人ともいわれる「土用の丑(うし)の日」に欠かせないうなぎの蒲焼き。関東のようなとろける蒲焼きのほかに、うなぎには地方独特のおいしい食べ方が各地に根付いています。以下より、うなぎ料理にはあたらないものを選びなさい。


①きらすまめし
②せいろ蒸し
③ひつまぶし
④まむし

【解説】

夏の土用は、立秋前の18日間のことで、例年7月20日ころに土用入りする。その土用の時期にある丑の日が、土用丑の日。暑い盛りで夏ばてしないように、うなぎをはじめ、土用しじみ、土用もち、土用卵など精のつくものを食べる習慣が広がった。
年によっては丑の日が2回あり、それぞれ一の丑、二の丑と呼ばれる。今年はその当たり年で、7月20日と8月1日がそれにあたる。



白焼き

食通が舌で書いたうなぎを味読すると、丑の日が何度あっても足りなくなる。食通で知られた作家の吉田健一は白焼きの茶漬けを推した。上等な吸い物のように、うなぎの味がのりとわさびに溶け合い、「海とも山とも付かない境地」と記す。
『万葉集』で大伴家持が「石(いわ)麻呂にわれ物申す夏痩せに良しといふ物ぞ鰻とり食(め)せ」と詠み、江戸時代に「本日土用丑の日、うなぎ召しませ」の名キャッチコピーが生まれて以来、この国の夏は、うなぎなしでは過ごせない。
開きにしたうなぎを甘辛いしょうゆのタレで味付けし、香ばしく焼き上げる。うなぎの蒲焼きは、長い歴史をもつ日本独特の調理法だ。現在の蒲焼きの原型は、江戸時代後期ごろから広まった。それ以前には、ぶつ切りにしたうなぎを串に刺して焼いて食べたという。その形状が植物の蒲(がま)の穂に似ていることから、「蒲焼き」の名がついたとの説もある。



蒲焼きの名の由来とされるぶつ切りのうなぎ焼き

「せいろ蒸し」は柳川の名物郷土料理。福岡では「うなぎといえば柳川」というほど有名。うなぎ料理といえば、柳川ではせいろ蒸しが当たり前。タレを絡めて味付けしたご飯の上に、蒲焼きにしたうなぎ、錦糸玉子を乗せせいろで蒸したものだ。最後まであつあつのまま食べられるように、また、うなぎの旨味を蒸すことによりご飯に染み込ませるためともいわれている。柳川市内には、老舗うなぎ料理屋が数多く存在し、各店舗で伝統のタレと暖簾を守り続けている。



柳川名物「せいろ蒸し」 提供:若松屋

名古屋名物「ひつまぶし」は一品で3つの味、ウナギを味わい尽くす食べ方だ。まずは、うな丼を4等分に区切る。最初の4分の1はそのまま食べ、2回目の4分の1には、刻んだねぎ、わさび、のりをのせ、ほどよく混ぜて食べる。3回目では、2回目の味にだしをかけ、お茶漬けにして食べる、そして最後は自分が最も好きな食べ方で食べる。というのが、地元流だとか。



なごやめしの人気No.1「ひつまぶし」 提供:名古屋めし普及促進協議会

「まむし食べに行こ」と聞けば、よその土地の人は、一瞬とまどう。呼び方も独特なら食べ方も独特。「まむし」とは、大阪でうな丼のことである。
鰻を腹開きにして切り分けずに直(じか)焼きし、蒸さずにご飯にまむしてやわらかく仕上げるから、鰻まむしとなる。武士の町であった江戸では、腹を切るのを忌んで背割きにし、頭を落として切り身にしたうなぎをまず焼いてから蒸すのに対し、町人の街・大阪では手早く腹から割(さ)き、頭をつけたままうなぎに串を打ち、素焼きにし、たれをつけながら炭火でじっくり焼き上げる。これを地焼きという。



江戸前と違い、頭つきのまま地焼きする。この蒲焼き頭は焼き豆腐と炊き合わせて「半助豆腐」という街場の味となる。

関西焼きともいわれるこの料理法は、やわらかく仕上げるのが容易でなく、蒸しという工程が入る関東焼きよりも高い技量が求められるという。

土用丑の日には、「う」の付く食べ物がよいとされた。うなぎのほか、うどん、うり、馬肉(うま)、牛肉(うし)、そして梅干し。昔からウナギと梅干しは食べ合わせが悪く、消化不良を起こすなどといわれてきたが、科学的な根拠はないようだ。ビタミンB1が多く含まれるウナギと、梅干しに含まれるクエン酸にも疲労回復効果があるため、むしろ夏ばて予防に高い効き目があるようだ。
ところで、江戸前の蒲焼きが現在の外食文化のさまざまな事物のルーツだということをご存知だろうか。
江戸前鰻はなにしろ、こしらえる手間がかかる。こんなうまいものをもっと手軽に食う方法はないか、ということでいろいろな工夫が考えられた。 鰻は食べたいが、どうしても店に行けないことがある。ときには身分をはばかって行けない人もいた。そんなある人は「おから鰻」というものを考案する。おからを煎(い)って、薄く醤油で味つけし、熱くしたやつを重箱に詰める。それに蒲焼きを入れてもってくると熱々が食べられるという寸法だ。今でいうテイクアウトの最初だろう。



次に商品券。先に代価を支払い、受取書付(かきつけ)にお代を書き入れてとっておき、これを贈答としてつかうというものだ。手数はかかるが、相手の好きなときに蒲焼きをご馳走できるというわけである。
丼物も実は鰻から生まれた。
忙しくて食べに出られない人が、取り寄せたのでは焼き冷ましになってしまう。そこで一計を案じて、熱い丼飯に鰻をのせて蓋(ふた)をしたら、よい具合に蒸されてとてもうまかった。ほどなくして市中の鰻屋の看板に「丼うなぎ飯」が掲げられるようになったという。
すなわち丼物の元祖となる。
外食に欠かせない割箸(わりばし)。
鰻の脂とタレの染みた飯をいっしょに食べる鰻丼では、箸にべっとりとついた汚れが容易に洗い流せない。そこで使い捨ての箸がよいとよろこばれた。後には各種飲食店に広まったという。


そんなウナギをめぐる昨今は安泰とはいえないのが実情である。
ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されて久しく、今シーズンのシラスウナギ漁――ウナギの稚魚、シラスウナギを捕獲し養殖池で育てる養殖うなぎが国内流通量の99%強をしめている――は不漁に終わり、来夏は品不足必至という。
ありがたくも心して、召しませ。



①の「きらすまめし」は大分県臼杵(うすき)市の郷土料理でしょう油に漬けたアジやサバ、ブリの切身におから(きらす)を和えたもの。


 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】①きらすまめし    
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。
また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――5月21日申込み締切り(5名以上のグループ受検は5月14日締切り」となっております。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/