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さかな歳時記「二十四節気・芒種」 とろける刺身 入梅いわし

二十四節気●芒種●6月6日

イワシ類の水揚量が全国1位の千葉県。その主要水揚港である銚子で、梅雨の時季に水揚げされる“入梅いわし”は、一年のうちでもっとも脂がのっておいしくなります。魚体側面の斑点にちなんで、「七つ星」ともいわれるこの入梅いわしの正体を選びなさい。


①ウルメイワシ
②カタクチイワシ
③シラス
④マイワシ

【解説】

イワシの種類は世界で300種以上といわれ、日本周辺だけでも26種類ある。イワシがニシン科に属すように、実はニシンやキビナゴもイワシの仲間。私たちの食卓でよく見かけるのはマイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシ、そしてちりめんや釜揚げでおなじみのシラス――カタクチイワシやマイワシの稚魚――だ。漁獲量もこの順で、ふつういわしといえばマイワシをさすが、目刺しやごまめ、煮干になるカタクチイワシ、丸干しに向くウルメイワシも知っておきたい。
種類によって獲れる時期が異なるが、マイワシは脂がのる初夏から秋にかけて美味となる。とくにこの時期、産卵に備えて大きく育ち、栄養をため込む。なかでも、梅雨入りのころから水揚げがはじまる、銚子の“入梅いわし”はまるまると太り、口の中で溶けるほど脂のりが抜群だ。



別名「七つ星」のとおり、体には黒い斑点がいくつも並ぶマイワシ

煮ても焼いてもおいしい入梅いわしだが、とりわけ氷水で締め、三枚におろした刺身は絶品で、これまで抱いていたイワシのイメージが覆るはず。そのおいしさには、2つのわけが。
梅雨入りのころ、多くの植物性プランクトンが利根川から流れ込み、銚子沖は「葉っぱ潮」と呼ばれるほど青く染まる。その潮が大量の動物性プランクトンを育み、イワシの潤沢なエサになる。
もうひとつはチームワークによる、高鮮度を保つ漁法にある。銚子のイワシはおもにまき網漁法で漁獲される。操業は伝馬船という魚群探索船、まき網本船、運搬船が一つのチームを組み伝馬船が魚群を発見すると網船2隻が網を入れる。群を囲んだ網を少しずつ絞り込んでいき、クレーン利用のたも網で運搬船の水槽に移す。運搬船は水槽に氷を入れ、港に急ぐのだ。
新鮮さが際立つ入梅いわしはまず、お造りで。手早くおろして皮をむいたら、そぎ切りに。しょうが醤油につけて口に運ぶと、ぶ厚い脂が舌の上でとろける。



銚子ではこの時季、もっぱら生のまま握られるが、江戸前鮨の多くは三枚に下ろしたから塩をふり、酢で洗ってから握る。塩で軽く締めることでイワシ独特の生臭みを取り去ると、風雅といえるほどの食味が生じてくる。

その刺身をねぎやしそなどの薬味とともにリズムよくたたいて、合わせ味噌で味付けすれば「なめろう」ができる。刺身とはひと味異なり、おもわず酒に手がのびるアテになる。



ねっとりした身に薬味がきいておいしい「なめろう」

このなめろうをすりつぶして、しそにはさんだら天ぷらにする。揚げることでイワシのうまみを閉じ込めるのだ。



しそのパリッとした食感と口に広がるジューシィなイワシの味わいがたまらない。

ところで、イワシは豊漁と不漁を数十年サイクルで繰り返す魚として知られている。最近でいうと1970~80年代は豊漁期。そして88年に約450万トンの大台にのせるが、それ以降は下降線をたどっていく。一時5万㌧にまで落ち込み、ピーク時の100分1を記録。大衆魚の代表、イワシが“幻の高級魚”になるのでは、と世間を騒がせたのは、つい先ごろのこと。
原因は、気候や海流などの環境変動説、イワシ自体に原因があるとする生物内因説など諸説あり、確定されていない。
今年は大漁が予測されているイワシながら、資源に見合った漁業秩序をつくる視点も大切なこと。26歳で夭折した童謡詩人、金子みすずのような目をもって。

朝やけ小やけだ 大漁だ
大羽いわしの 大漁だ
浜は祭りの ようだけど
海のなかでは 何万の
いわしのとむらい するだろう  「大漁」



私たちの食生活に欠かせない魚であると同時に、「海の米」とも「海の牧草」ともいわれ、世界中の海の生態系を支えるタンパク資源でもあるイワシ。それは海の食物連鎖の底辺に位置するということ。カツオやカジキ、マグロなど、イワシを餌にしている魚は多々いる。一致団結して集団で敵から身を守るため、大きな群れをつくり回遊している姿は、まるで巨大な一つの魚のよう。その色は海の青と同化する保護色にもなっている。
 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】④マイワシ   
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。
また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――5月21日申込み締切り(5名以上のグループ受検は5月14日締切り」となっております。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/