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さかな歳時記「二十四節気・雨水」 親勝りのムツは親不孝!?

二十四節気●雨水●2月19日

銀褐色に輝く体、深海魚に特有の大きなを持ち、白身の肉はよく脂がのっている美味なる魚です。脂肪が多いながら淡泊なこの魚は、刺身、煮魚、ちり鍋にと、とくに関東以北で好まれています。
ほぼ1年中見かけますが、特にこの時季、繁殖を控えて沿岸に寄ってくる「寒ムツ」はことさらに脂がのって人気を呼びます。
近年、この魚自体が高級魚になっていますが、身よりも高値で取引される卵巣、ムツコを持つこの魚を選びなさい。


①アカムツ   ②ギンムツ   ③クロムツ   ④シロムツ

【解説】

いまひとつメジャーではない魚ながら、クロムツはのどぐろ(①アカムツの通称)に勝るとも劣らない脂がたっぷりのった白身魚だ。厳密にいうとムツとクロムツの2種がいるが、市場ではひっくるめてクロムツと呼ぶ。
北海道以南の沿岸から沖合に分布し、特に関東から伊豆半島にかけて多数生息している。底びき網や定置網などで漁獲されるほか、深場釣りの対象魚としても人気がある。
ムツの名は、脂がのっている魚を意味している。脂っこいことを「むつっこい」むつこい」「むっちり」などというのに由来する。
脂ののった身は新鮮なら刺身がおすすめ。なかでも、皮目をバーナーで炙った、あぶり刺しは、皮の香ばしさと身のふっくらした感じが口の中で絶妙にマッチ。かむほどに身の甘みがにじみ出てくる。



脂の旨みと甘みが楽しめるムツの「あぶり刺し」


バーナーで炙ると身と皮の間の脂が溶けて浮き出てくる。

長らく庶民的な惣菜魚だったムツの定番といえば、やはり煮付けをはずせない。刺身にするときの難点である、身の柔らかさも煮付けならば逆にふっくらと煮上がり、煮汁もよくしみる。白身の脂ともよくからみ、より旨くなる。ツルッとして、コクのある皮もとても旨い。
また、醤油と砂糖、酒で調味した照り焼きは、脂がよくのったこの時季ならではの味わいだ。
焼き魚だともちろんシンプルに塩焼きもいけるが、塩糀(こうじ)に漬けて焼くと、身が柔らかく、うま味がにじみ出てくる。同様に、白味噌に漬けた西京焼きもおいしくいただける。



煮付けにすると、ふっくら、しっとりした身は骨離れもよく食べやすい。


「塩こうじ焼き」は、ムツの独特の甘さが糀の甘さとみごとにマッチしたひと品。

地方名をたくさんもつムツには、ちょっと変わった呼び名がある。そのひとつがロクノウオ。
江戸時代、仙台伊達(だて)藩主は代々陸奥守(むつのかみ)であったため、「むつ」と呼ぶことをはばかったというのだ。ロクは六であり、「むつ」を表す。
もうひとつがオンシラズ(恩知らず)、オヤフコウ(親不孝)。
幼若魚のうちは沿岸の浅瀬にすむが、成長するにしたがって沖合の深い所へと移動する。ムツの若魚はともに暮らすことなく親から離れて大きくなるため、こう呼ばれる。
ところで、身よりも真子や白子に高値がつく魚を「親勝り」という。
カラスミになる卵巣をもつボラや、白子が白身の肉より価値をもつタラなどが親勝りの代表だろう。ムツコ(むつ子)と呼ばれるムツの卵巣は、味の点でタイの真子に匹敵し、実は身よりも珍重される。料亭などでは、ムツの煮付けに煮物にして添えられるそうだ。

体型のよく似たホタルジャコ科のアカムツや④シロムツと呼ばれるオオメハタ(大目羽太)など、ムツと名がつくものは多いが、成長すると1mにもなるムツ(クロムツ)はまったくの別種である。
南半球、チリやアルゼンチンの沖合、南極海で水揚げされ1980年代から日本に輸入されるようになったマジェランアイナメは、②ギンムツ(銀むつ)の名で流通していたが、ムツという名前がクロムツやアカムツと消費者が混同する恐れがあるとして、今では市場名のメロという呼称が定着している。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】③クロムツ   
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。
また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――2月2日よりWEB先行申し込み開始」となっております。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/