さかな歳時記「二十四節気・芒種」 繊細、美麗。通好みの味。
二十四節気●芒種●6月5日
なんて涼しげな容姿でしょう。初夏の爽やかさをそのまま体に現したような清楚さ。“海の鮎”と昔の人がいったのも、さもありなんと想えます。それにまた、名前の響きがステキです。きす、キス・・・。清楚な姿と響き美しいこのキスの、漢字表記を選びなさい。
①鱚②鯒③鯛④鱧
【解説】
ことわざに「六月のきすは絵に描いてでも食え」とあるように、6月、きすはまさに旬の盛りを迎える。
外観にふさわしい淡泊な味。でも、正直いって、子どものころは塩焼きのキスゴ*が食卓にのぼると、小骨を取るのがめんどうだし、いくら食べても満腹にならないし、ため息をついたもの・・・。ところが、長じて江戸前の天ぷらで、握り鮨で食べたときの感動といったら、これがあのキスゴか、と驚いた記憶が鮮明に残る。“海の鮎”といわれるキスの繊細な味は、大人になってこそ愉しめるものかもしれない。 味だけではなく、キスはもともとナイーブな魚。鮮度もおちやすく、環境にも弱い。すみかは内湾や浅い海のきれいな砂地。警戒心が強いため、並みの動きなどを敏感に察知しながら、数匹ずつ群れながらゆっくり泳いでいる。
*キスゴ:広く西日本の地方などでは、本来の魚名であるキスゴと呼んでいる。現在一般に呼ばれる「きす」は「ご」を省略したもの。語源は諸説あるが、性質が素直で飾り気のないことを表す「生直(きす)」に魚名語尾「ご」がついたという説が有力。昔から釣り魚としても人気抜群で、6月になると、砂浜には投げ竿がずらりと並ぶ。簡単に釣れるため、午前中だけで百匹以上釣ったと自慢する太公望も多いとか。 ふだん、私たちがお目にかかっているのはシロギス。もう一種、アオギスという東京湾などに生息していた種類があり、かつては江戸前の名物だった。しかし、水質汚染などのため、和歌山県より東では絶滅してしまう。九州・四国でも絶滅危惧種のひとつに数えられている。シロギスも漁獲高が減り、料亭向きの高級魚になりつつある。
ジメジメとした梅雨に入ったころがピークで、夏いっぱいというところ。涼しげな砂の色、ほのかに昆布の香りをまとったさっぱりとした味は、梅雨時のうっとうしさを忘れさせてくれる。鮮度がよいと刺身が美味。たんぱく質、ビタミンB、リン、鉄を含み、脂質は1%以下。天ぷらにこれほど合う魚もない。椀だねとしても味は最高。焼けば、だしもたっぷり出る。
尻尾のついた一枚おろしのきす天。秋のハゼとならぶ江戸前天ぷら白身の代表的な天だね。「犬公方」で知られる五代将軍、徳川綱吉は「おめでたい魚」として、毎朝必ず、焼いたものを二尾、煮たものを二尾、計四尾食べたそうだが(樋口清之『食べる日本史』)、これはいくらなんでも・・・。
日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】①鱚(きす)
日本さかな検定(愛称:ととけん)とは
近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。 この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。 魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。 今年平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催します。詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。 日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/