さかな歳時記「二十四節気・霜降」「とも和え」を味わえる季節到来。
二十四節気●霜降●10月23日
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寸づまりの丸顔で、おちょぼ口という愛嬌顔のかわはぎ。
ふぐにも匹敵する味と形容される上品な味わいの白身以上に、とりわけこの時季、珍重されるかわはぎの部位を選びなさい。①皮
②肝
③白子
④真子
【解説】
ヤスリのようにざらついた皮をむいて調理するため、その名がついたカワハギ(皮剥)。ご覧のとおりのユーモラスな外見だが、皮をむくとすき通った白身が現れる。しこしことした歯ざわりで、噛むごとに上品なうまみが広がる。
身離れがよいので、本来カワハギの食べ方の定番は加熱調理で、西日本などでは冬季の鍋材料として人気が高く、ちり鍋や煮付けにする。
冬に備えて肝が大きくなるこの時季のカワハギは特に珍重され、その大きさで値が決まるほどだ。これを知っている魚通のあいだでひときわ高い人気を誇るのが、肝を刺身といっしょに食べる「とも和え」である。カワハギの肝和えは肝を裏ごしして、醤油と山葵(わさび)を合わせた肝じょうゆにすることが多い。
薄造りにした身に濃厚な肝をソースにして口に入れる。ふぐにも劣らない食感と上品な味わいの白身に、ねっとりとからみついた肝じょうゆ。うっとりするほどに美味。こんな食べ方ができるのカワハギだけだ。そのためには鮮度が命となるわけで、天然物、養殖に関わらず、鮮度の高い活魚は値が張る。
カワハギに比べ、お値段に手頃感があるのが、いくぶん面長のウマヅラハギ。
皮を剥いでしまうと区別がつきにくいところから、ときにカワハギの代用品として使われることもあり、市場では「ウマヅラ」などとぞんざいに呼ばれていたが、このところ富山や福岡でブランド魚が登場するなど、味の良さが見直されている。
こちらも身離れがよく、白身で甘く上品な味は冬の鍋料理に好まれ、とろけるような食感の肝も薄造りにした刺身と和えると、なんともいえない極上の味に。
そんな美味なるカワハギ、ウマヅラなれど、釣り人からはいたって嫌われる。小さい口元の内側には鋭い歯があり、釣り餌に当たりが伝わらないままに削ぎ取られてしまうことがよくあるからだ。その名も“餌取り名人”。
北海道以南から東シナ海まで、日本の沿岸域広くに分布するカワハギは、昔から味の良さに定評があり、各地で親しまれただけに地方名をたくさん持つ魚でもある。関西では単にハゲと呼ぶ。気になる方には聞き捨てならないが、魚屋さんなどでは「ハゲいりまへんか」の声が飛ぶ。カワハギを丸ハゲ、ウマヅラハギを長ハゲという。
変わったところでは、バクチウチ。時代劇で、放蕩息子が賭場に誘われ、あげくの果てがスッテンテン。身ぐるみ剥がれて、寒空にハックション、といったところか。
日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】②肝
日本さかな検定(愛称:ととけん)とは
近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪でスタート、今年の第7回(6月26日(日))では函館・八戸・石巻・東京・静岡・富山射水・若狭小浜・大阪・宇和島・福岡の全国11会場で開催、小学生から80歳代まで世代性別を超え、累計2万名を越える受検者を47都道府県から輩出しています。