民藝ファン必見! 日本の美しい 手しごとを探し訪ねる旅の本
空前の器ブームといわれる昨今、人気作家の個展にはオープン前から行列が出来て、初日にほとんど売り切れてしまうこともしばしば。ファッションにこだわりを持つのと同様に、インテリアや食に関心を持ち、暮らし周りを美しい物で整えたいと思う人たちが年々増えていて、器は手軽に買える最も身近なアートとしてとくに注目を集めています。
そんな時代の空気をいち早く感じ取り、ファッション的な視点で北欧のクラフト家具や日本の手仕事を紹介してきたビームス「フェニカ」のディレクター、テリー・エリス氏と北村恵子さんによる『ニッポン最高の手しごと』という本が出版されました。
ロンドンをベースにインポートブランドのバイヤーとして活躍してきたふたりが、日本を代表するインダストリアルデザイナー・柳宗理氏との出会いをきっかけに、民藝に強く興味を惹かれ、日本各地の産地を巡り、衣食住にまつわるニッポン最高の手しごとを求めるバイイングの様子を、ライブ感あふれる写真と文章で紹介する興味深い内容となっています。
名もなき職人による手しごとの日用道具の中にある“用の美”を見出し、育んでいこうとする民藝の思想は、明治から大正にかけて柳宗悦、河合寛次郎、濱田庄司らによって提唱され、バーナード・リーチが加わって、生活文化運動として広まっていきました。沖縄のやちむん、九州の小鹿田焼をはじめ、島根、鳥取、丹波、益子など、1世紀のときを経たいまでも各地で民藝の精神を受け継ぐ職人たちが物づくりに励んでいます。
その中には、伝統を守りながら時代とともに現代的な感覚を加味し、進化していった新しい民藝も存在し、若い人たちの間で再び人気を呼んでいます。17~18世紀にイギリスで隆盛を極め、バーナード・リーチによって伝えられたスリップウェアや、緑、黒、白の釉薬を掛け分ける手法で名を馳せる因習・中井窯のグラフィカルなデザインの器などは代表的。野暮ったさも味として親しまれていた従来の民藝とは一線を画す、スタイリッシュでモダンな器としてファンを魅了しています。
単に食ベものを盛るための道具に留まらず、傍に置き、愛で、自分らしく使いこなすことで気持ちが豊かになり、なんの変哲もない日々の食事がより美味しく感じる。そんな手しごとの逸品に出合うヒントが見つかる1冊です。
『ニッポン最高の手しごと』
光文社 ジェイブックス編集部/編著
2016年7月26日発売
定価(本体1,400円+税)
ISBN 978-4-334-97880-8