和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第100回

100回。果たしていま、FoodniaJapanなのか。

僕が第1回に書きつらねた文章の一部を掲載させていただきます。

***

わたしたち日本には誇れる土地と風景があります。

その土地を巡り、そこで出合う人、

食材や食べものを紹介していく連載を始めることになりました。

 

私の仕事は、「食業プロデューサー」です。

 

食生活に関わること、それは、農産物や料理だけではなく、

そこにまつわる、例えば食器や家具、プロモーションから製造工程まで幅広く

見つけ、育て、伝えていく仕事をしています。

 

こうした活動をすることになったのは、

私が、過去に報道カメラマンの仕事をしていたことがきっかけです。

 

まだまだ知らない土地や人、食材、食べ物の情報があります。

一方で、バレンタインやお歳暮のように、毎年たくさんの情報が世間に溢れかえります。

けれども、本当にみなさんが欲しい情報が必ずしも届いているでしょうか?

安心、安全、誰が作っていて、どんな商品になるのか。

そうした情報を扱い、ただ伝えるのではなく、共感として「伝わっていく」ことを私は大切にしています。

 

なにより食は、私たちの体や健康を作る源ですから、

切っても切れない関係です。

 

だからこそもっと知りたいし、専門的な知識はなくとも、

すこしでも知ることで、世の中の食のことがもっと身近になり、

少なくとも、自分の口に入るものが変わってくるはずです。

***

4年前に書かせていただいた気持ちに変わりはありません。

「4年」は、おおよそ1400日ほど経っていて、35000時間ほど時間を費やしました。2016年、地方創生というキーワードが日本を駆け巡り、日本という風土の良さを体感し、その体感した経験を共有しようとする催しがたくさん行われました。そしてその催しから、例えば国産ワインづくり、地域食材の世界への発信と、特に、食に関する情報発信、地方創生が多くなったと感じました。また、都会〜地方という図式の中でUターン、Iターン、移住、ワーケーションといった、働き方の変化、ビジネスシーンの変化が増え、高齢化がすすむ現代社会においては、「人々の移動」こそが、新たな変化を作るものとして、より加速度的に時代が変化してきた。「だれでも、どこでも地方創生」ができるようになるくらい、簡素化したという事実が出来上がりつつあった。だが、2020年、オリンピックの年に、新型コロナウィルスが蔓延し、世の中の動きを止めたのである。つまり、この4年間が培ってきた「人々の移動」「密なるコミュニケーション」を隔てたわけだ。その落差をもろに受けたのが「食の接点」である。新型コロナウィルスは、人々が移動し、そこで食事をし、コミュニケーションを作る構造自体にNGを出したのだ。

そうした社会状況において、僕らは食における情報発信、つまり「伝え方」に戸惑いを覚えたからこそ、次の4年、いや10年、30年先の、食の姿に、新たな「着物」が必要だと感じている。このFoodniaJapanもしかり、和食スタイルというコンテンツもそうかもしれない。テキスト、音声、映像、この4年で圧倒的に変化した。長く続け、時代に逆らったとしても自分を見失わないようにするものと、常に変化を恐れず、時代に追いつこうとするものは相反ではあるが、その表裏一体の形こそ、人間が求めるべき、時代の変化だと感じている。

FoodniaJapanブログは100回目の本日をもって、いったん、この場での更新は終了する。私が経営する株式会社オアゾについても、10年が経ち、この状況下で「変化」を求めるために、新たに旅立つ準備を整えている。

長く続けるものと、絶えず変化していくもの。

生物であればこそ、この状況は見逃せない。だから人生は楽しいと感じる。

***

ひさしぶりに、100回分を読み直してみたのだが、「どこを切っても、同じことは起きない」ということ、そして「自分でしか歩けない道を歩いている」という感覚を覚えた。「食の接点」を通じて、様々な人の接点を感じている。その接点こそが、ゴールであり、スタートでもある。

まずは100回、ありがとうございました。

株式会社oiseau 松田 龍太郎

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第99回

茅ヶ崎で見た「付加価値の積み重ね」で生まれる、食の接点作り。

『フードニアジャパン食の国 日本』のブログがスタートしたのが2016年9月。あれから4年経ち、このブログで99本目となります。実は、次回100回でブログを終了することになりました。日本に限らず、世界まで足を運びつつ、この和食スタイルのウェブサイトの構築から、和食のイロハ、そしてこのブログと、長きにわたり私が関わった「食の接点」にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

***

9月。台風10号が九州から韓国一帯を襲い、それとともにフェーン現象、熱帯夜、まだまだこの残暑が続くのかと思いきや、すっと秋風が舞い、過ごしやすい日々が、少しずつ始まろうとしている。

一方で、食の業界は相変わらずだ。

東京など春先にオープンする予定だった商業施設が8月から9月の間に、再びオープンを始めている。依然としてコロナ禍は落ち着きを見せず、僕らの生活を蝕み、ワクチンもできていないまま、10月から「Go To イート」の始まり、そして「Go To キャンペーン東京追加」のニュースが出始めている。このニュースに戦々恐々といくのか、万全の体制を整え、「やったもの勝ち!」で進めていくのか、まさに「神のみぞ知る」境地。

***

そんな中、少し先の話ですが、来春2021年にオープンする、神奈川にある、とある大学の新キャンパスプロジェクトにおいて「学食」を作り上げる企画に参画することになりました。もちろんこのコロナ禍で、本来であればすでにオープンしているはずのキャンパスでしたが、春先の工事のストップ、留学生の大挙帰国などで、1年遅れざるを得なくなったのです。なかなか難しい案件だなと、少し途方にくれていたのですが、実はお手伝いする学食の企画が「世界37か国のビールが飲める学食」という、おおよそ、通常の大学では考えられないもので、さらにその地域の青果の生産者の食材もリサーチ&提供する、という、通常であれば、なかなかできない学食のプロデュースをすることになりました。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、僕の会社は一時期、八百屋を経営しておりました。八百屋瑞花(すいか)です。神楽坂がスタートで、2018年春に横浜に2号店をオープンさせました。そして2018年秋に「八百屋瑞花株式会社」として事業展開し、現在も営業を続けております。ただ、オープンした当初、神奈川の生産者との付き合いが少なく、また提供できる期間も少ないため、どちらかというとピンポイントで提供することが多く、天候に左右されると、手に入りづらく、「それではまた来年!」、、、ということもありました。そこで改めて神奈川県をいくつかのエリアに分けリサーチ、さらに実際に生産者を訪ね、現地に少しずつ足をはこび、来春にむけて「生産」「物流」の仕組みを拵(こしら)えている活動を開始しました。

そして世界37カ国のビールについても、世界は輸入がほとんどなので、飲料メーカーさんとのやりとりが発生しておりますが、一方で「神奈川産のクラフトビール」も集めなければなりません。それも「19件」です。その19件、本当に個性豊かで、どれ一つも同じビールがなく、お酒が大好きな僕としては、こんな素晴らしい仕事はないな、と思いながら、実は神奈川県内をうろちょろさせていただいております。

そんな中、先日訪れた、茅ヶ崎市香川にある「熊沢酒造株式会社」に足を運んだ際に、その設えと、お客様の多くに驚かされました。まず蔵元目の前の駐車場は50台以上。「社員が多いのかな?」と思ったのですが「社員(用の駐車場)は近くの別の場所にあります(笑)」と後ほどわかり、この住宅街の一角に、これだけ多くのお客様が足を運んでいることを、まずは意外に思いました。

そして細く、木々が生い茂った、蔵元ではないような「文化度が高い」雰囲気を匂わせる入り口を越えると「パン屋」と「雑貨屋」、「イタリアン料理屋」と「和食屋」が出現する。すでに、商業施設に足を踏み入れたような感覚。

そしてその店舗に面して、広めの広場と椅子テーブルが配置されており、イタリアン料理屋は、このコロナ禍の中で、万全の体制を取りながら、営業をしており、お店は「満席」という様相だ。

この「意外さ」とは、ここ熊沢酒造に足を運ばないと感じられない。なぜなら茅ヶ崎市香川は茅ヶ崎駅から車で10分ほど、JR香川駅もあるが、単線路線で、必ずしも交通の便が良いとは限らない。それにも限らず、駅から徒歩で向かう人、そして駐車場があるように、多くのお客様がわざわざ、お酒の蔵元に、車で出かけ、食事をとる場で楽しもうとしている様子が、良い意味で「意外」だと感じたのだ。

それでいて、建物の設え、雑貨のセレクト、店舗内においてある什器やちょっとした雑貨物が、ひとつひとつ丁寧に選ばれ、配置されていた。最近、流行りの、多くのクラフトコーヒーのお店は、非常にシンプルで、デザイン性が高く、色も少ない上モノトーン、店舗ロゴ(というよりタイポが、、)が目立つ、特異なしつらえが多い。けれど熊沢酒造の見せ方は、非常に重厚で「手厚さ」を感じた。建物の雰囲気や、歴史から紐づく「古さ」がそうさせていると思う一方で、この手厚さが良い意味でサービススタッフの動きや対応に現れていて、いやらしくなく、とても心地の良い。なによりテキパキしている。(“テキパキ”は、僕が大好きな言葉でもある)

ちょうど、クラフトビールの打ち合わせで、熊沢社長とお会いすることができた際に、少し盛り上がったのは、「女性スタッフの多さ」だ。私自身、会社を立ち上げた時、女性の社会進出、クリエイティブの展開を訴えていたが、その女性スタッフが、心地よく、働き場として「居心地の良い空間」を提供することの大変さを身にしてみて感じているからこそ、熊沢酒造の事業展開については、目を見張るものがあった。実は、昨年、熊沢酒造の敷地の裏山に、保育園を立ち上げたと聞いた。とても裕福だと感じている。

もちろん事業だからこそ、酒造、蔵元としての経営は大変だ。現在の熊沢社長も6代目、先代から引き継いだ蔵元は当時、廃業も考えられたくらい。

そうした中、熊沢社長は、これまで価値とみていなかった接点、例えば、日本酒の仕込みができない期間にクラフトビールを作り上げ、そのクラフトビールを飲んでいただくためにレストランを作り、そして、自らが選んだ雑貨を販売し、そして蔵元として日本酒を飲んでいただくために和食屋を作り、そこで働いているスタッフたちのために、保育園を作り上げ、次世代につなぐ、酒蔵の新たな戦いを展開している。そのさまは、まさに「積み重ね」であり、そこで生まれた「食の接点作り」は「付加価値作り」である。その付加価値が、手厚さに繋がり、お客さんをよろこばせている。

「今度は、夜に日本酒を飲みに来たいね」「あーここ知らなかったまた来たいね」と話す、お客様の声が聞こえた。ここは茅ヶ崎市香川である。銀座のど真ん中でも、北海道の、自然囲まれた由緒正しいホテルでもない。

わざわざ茅ヶ崎に訪ねていく「食の接点」は、他にはない。コロナ禍だからこそ、こうしてお客様と、気持ちを密にもちながら関係性を作り上げる、接点の担い手を引き続き応援していきたいと考えている。

●熊沢酒造株式会社

https://www.kumazawa.jp/

神奈川県茅ヶ崎市香川7-10-7

 

●ちがさき・もあな保育園

http://chigasakimoana.com/

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第98回

那須横澤地区で、新たな文化の苗床に、食の息吹が芽生える。

8月の残暑は続く。ざっと降る雨も、スコールのように、強く、激しく、大量に雨をもたらすと、その後、嘲笑うように、じめっとした灼熱の太陽を覗かせる。引き続き連日猛暑日は続いている。

そんな中、7月終わりに、那須高原奥、横澤地区に、とあるレストランのプレオープンが始まった。その名も「レストランμ(みゅー)」。古代ギリシャ語で、12番目の文字としてμは存在し、国際単位系では「マイクロ」を意味している。“食を手がかりにして、はるかな太古へ遡り、来るべき未来を予見したい”という願いを込められて命名されたお店だ。

実は、このレストランが設置された場所は、「アートビオトープ」と呼ばれる宿泊リゾートの中にある。アートビオトープは、自然と融合するリゾートという「二期倶楽部」(1986年~2017年)の思想を受け継ぎ、二期倶楽部創業者である北山ひとみのプロデュースにより計画されたものだ。そして「アートビオトープレジデンス(旧「アートビオトープ那須」)」は、二期倶楽部の創業 20周年を記念した文化事業として、 2007年にオープンし、アートをテーマに人々が集い、交感し合いコロニーを形成していく苗床(ビオトープ)となることを願ってつけられたものだ。 2018年より、アートビオトープ敷地内にランドアート「水庭」(建築:石上純也氏)が完成。そしてこの夏、レストランμ(ミュー)が加わり、施設が新たにオープンしたのがきっかけだ。(実際のところ、レストランμはようやく、外来ゲストへのオープンが始まり、10月2日にグランドオープン予定で準備を進めている)

うだるような暑さを、森が和らげ、小丘を上がると、そのμは現れる。エントランスには、陶芸家の近藤高弘氏による陶のオブジェを設置。これは、イサム・ノグチが晩年に愛用したことで知られる、伊達冠石が風化することによって生まれた大蔵寂土を素材とした世界初の陶芸作品だ。玄関を過ぎると、木造平家で、しっとりとした空気を装い、少し高めの天井が、木漏れ日がスッと差し込む大きなダイニングを展開。僕が訪れた日は、少しだけ家族連れが、訪れていたが、基本的にソーシャルディスタンスで席数を減らし、運営をされていた。

レストランμ(ミュー)は、「シードからテーブルまで」をテーマに、栃木エリアの素材を中心にメニューは展開。今回は、ランチということで、おおよそ7皿をいただきました。

「玉蜀黍(とうもろこし)」「枝豆」の、瑞々しい夏野菜に、刺激的な胡椒、フェンネルが舌の感覚を研ぎ澄ませた後に、シャキッとしたトマトの酸味と地場で仕入れたチーズ(茶臼岳)が、軽やかに味覚をチェンジさせる。

その後「鮎と茄子」で香ばしさと水を感じる豊さと、「とちぎゆめポーク」では火入れが抜群で、鮮やかなピンク色を帯びた地場産豚が、程よい油をまとい、さっぱりとした味わい。そこに添えられた、地場産野菜を煮詰めたもの、オクラ、株、芽キャベツ、ラディッシュが非常に印象的だった。

手元のメニューにはこう書かれている。

 

 レストランμは、

 自然に抱かれた土地(テロワール)に

 蒔かれた一粒の種です。

 

 いのちを養い、

 生きることを励まし、

 五感をゆさぶり、

 おおらかな卓上の祝祭であるような一皿一皿。

 

 旅の途中での、

 思いがけない収穫でありますよう。

 

 この種が、思い出となって

 多くの実を結んでくれますよう。

 

今回、メニューの全体設計のシェフは、権威あるレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」 2020年度版で「期待の若手シェフ」を受賞、RED U-35でも活躍した気鋭の若手、本岡将さんをはじめ、若手シェフチームで構成。またホールスタッフは、タイユヴァン・ロブション(現在のジョエル・ロブション)にてメートル・ドテルを務めた松木一浩さんが加わり、以前二期倶楽部「ガーデンレストラン」にて長年サービスを務めた室井雅之さん、ほかスタッフが対応。料理は20-30代の若手、ホールは60代のベテランスタッフが丁寧に対応する様は、非常に趣深く、なにより対応が「落ち着いている」。

当初、食の提供に、ときおり料理スタッフがサーブする状況を見て「料理スタッフもコミュニケーションを取りたがっているな」という印象を得ていたが、全員が配膳教育を受けているわけではなく、人によってばらつきがでる恐れがあるので、そのあたりはプレオープンらしく整っていない状況下と考えていたが、サービスの重鎮であるベテランが、ホールを仕切っていることでバランスがとられ、お客様の安心感に結びついている様は、程よく感じた。

僕が気になった点は、レストランμが掲げている「来るべき食」とは?だ。

彼らは「恵まれたテロワール(土地)ならではの、野生の滋味あふれる食材の力を、ぞんぶんに活かしたいと願いました。料理とは、なによりも命を養うものだという原点に、立ち返ろうと心がけました。大いなる自然の贈与を、ちまちまとした修辞をほどこさずに、卓上にとどけたいと思ったのです。」とうたっている。シェフ本岡氏も若く、才能もあり、提供に対するパワーがある。失ってはいけない人材であろう。またこの土地、この場所でしかない料理を続けていくべきだし、わざわざ那須横澤まで足を運び、食する接点を作り上げるとしたら、このスタンスを取り続けるべきだと感じている。秋冬、そして来年の春夏。毎年、その時期、もっというと、2020年、2021年でしか出会えないメニューを作り続けてほしい。僕らが那須で出会えるような食の旅を、アートビオトープで味わいたい。

アートビオトープ
開業日 2020 年10月2日(現在、一部施設をプレオープン中)
所在地 栃木県那須郡那須町高久乙道上2294-3
電話 0287-78-7833
URL  https://www.artbiotop.jp/

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第97回

真夏がやってきた・・! コロナ夏(か)だからこそ、中華で楽しむ!

ようやく遅くはなったが、この8月関東地方も無事に梅雨明け。それとともに、グッと気温が軒並み上がり、「猛暑日(日最高気温35度以上)」が連日続くようになった。そんな猛暑日をできるだけ涼しく過ごしたいという、ごくごく当たり前な過ごし方もあれば、真っ向からその暑さに打ち勝つために、熱いもの、辛いもの、といった「汗だく必至」の料理を食べたい(?)季節になる。そんな欲求を満たしてくれるのが、僕の場合、中華だ。間違いない。

実はこの夏、梅雨明け前から、中華料理にハマっていた。それも辛いものだ。

例えば、出張で青森に戻った時に食べたのは、中学校の頃からハマっていた「満来飯(バンライハン)」。中学の頃、部活動が終わり、わざわざ自宅で食べずに、そのお店にまで足を運んで食べた、特製味噌餡掛けラーメンだ。

当時のご主人は残念ながらお亡くなりになり、今は、場所を変え、その娘さん、そしてご主人の奥さんの2名で切り盛りしている。鍋をふるうのは娘さん。ご主人が作り上げた、この特製味噌餡掛けの味を復活させ、当時食べたものと遜色なく、思い出が蘇るような、まさに、美味い瞬間を作り上げている。営業時間は11:30-14:00のランチタイムのみ。メニューはとてもシンプル、「満来飯」「満来めん」「ライス」のみ。この「潔さ」が、この満来の良さを引き出している。この熱々の中華を口にかけ入れ、上唇がすこし火傷するくらいの熱さと「あまじょっぱさ」が、記憶の片隅に残っている。

一方、東京では、日本において中華料理ではミシュラン2つ星を初めて取得した、東麻布にある「茶禅華(ちゃぜんか)」。その料理への取り組み、味の構築は見事だった。1982年生まれの川田智也シェフが織りなす料理は、「日本らしい中華料理」というコンセプトのもと、中国料理だけやっていても、中国人に敵わない、だからこそ中国の技法を用いながら、それで闘う日本人として、日本の食材を生かし、学ぶ姿は、ファンも多いだろう。

ちょうどいただいた「鮎(あゆ)」は、調理の直前まで泳いでいた鮎を、さっと揚げ、食べさせていただいた。川魚がもつ「滋味」と、白身の軽やかさが、絶妙。付け合わせの香り、辛みもまた演出の一つで、味の多角化を楽しむことができた。

「香り」「辛み」は、中華料理の真髄。そのほかの肉料理、アワビに関しても火入れが抜群で、ポイントに香りと辛みが絶妙にマッチング。さらにドリンクペアリングとしてお茶とワイン、日本酒、紹興酒(このラインナップも素晴らしい、是非ノンアルペアリングの掛け合わせをお勧めする)の掛け合わせは、中国では体験できない中華料理を楽しむことができる場であった。

そしてこのコロナ禍、新社会人となったばかりの、新卒の弊社インターンとともに歓迎会で伺ったのも、中華料理だった。その時いただいたコースのメニューの前菜に「運気の上がる前菜盛り合わせ」が書かれていた。手前左からジグザグと、「豆腐干(とうふガン)とセリのネギ油和え」「紹興酒の香りづけフォアグラとナツメのテリーヌ」「ソラマメと雪菜の寄せもの」「よだれ鶏」が元気よく並んでいる。さらに中心には鮎を揚げたものが、まさに滝を登るように躍動的に配置されており、手前側から食べ進み、最後は、よだれ鶏にたどり着く、運気上昇を地でいく、盛り合わせだった。皿で見事に旬を感じさせ、盛夏と言えるこの2020夏を一皿に表現できるのは、元「麻布長江 香福筵」、現在「慈華 itsuka」の田村亮介シェフならではだ。このコロナ禍において、お店の料理をテイクアウトできるように、手間暇かけて準備をしている。むしろテイクアウトできる中華料理としては最高の水準だ。お店に足を運んでいただきたいのだが、是非ご家族で、慈華のテイクアウトをこの機会に楽しんでいただきたい。

どの中華料理も「辛さ」は必須だ。その辛さを際立たせるために、甘みや、多少の塩味を感じるような、ほぼ無味の料理が、ポイントとして際立っている。この灼熱のような暑さと、うだるような湿気を伴う、日本ならではの土地だからこそ、日本でしか味わえない中華のピンキリを、この夏是非楽しんでもらいたい。外食が難しい、このコロナ禍だからこそ、食の時間をどのようにして楽しむのか。僕は中華だと思う。

●らぁめん満来(ばんらい)

住所 青森県弘前市末広4-8-1

TEL 0172-28-0639

Facebookページ https://www.facebook.com/満来-187796861298672/

営業時間 11:30~14:00

定休日 水・日曜日、祝日

 

●茶禅華

東京都港区南麻布4-7-5

050-3188-8819(予約)

ウェブページ https://sazenka.com/

営業時間 月~金曜17:00 ~ 21:00LO
土曜12:00 ~ 13:00LO、 18:00 ~ 21:00LO

定休日:日曜、月曜を中心に不定休

 

慈華 itsuka

東京都港区南青山2-14-15 五十嵐ビル2F

050-3468-1029

営業時間  火~木 17:30~23:00 (O.21:00)
金~日・祝日 11:30~14:00 (L.O.13:00)

定休日  月曜日 第2日曜日、第4日曜日

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第96回

歴史ある工場を先進アートの発信地に。美術館付帯レストラン「BRICK」の産声。

7月は弊社の決算期。会社としては「大晦日」が近づいている。会社を10年経営、まもなく11期が終了する。立ち上げた当時は2010年。シェアオフィスが隆盛し、そのシェアオフィス立ち上げから会社の仕事はスタート。その後、すぐに2011年、東日本大震災が発生。天災としては、僕が生きている時間の中では、最大級の出来事として、会社の役割、東北、僕の実家のある青森に対しての想いが変わった。そしてSNSもtwitter、facebookが日常生活にグッと入ってくるようになった一方、仕事の幅も「地方創生」の時代がはじまったタイミングでもあった。当時青森県十和田に、3年ほど事業所を設け、活動をしていた。事業も「フリーランスで働く女性クリエイターの集団」として、数多くのデザイン、商品開発をお仕事として実施させていただいた。そこから徐々に、地域の生産者、東京の料理人、飲食店との関係も多くなり、現在の、食生活に関する企画・プロデュースの仕事に進化し、今の仕事を継続させていただいている状況だ。また僕自身も一時期、事業拡大を視野に入れ、メンバーを増やし、事業を推進していく矢先に、くも膜下出血にて倒れ、入院。そこから事業の方向転換、経営の見直し、新たな可能性を探るべく、常に新たな動きを検討している。これが10年で起きたことだ。

そして次の10年目のスタート、2020年、コロナが起きた。2011年の東日本大震災の時に感じた「怖さ」とともに、「終わりが見えない状況」に直面していると感じている。どんな状況になればよいのか?この事態が進んだときから、常に考えさせられるのだが、現段階では「答え」は見つからない。むしろワクチンふくめ「他人任せ」だ。自分の活動が答えにつながるわけではないからだ。ただ「他人に迷惑をかけない」ことは変わらない。たとえコロナにかかっても、かからなくても、どういう行動をすべきかは、明白である。だからこそ、いま「余白の時間」を大切にしている。余白の時間が新たな言葉、活動、目標を作り上げてくれる。

コロナは、世の中の経済状況の動きを変えた。そして飲食、外食という産業も同様に、「これ以降」の動きにシフトしていっている。その中でこそ生まれる価値こそ、今後10年続く流れを生むのではないかと考えている。

PHOTO BY ©畠山直哉

実は2020年春、青森県で新会社を立ち上げた。名前は「弘前BRICK株式会社」。この会社は、青森県弘前市に、この春生まれた「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ・ショップを運営する事業会社だ。とうとう自分の故郷、弘前に会社を立ち上げ、そしてまさか「美術館カフェ&ショップ」の経営をすることになったのだ。かつてはシードルの生産が行われていた「吉野町煉瓦倉庫」(旧吉井酒造煉瓦倉庫、1923年頃竣工、2015年7月より弘前市が所有)を芸術文化施設としてリニューアルしたプロジェクト。建築設計にはエストニア国立博物館などを手掛けた田根剛氏、美術館総合アドバイザーには森美術館館長を務める南條史生氏を起用した、まさに弘前市においてのビックプロジェクトだ。

左からスマイルズ遠山正道社長、カフェ責任者板東俊樹氏、弘前BRICK株式会社代表 松田龍太郎、前森美術館館長/弘前れんが倉庫美術館 総合アドバイザー 南條史生氏、青森県立美術館館長 杉本康雄氏、弘前賑わい創造株式会社 平出和也社長

ちなみに自社事業ではなく、新たに会社を立ち上げた大きな理由は、本事業に関して「ご縁」をいただいたからだ。ご存知の方もいらっしゃるかと思うが、株式会社スマイルズ、あの食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)」を立ち上げ、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ネクタイブランド「giraffe」など、飲食に限らず、文化やアートにも事業拡大した会社からお声がけいただいたことがきっかけだった。スマイルズの社長である遠山正道さんは、以前、私が勤めていた会社が運営していた学校「スクーリング・パッド」の頃からの縁で、今回、まさか一緒に会社を立ち上げるとは夢にも思わなかった。

もちろん、僕が現場に立ち続けるのは難しく、特に飲食に関する現場に立ち続けるメンバーも必要だったこともあり、高校時代の先輩であり、飲食の現場に強く関わっていた人物を、現場の責任者として起用することにした。

そして生まれたのが、「CAFE & RESTAURANT BRICK」というお店だ。BRICKは「れんが(煉瓦)」の英語。このカフェ・ショップも、元は煉瓦造りで、りんごのお酒「シードル工場」だった場所をリノベーション。古くからある既存の壁を一部活用し、カフェ、ショップと、改めてシードルが作られる「シードル工房」を増設し、出来上がったものだ。

立ち上げまで、かなり短い時間の中で、相当苦労した。そしてこの「コロナ禍」。実はお店のオープンも危ぶまれた。実際、美術館自体はオープンを延期し、ようやく先日7月11日(土曜)にグランドオープンを果たしたばかり。僕らは当初美術館グランドオープン予定だった日付、4月11日に「プレオープン」という形で試験的に営業を開始した。コロナ対策を十分実施し、営業時間を短縮、テイクアウト料理の導入、メニュー改編など、対応に追われたがスタッフ含め、非常に頑張って乗り切ってくれたことは、本当に感謝している。そして何より、その環境下で、お店にお越しいただいた皆さんに、改めて御礼を申し上げます。本当にありがとうございます。

さて今回、お店の料理や内容については、このコロナ禍が治った以降、是非青森県に足を運んでいただき、存分に楽しんでいただきたいと思うので、あえて記載は省きますが、僕らのコンセプトは、「弘前のファミリーレストラン」を掲げております。ひとつずつ丁寧に、青森県産の旬の食材を使いながら、各々が異なるシーンで楽しんでいただくため、時間ごとにバリエーションを豊かにし、そして少しでもお腹がいっぱいになるメニューを用意しました。

そしてなにより、このカフェスペースに併設する形で「シードル工房」が出来上がったのだ。JR東日本青森商業(株)が2010年、新幹線が新青森まで出来上がった際に生まれた「A-FACTORY」が同時に入居、7基のタンクを設置した工房で作ったシードルを販売する「A-FACTORY 弘前吉野町シードル工房」

では、そこで作り上げたシードル「A-FACTORYアオモリシードル弘前吉野町1(スイート)、2(ドライ)」や「吉野町アップルソーダ(ノンアルコール)」を醸造し、現在カフェではグラスで提供、ショップでは、ボトルで販売しております。

美術館のカフェを作るにあたり、1年、2年という経営計画ではなく、5年、10年という中長期の店舗を運営、事業計画を立て、お客様にサービスを提供していかなくてはならない。もちろん1名では無理で、経営、現場、カフェであれば生産者や酒屋さん、ショップであれば作家さん、商品を扱っている企業さん、そしてなによりお客さんとの関係を作り上げることでなり得る「時間」だと感じている。特にコロナ禍を体験して思うことは、社会全体、そして飲食に関する、この先10年のおおよその方向性が朧げながら見え始めていると考えている。単に飲食店を開くだけではなく、その地域、そして外食に求められていることはどんなことで、その中で「飲食店」はどんな存在になり得るべきなのかという問いと答えが裏表のように、その場を現在取り仕切る人たちの気持ち、責任感で生まれ、育つのではないかと思う。このコロナ禍の中で、実施してきたこと、これから起こり得ることは、これまでの10年では到底クリアできない問題で、新たな答えを模索しながら、進むことにチャレンジする、そんな時代がそこまできているだと思う。

[概要]
・カフェ/CAFE & RESTAURANT BRICK
・ショップ/ museum shop HIROSAKI MOCA

https://www.facebook.com/cafe.restaurant.brick
[グランドオープン] 2020年7月11日(土) 09:00 ~
[ 所在地 ]青森県弘前市大字吉野町2−11
[ 電話番号 ] 0172-40-2775
[ 営業時間 ] カフェ/ショップ 09:00-22:00(L.O. 21:00)
[ 定休日 ] カフェ/ショップ 火曜(美術館に準ずる)

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第95回

本当は”山登り”したくなる夏。今日は都会、海苔弁で山登り

7月。ようやくコロナ禍も治りつつ、徐々に小規模イベント、飲食店営業が再開となっている矢先、200人を超える感染者が増えてきている状況だ。Go Toキャンペーンもさることながら、「東京で暮らす人たち」が、東京以外で活動し始めていることも影響、また逆に東京に来られた人が地方に戻ってコロナを発症ということも少なくない。依然withコロナは続く一方だ。

弊社も、引き続き東京での活動を続けている。正直、オフィスを構えることについても、「オフィスは必要なのか?」という自問はあったが、結果、オフィスを持つこと、また会社組織として5年、10年継続することの楽しさ、難しさを経験していなければ、乗り越えられなかったことも多く、そしてオフィスでの作業、仕事が、以前よりも質を持って、無駄な時間を作らず過ごすことが大切だと改めて感じ、「オフィスで過ごす時間をできるだけ効率よくしたい」と考えるようになった。その中で、コロナ禍の間、弊社スタッフと、オフィスでの楽しみが「お弁当」のテイクアウトだ。

弊社のオフィスは「築地」にある。すでに市場は豊洲に移転しているのだが、寿司屋やラーメン屋のほかに、「お弁当屋」もいまもなお数多く残っている。その中で、最近気になっているのが「海苔弁 山登り」だ。さて「海苔弁」は、大手チェーン弁当屋で気軽に安価で購入できるお弁当ではあるが、「海苔弁は安くて美味しい」という概念を打ち破る風変わりなお弁当屋がこのお店だ。価格は1,080円となかなかのお値段。それでも「GINZA SIX店」では連日行列ができ、多い日で1日600個も売れる人気店なのだ。

その人気の秘密は、海苔弁の主役の「海苔」にある。『刷毛じょうゆ 海苔弁山登り』では、潮の干満さが大きく、流入河川が多いことで海苔の飼育の最適な環境の有明海で収穫される海苔を使用。その中でもその年の一番摘みの海苔を使用している。いわゆる新芽だけで作られているため、やわらかくて口どけが良いことが最大の魅力だ。さらにこの新芽は、自然に青のりが付着した天然海苔の「青混ぜ」という海苔だ。「青混ぜ海苔」とは、黒海苔の中に青海苔が混じるもののことで、1年のうちにわずかな期間しか生産されず、海苔全体の1%しか取れないというとても貴重なもの。その上質な海苔を使い、溶けるような口どけの最高級の海苔弁、そんな海苔弁を食べて欲しい。

まず、弁当箱からはみ出るほど大きい「鮭」が入った海苔弁。大きな鮭、ちくわの磯辺揚げ、玉子焼きと海苔弁の定番おかずが満載の「海」。鮭は皮まで美味しく食べられるようにとしっかりと焼かれている。焦げ目のついた甘い玉子焼き、ほうれん草のおひたしと思いきやほうれん草のナムルなど、ちょっとしたうれしい変化球の副菜も海苔弁とよく合う。それでいて、この海苔弁、ご飯の量が少なくて嬉しい!たまに、ご飯が多くて、どっちを食べているのかわからなくなるのだが、ご飯と惣菜のバランスが絶妙。

そして、そのご飯は、なんと「二段重ね」になっており、「海苔—ご飯—海苔—ご飯」がこれまた絶妙。。そのとき感じたのは、爽やかでフレッシュな海苔の風味だ。そして意外だったのは、海苔特有の強い磯の味がしないこと。あくまでも爽やかで、スッと香るような風味になっている。「これが新芽の味か」と大いに納得。知っている海苔弁の味とは全く違う味わいに驚きました。そして何よりも海苔が箸でスッと切れる箸切れの良さがとても食べやすく、口の中で海苔が溶けるような滑らかな食感が味わい深く感じます。

そのほか、野菜中心のおかずがのった優しい味わいの海苔弁「畑」、生姜香る塩麹の鶏の照り焼きと山の幸の海苔弁「山」もなかなかの味わいだった。包装は、シンプルでデザインセンスも抜群。お持たせにしたい素敵なパッケージです。それぞれに、海、畑、山と弁当の内容が記載されています。お土産にもぴったりです。

有明海の恵み、一番摘みの新芽の海苔弁。箸切れがよく新鮮で柔らかな海苔は、新芽だけが持つ爽やかな香りが楽しめる。そもそも、弁当の開発のコンセプトは「冷たいけど温かい」、作り手の温もりが伝わるような「家庭料理の最上級」を目指したのだとか。有明海の最高級の海苔に、自家製の割醤油をはけで一枚一枚丁寧に塗って作られる手作りの海苔弁は、今まで食べてきた海苔弁とは一味違います。夕方には売り切れてしまうことも多いので、早めに出かけてみてください。

店名:刷毛じょうゆ 海苔弁山登り 築地直売所

住所: 東京都中央区築地2‐8‐8
TEL:03-6264-3584
営:11:30~17:00(※商品がなくなり次第終了)
定休日/日曜・祝日
http://www.bento-smiles.com

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第94回

北海道・北斗市に「北斗神拳」ならぬ「北斗芯軒(?)」登場。その味わいに「もうお前は死んでいる」状態(笑)

先日コロナ明けから、一気に北海道に足を運ぶことになった。目指すは函館より北、北海道新幹線をおりて車で20分、北斗市にある「北斗芯軒(ほくとしんけん)」というお店だ。店看板を見ると、流石に笑いたくなる。地方にありがちなスナック?かと思うくらい。

実はこのお店、おなじく函館から1時間ほど行った「木古内」の道の駅に併設されたレストラン「どうなんde’s」でシェフを勤めていた八木橋一洲(いっしゅう)さんが、出身地の北斗に自身のお店を今年4月3日にオープンしていた。しかし実際のところ、コロナの影響もあり、北斗市に観光客が激減、このタイミングでオープンするのは厳しいのではないかと思っていた。

そんな逆境をチャレンジとみて挑戦した八木橋さんの師匠は、山形の有名店「アル・ケッチァーノ」の奥田政行氏。その奥田シェフが、八木橋さんのお店に名前をつけた。それが「北斗芯軒」。「出身地の北斗市」「真剣に」、そして八木橋シェフの「雑草魂」を、店名に盛り込みたかった奥田氏が、漫画「北斗神拳」をもじり、まんま店名をつけた。「パロディーか?!」と思いきや、意外にも深い思いが込められたお店でもある。

木古内「どうなんde’s」の時から、奥田シェフの影響で、道産食材の扱いにたけ、この日、私が食べたパスタも、「江差産紅ズワイガニと春キャベツのパスタ」で、食感と旨味がギュッと詰められた、まさに「ここでしか提供できない」代物。また厨房で、お店を一緒に支えている木本可南子さんは、おなじく「どうなんde’s」に併設されたパン屋「コッペん道土(どっと)」で、技を磨いたパン作りのプロ。彼女はパン屋を退職し、ワーキングホリデーを使い、カナダに渡加。1年の修行をへて先日カナダから戻られたばかり。パンにはもちろん、道産小麦粉を使い、てごねで焼きあげたパンで、料理を引き立てている。

「まさかの北斗市で、イタリアンに馴染めない方でも、ふらりと寄れる店にしたい」と八木橋さん。ちょうど訪れた時、すこしわがままを入って、ディナーで提供される「帯広産 どろぶたステーキ」をご馳走していただいた。一人で食べるのがもったいないくらい。そして木本さんのパンを最後にいただき、ご満悦で、一人北斗の旅は終了。

コロナの影響で、当たり前に、インバウンドの戻りは2020年、無いと僕は感じている。一方で、日本人も海外に出ることが少なくなれば、自ずと、日本の各地に、旅行をする機会は増えるはず。とはいえ、団体客というよりは、3−4人の家族や友人といった規模になるのは間違いない。そういうときに、この北斗芯軒は「ツボ」だと思う。この北斗市で、アル・ケッチァーノ直伝のイタリアンを食することができる場所は、なかなかない。

是非、新幹線にのり、北海道函館近辺に向かうとすれば、魚料理の前に「北斗芯軒」に足を運んでもらいたい。その味わいに「お前はもう死んでいる、、」になるはずだ。味は保証します!

北斗芯軒

住所: 北海道北斗市久根別2丁目3-7, ロイヤルコ-ポ1F

電話: 0138-84-1362

https://www.facebook.com/hokutoshinken.pasta.izakaya/

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第93回

梅雨入り、コロナ明け。虎ノ門横丁開業。

日本は「梅雨入り」が叫ばれ、鬱陶しい湿度と暑さがで始める季節が始まった。新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言が解かれ、週末は、街中には人手が増え始めている。特に3月、4月オープンをする予定だった商業施設が軒並み、オープンを始めている。

その中で、オープン早々人気を集めているのが「虎ノ門横丁」だ。6月11日に「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」が開業。おおよそ7,600平米(2300坪)に新しい商業施設が59店舗出店。物販やスーパーマーケット、そしてランチからディナーまで活用できる飲食店・レストランが目玉で、この横丁には東京をはじめ全国各地の名店26店舗が集結。

その中でいくつか紹介させていただくと、まず「振り塩とイタリアン イル・フリージオ」は、弊社oiseauがロゴデザインをさせていただいた飲食店だ。

山形県鶴岡市の『アル・ケッチァーノ』や、銀座の『YAMAGATA San-Dan-Delo』など、人気店のオーナーシェフを務める奥田シェフが新たに手掛けた『イル・フリージオ』は、なんと醤油の代わりに塩とオイルでいただく「オイル寿司」とイタリアンのお店だ。実は、山形・鶴岡に2年前、同店を出店。日本海側の漁港と連携し、うまい魚を仕入れ、オイルと塩で食べさせる味わいは、特に海外のお客様に大人気!そして今回の出店にあたり、なんと鶴岡のお店を閉じて(!)そこの店長ごと虎ノ門に出店してきたのは、流石に驚いた出店戦略です。当時、弊社は和食の料理人を派遣、お店を立ち上げからお手伝い、その時のロゴを、虎ノ門用に改変して、再出店!したのである。

一見すると、「?」という人も多いはずだが、イタリア料理の定番の一つ「カルパッチョ」からも想像できるように、ネタにオイルをぬることで魚介に不足している油脂分をプラス。人間が美味しいと感じる「糖分、油脂分、塩分、旨味」のバランスを絶妙に調整することで、究極の美味しさを実現しているのだ。

ネタとなる魚介は、日本海をメインに全国各地の旬の味覚を厳選。オリーブオイルは「ピスタチオナッツオイル」など世界各国から30種類以上をチョイス。塩に至っては「クリスマス島の海水塩」など100種類以上をそろえる。

わずかに苦味を感じる青魚にはミネラルの多いちょっとだけ苦味のある塩を。酸味のある赤身には少し酸っぱさを感じる塩を…といった感じに、アジには「チェントンツェ(オーガニック エキストラバージンオリーブオイル)」と「月の雫の塩」、スズキには「バジルオイル」と「玉藻塩」で仕上げる。「寿司は醤油」と既成概念を覆すことで、ワインとの相性もぴったりになった「オイル寿司」に是非チャレンジしてほしい!

もちろん、「オイル寿司」とともに、アル・ケッチァーノ定番イタリアン料理も揃っていて、特に、魚料理と、それを合わせたパスタが絶好にうまい!カウンターでイタリアンを食べながら、新感覚で食べられるお店であることは間違いない!

そして、この「虎ノ門横丁」をプロデュース、26店舗のリーシング(一般的に、商業用不動産の賃貸を支援する仕事)を担ったのが、マッキー牧元さんだ。「タベアルキスト」として立ち食いそばから割烹、フレンチ、はたまたエスニック、スイーツや居酒屋にいたるまで、旨いものがあると聞きつければ、距離を厭わず東西南北足を運んで舌鼓を打ち、年間600回超の外食生活を送る。

そのマッキーさんの店舗選びが抜群に面白い。なにより「超高層タワーの1フロア」という前代未聞のロケーション。丸の内HOUSEを少し思い出す。そして、各店にちょい飲み用のカウンターを設えると同時に、フロア内の数カ所に「寄合席」と呼ばれるフードコート的なコーナーを作ったこと。そこには、各店の寄合席用メニューを持ち寄って、ワインショップや蒸留所で購入した飲み物と一緒に、自由自在に楽しめるのだ。

そのお忙しいマッキーさんを、現在ほとんど虎ノ門横丁で見かけるのだが(笑)、マッキーさんが手がけているプロデュース店舗が、「築地金だこ」だ。コンセプトは「もし世界中にたこ焼が存在していたら、どんなたこ焼として愛されていたか?」だ。

たとえばフランスなら、「サフラン」と「アメリケーヌソーズ」でアレンジした「マルセイユ風」、「ブルーチーズ」を使った「ピレネー風」。さらに中国は「四川風麻婆豆腐」、タイなら「ガパオ風」…と、それぞれの国や地域の食材や食文化から考案したメニュー、常時2~3種類を展開していく。オープン月の6月に登場するメニューは「スイス ツェルマット風 ~チーズソース&生ハム~」と「タイ バンコク風 ~グリーンカレー」の2種類。「銀」ではない、「金」の第1号店が、『虎ノ門横丁』に誕生。『東京オリンピック』に向けて、東京がさらに新しく生まれ変わろうとしている今、『築地金だこ』が、世界に向けた「NEOたこ焼」を提案していく。

***

こうして、新店舗がオープンすることは、僕自身とても嬉しく思っているが、すこしでも3、4、5月と弱り切った飲食業界をサポートしていくには、こうした新店舗だけではなく、自宅の身近にあるお店だと思っている。もちろん人気店や、美味しいお店は必然的に生き残っていくだろうし、生き残っていくためのポリシーがものすごく強く、そうした「強さ」に、お客様はエールを送りたくなる。しかし、街中の店舗はそうはいかない。どうやって飲食店を支えるべきなのか、僕も3、4、5月と時間をかけてはいたが、使う側、使われる側両方にとって、非常に重要な選択と決断を迫られた期間だったと思う。「コロナ明け」とは書いたが、ワクチンも依然と明確ではないまま、夏を迎えようとしている。この状況をどのように乗り越えていくのか。まだまだ先は長い。

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第92回

コロナウィルスが生み出した距離感、価値観が変わる外食産業

コロナウィルス感染拡大防止につき、全国に出されていた「緊急事態宣言」が、2020年5月25日(月)全面解除となった。ちょうど先週末、街には多くの人たちが買い物に出かけ、飲食店も徐々に再開し、営業時間も延長している状況だ。ただ、「ソーシャルディスタンス(※ちなみに、飲食業界では一定の距離を離して座ることを「フィジカルディスタンス」と呼んでいる)」、そして感染防止のための対策を取ってはいるが、再開したとしても、当分の間は、売り上げは見込みの半分が目処になるではと考える。

飲食店の売り上げの基本は「席数×客単価×回転率」である。客単価、回転率を変えないで席数を減らしたら、目標売上げに到達するのは永遠に無理。利益を出すには家賃、人件費(社員給与)などの固定費を下げるしかない。もちろん固定費負担の補償が終われば赤字が続くので、売上げをキープするには客単価、回転率を上げるしかない。しかし、今の環境で客単価を上げられるか? とすれば、回転率を上げるためには、営業時間を伸ばすしかない。さらに夜10時までしかできないのであれば、前に伸ばすしかない。では朝から営業するのか?ただ営業時間を伸ばせば、変動人件費(アルバイト)が増える。変動人件費を上げないためには固定費の社員だけで回すか、アルバイトスタッフを極端に減らすしかない。そしてスタッフを減らせばサービスが悪くなる。サービスが悪くなれば客数が減り、売上げが下がる。結果コロナは「負のループ」というボトルネックをもたらしている。今後、売上げをキープするには、客単価を上げるしかない、という議論が出てくるはずだ。客単価を上げるには、それに見合う価値を提供できなければならない。飲食店にとって価値とは何か?

例えば、客単価を上げて行くには、「提供サービス」と「仕入れる食材」を変えることが一般的だ。仕入れ食材でいえば、この3、4、5月で収穫できた野菜や肉、魚類に関しては、一般小売は休業店舗も多かったので、売り上げはダウンしているが、卸販売、ECでの宅配に関しては、繁忙期と変わらない活動と売り上げの規模と聞いている。もちろん「ソーシャルディスタンス」「テイクアウト」が主流になった3ヶ月では、テイクアウト用のパッケージ類も手に入らない状況だ。世の中は、もっと良い食材を欲しがり、もっと舌が肥える状況を作り出す、どんどん差別化が、外食では進むはずだ。

こうしてみると、前回ブログにも書かせていただいたが、私たちが考えている「外食」について、2020年は異様であり、逆に、今後2020年以前の成り立ちに戻るのかどうかという判断は、現在時点では無理であり、なにより、飲食店を利用する人の考え方が変わりつつあるのは自明だ。

そうした中私は、この4月より、とある場所に「農園」を1年間借りることを決めた。実は農園作業というのは、私にとっては、10数年ぶりのことで、以前、世田谷区池尻にある「IID 世田谷モノづくり学校」の屋上で「屋上菜園」を1年間ほど実施させていただいたことがある。その時は、屋上のスペースに、屋上菜園用の土がはいったマットを敷き詰め、そこで、トマトやきゅうり、枝豆、そして最後はブドウ(当初は、世田谷ワインを作りたかった)までこしらえたが、結果、屋上での菜園を継続が難しくなり、一部を地上におろし、屋上での活動が難しくなった。その時栽培した野菜は、当時農林水産省が提案した「マルシェ」がはじまり出した時期で、いくつかマルシェで販売したり、友人に手渡したり、手料理にして、自分で食べたりなどしていた。

ただ農園を実施した時の悩みが「価値化」だった。もちろん、ビジネスに直結した計画をたてていたわけではなく、東京都心の屋上で、どの程度、野菜が作れるのか、また、都心屋上に見合う野菜収穫の可能性を探っていた。また野菜の収穫量については、随分悩んだ。例えば多く収穫した場合。枝豆が蔓ごと、大量に取れた時、配りきれなくて、枝豆が主のレシピの料理になってしまった夜(笑)や、逆にせっかく収穫したのに、2、3個しか採れないピーマンは、その場でかじりついて、苦さとともに、少し青さと甘みを感じる味わいを楽しんだりして、自らの成果をどのように価値化していくのかが明白ではなく、おおよそ「農業ビジネス」には自分は向かないと認識したものを事実であった(苦笑)。それから、自分の会社を立ち上げ、一時、八百屋事業を始めた時、そのビジネスの「面白さ」「大変さ」の両方を感じながらも、あらためて農業に関わるビジネスは「息が長い事業」であることを認識している。(主に青果だが)

「withコロナ」状況のなか、今一度「つくる」に向き合う初夏が訪れている。あやめ雪、小蕪、ズッキーニ、トマト(アイコ、フルディカ)、小松菜、パクチー、ルッコラ、キュウリ(シャキット、Vロード)、パクチーなど、植え始めている。先日は間引きし、大量の小松菜を収穫。6月から田植えも開始予定。

ただ、野菜の栽培が目的というより、僕にとっては「価値の見直しの作業」を進めている。その土地、畑の栽培・収穫に関わっている人(今回は、とある農園をかりつつ、野菜の育成について指導を受けています)とのコミュニケーションが、結果、どんな野菜を育てるのか。実は、農園によっては、育て方が異なると、出来上がりも違うし、「間引き」によっては、生産量も異なります。しかし、まずは畝をつくり、そこに種を植え付け、灌水し、太陽と土の栄養から育つことからしか、食物は育ちません。それも、「時間を要し」ます。お米は年に1回しか育ちません。「息が長い」とは、その商品に込められた時間にこそ現れてくるのだと、つとに感じます。

僕らはコロナウィルスとの接点は、付き合う時間が長ければ長いほど、僕らの時間の接点に、大きく関わってくるはずです。時間を切り売りする時代から、その事象に長く付き合って行く時代へ。そして、デジタル化は進む一方で、リアルな距離が薄くなり、物流が発展。そして、自ら育て、手に入れられるものが、最大の価値を生む。「物理距離」は遠くなり、「距離感」は近くなる。僕らが出会ったコロナウィルスは、ものすごく遠く、そしてもっとも身近な病だ。

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第91回

外食における「家族の食事」、新時代到来。2020年、僕らの時代の「ファミリーレストラン」とは?

コロナウィルス感染拡大防止より、日本国内に「緊急事態宣言」が発令されて1ヶ月。ミシュラン星付きレストランからファーストフードまでの、ありとあらゆる飲食店、そしてお客様で賑わう商業施設、公共施設が軒並み休業となり、特にゴールデンウィークは『オンライン帰省』が謳われ、車両に誰も乗っていない新幹線とは逆に、それぞれの在宅活動がSNSを賑やかしていたというのが印象的だったと思う。

しかしそうした新しい気づきを得られる一方で、5月14日(木)緊急事態宣言が一部解除になったが、ウィルス第2波に関する恐怖や不安、そして、そのウィルスを駆逐するワクチンの開発はいつになるのかを換算していくと、どんなに短く見積もったとしても1年ほどは、この影響は継続していくと僕は考えている

そんな中、僕は前回のブログで「食に関する接点」が大きく変化していくと書かせていただいた。例えば我が家でも、妻や子どもが自宅に待機し、仕事をしたり、遊びをしたり、普段では考えられなかった時間を生み出した、新しい時間の感覚を得られた1ヶ月でもあった。もちろん自炊に関しても、プロの料理人が提案するレシピが手に入りやすくなったり、そもそも料理人がオンラインで一緒に料理し、アドバイスしながら最後に一緒に食べて飲み合う状況が生まれたり、ECやウーバーイーツ含め、出来上がったものを自宅で提供される環境が、一瞬のうちに、世の中に提供、広まったことはとても大きいと感じている。そうすると、単に人と人がコミュニケーションや商談で使っていた「外食」の考え方もだいぶ変わるはずだ。

その外食。みなさんはどんなイメージをお持ちでしょうか。ハンバーガー店や牛丼屋、ファミリーレストランなど、現在では多様な外食産業が盛んです。「チェーン展開」を特徴とするこれらの外食産業はおもに1970年代以降に登場したものですが、料理店や食堂など、家庭外で食事を提供する飲食店は、より古くからありました。1970年以前の話は、少し長くなるので、今回は割愛しますが、この「1970年」は外食の歴史上画期的な年でした。例えば、ファミリーレストランの「すかいらーく」が第1号店を出店し、同年大阪万博に「ケンタッキーフライドチキン」が出店しました。この年は業界において「外食元年」と呼ばれています。翌71年には銀座に「マクドナルド」の第1号店がオープンし、以後ファミリーレストラン、ファーストフードの大規模なチェーン展開がなされていきます。このころからマスコミで「外食産業」という言葉が使われだします。「外食産業」とは、『広辞苑』によれば、「飲食店業、特にレストラン・チェーンやハンバーガー・ショップなど規模が大きく、合理化された飲食業の総称」と書かれています。ファミリーレストランやファーストフード店の登場により、手ごろな値段で食べられ、食事の準備も後片付けもしなくてよいという、人々の要求が満たされ、外食は日常化していきます。

この「外食産業=合理化された飲食業」をもう少し噛み砕くと、例えば、ファミリーレストランは「家族連れ」に対応した業態ともされ、その料理の幅は老若男女に添ったものが提供されます。また、多くの客に同時進行で食事が供されるように、広い店内が特徴的といえるでしょう。また料理の価格帯は概ね大衆的で、500−2000円くらい。注文から提供時間まで3分以上(逆に3分より少ないとファーストフードと呼ばれます)、質と量共に低価格で満腹感が得られる傾向が強いのです。そして酒を飲まないお客様への細かい配慮が多く、例えば「ドリンクバー」などはファミレスから生まれたものです。ちなみに、欧米においては、レストランの多くが子供の入店を禁じているのがほとんどなので、この「ファミリーレストラン」という言葉は、「子供の入店が可能なレストラン」という意味で、確固としているのが通常です。

ま僕たちを揺さぶっているコロナウィルスの問題は、「合理化された飲食業=外食」を大きく揺さぶっているのは間違いない。先ほど「家族」「ファミリーレストラン」を取り上げたが、「家族が外食をする」という行為を改めて振り返る必要があると感じている。

この事例を検討していく際に、気になった飲食業態が、株式会社スマイルズが運営している「100本のスプーン」というレストランだ。いくつか調べてみると、この100本のスプーンは『子どものころに家族で行った外食の想い出は、今でも忘れないもの。「コドモがオトナに憧れて、オトナがコドモゴコロを思い出す。」そんな場所を作りたい』という気持ちで、「ファミリーレストラン」をスタート』させている記述がある。

(参考:https://www.smiles.co.jp/business/#/project/spoon/spoon05

実際にお店を訪ねてみると、どのお店も50席以上、価格帯は1メニューあたり1000-1500円とお値段はそこそこ上がるが、だれでも持ち帰ることができる新聞紙のようなメニューには、写真がふんだんに使われ、どれも美味しそうなラインナップが躍る。

その中でも『好きなものが少しずつたくさん乗っているお子さまランチをイメージした、大人も食べたくなるワンプレートメニュー「リトルビッグプレート」』は人気メニューで、大きな木皿に10品が載せられた通常サイズのほか、こどもや年配者も、大人と同じ料理を食べられるようにボリュームをおさえた7品の提案が、今の時代において新しく感じた。また飲食以外にも、記念日のお祝いやハレの日の家族の食事、離乳食の提供、コドモもオトナも楽しめるイベントといった「家族が外食すること」に特化した飲食店を作り上げていたのが印象的だった。そもそも僕らが「外食する」というのは、食事以上に「コミュニケーション」が主だったと感じることに、ふと思い当たるお店の作り方をしている。

例えば、僕がいま手掛けている、とある美術館に付帯するカフェも、「家族」をメインにしたレストランを考えていた。特に「美術館」のような文化醸成する場において、「美術館にわざわざ来る時に、食事する場」「今日は家族で美術館へ、帰りにカフェへ」「あの日、デートしたのは、美術館のカフェだったな」とその時間を印象付ける場の提供こそ必要ではと感じたのだ。どれも食の接点、いやその場を体験した「時間の接点」としての場、外食を提供するレストランとしての役割が必要だと感じている。もちろん、うまいまずい、そんなカフェだったら、こんな料理や提供サービスが必要だとアイディアは膨らむが、結果、飲食としてだけではなく、その場を提供する「時間プロデュース」こそが、そのカフェには必要だった。

100本のスプーンは、「スタンダードを、より上げていく」という方向性が見えた。僕らオアゾも、なにか一つを極めていくのではなく、皆がほしいもの、スタンダードを、より上げていくことがテーマと感じている。「家族と過ごす外食の場」をどのように作り上げるか。このスタンダードを上げることが、新しい家族のコミュニケーション、時間作りのお手伝いができるのではと感じている。

100本のスプーン:https://100spoons.com/

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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