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食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第92回

コロナウィルスが生み出した距離感、価値観が変わる外食産業

コロナウィルス感染拡大防止につき、全国に出されていた「緊急事態宣言」が、2020年5月25日(月)全面解除となった。ちょうど先週末、街には多くの人たちが買い物に出かけ、飲食店も徐々に再開し、営業時間も延長している状況だ。ただ、「ソーシャルディスタンス(※ちなみに、飲食業界では一定の距離を離して座ることを「フィジカルディスタンス」と呼んでいる)」、そして感染防止のための対策を取ってはいるが、再開したとしても、当分の間は、売り上げは見込みの半分が目処になるではと考える。

飲食店の売り上げの基本は「席数×客単価×回転率」である。客単価、回転率を変えないで席数を減らしたら、目標売上げに到達するのは永遠に無理。利益を出すには家賃、人件費(社員給与)などの固定費を下げるしかない。もちろん固定費負担の補償が終われば赤字が続くので、売上げをキープするには客単価、回転率を上げるしかない。しかし、今の環境で客単価を上げられるか? とすれば、回転率を上げるためには、営業時間を伸ばすしかない。さらに夜10時までしかできないのであれば、前に伸ばすしかない。では朝から営業するのか?ただ営業時間を伸ばせば、変動人件費(アルバイト)が増える。変動人件費を上げないためには固定費の社員だけで回すか、アルバイトスタッフを極端に減らすしかない。そしてスタッフを減らせばサービスが悪くなる。サービスが悪くなれば客数が減り、売上げが下がる。結果コロナは「負のループ」というボトルネックをもたらしている。今後、売上げをキープするには、客単価を上げるしかない、という議論が出てくるはずだ。客単価を上げるには、それに見合う価値を提供できなければならない。飲食店にとって価値とは何か?

例えば、客単価を上げて行くには、「提供サービス」と「仕入れる食材」を変えることが一般的だ。仕入れ食材でいえば、この3、4、5月で収穫できた野菜や肉、魚類に関しては、一般小売は休業店舗も多かったので、売り上げはダウンしているが、卸販売、ECでの宅配に関しては、繁忙期と変わらない活動と売り上げの規模と聞いている。もちろん「ソーシャルディスタンス」「テイクアウト」が主流になった3ヶ月では、テイクアウト用のパッケージ類も手に入らない状況だ。世の中は、もっと良い食材を欲しがり、もっと舌が肥える状況を作り出す、どんどん差別化が、外食では進むはずだ。

こうしてみると、前回ブログにも書かせていただいたが、私たちが考えている「外食」について、2020年は異様であり、逆に、今後2020年以前の成り立ちに戻るのかどうかという判断は、現在時点では無理であり、なにより、飲食店を利用する人の考え方が変わりつつあるのは自明だ。

そうした中私は、この4月より、とある場所に「農園」を1年間借りることを決めた。実は農園作業というのは、私にとっては、10数年ぶりのことで、以前、世田谷区池尻にある「IID 世田谷モノづくり学校」の屋上で「屋上菜園」を1年間ほど実施させていただいたことがある。その時は、屋上のスペースに、屋上菜園用の土がはいったマットを敷き詰め、そこで、トマトやきゅうり、枝豆、そして最後はブドウ(当初は、世田谷ワインを作りたかった)までこしらえたが、結果、屋上での菜園を継続が難しくなり、一部を地上におろし、屋上での活動が難しくなった。その時栽培した野菜は、当時農林水産省が提案した「マルシェ」がはじまり出した時期で、いくつかマルシェで販売したり、友人に手渡したり、手料理にして、自分で食べたりなどしていた。

ただ農園を実施した時の悩みが「価値化」だった。もちろん、ビジネスに直結した計画をたてていたわけではなく、東京都心の屋上で、どの程度、野菜が作れるのか、また、都心屋上に見合う野菜収穫の可能性を探っていた。また野菜の収穫量については、随分悩んだ。例えば多く収穫した場合。枝豆が蔓ごと、大量に取れた時、配りきれなくて、枝豆が主のレシピの料理になってしまった夜(笑)や、逆にせっかく収穫したのに、2、3個しか採れないピーマンは、その場でかじりついて、苦さとともに、少し青さと甘みを感じる味わいを楽しんだりして、自らの成果をどのように価値化していくのかが明白ではなく、おおよそ「農業ビジネス」には自分は向かないと認識したものを事実であった(苦笑)。それから、自分の会社を立ち上げ、一時、八百屋事業を始めた時、そのビジネスの「面白さ」「大変さ」の両方を感じながらも、あらためて農業に関わるビジネスは「息が長い事業」であることを認識している。(主に青果だが)

「withコロナ」状況のなか、今一度「つくる」に向き合う初夏が訪れている。あやめ雪、小蕪、ズッキーニ、トマト(アイコ、フルディカ)、小松菜、パクチー、ルッコラ、キュウリ(シャキット、Vロード)、パクチーなど、植え始めている。先日は間引きし、大量の小松菜を収穫。6月から田植えも開始予定。

ただ、野菜の栽培が目的というより、僕にとっては「価値の見直しの作業」を進めている。その土地、畑の栽培・収穫に関わっている人(今回は、とある農園をかりつつ、野菜の育成について指導を受けています)とのコミュニケーションが、結果、どんな野菜を育てるのか。実は、農園によっては、育て方が異なると、出来上がりも違うし、「間引き」によっては、生産量も異なります。しかし、まずは畝をつくり、そこに種を植え付け、灌水し、太陽と土の栄養から育つことからしか、食物は育ちません。それも、「時間を要し」ます。お米は年に1回しか育ちません。「息が長い」とは、その商品に込められた時間にこそ現れてくるのだと、つとに感じます。

僕らはコロナウィルスとの接点は、付き合う時間が長ければ長いほど、僕らの時間の接点に、大きく関わってくるはずです。時間を切り売りする時代から、その事象に長く付き合って行く時代へ。そして、デジタル化は進む一方で、リアルな距離が薄くなり、物流が発展。そして、自ら育て、手に入れられるものが、最大の価値を生む。「物理距離」は遠くなり、「距離感」は近くなる。僕らが出会ったコロナウィルスは、ものすごく遠く、そしてもっとも身近な病だ。

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp