和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第89回

奈良に、ウグイス。最速立ち上げ、ポップアップレストランの作り方。

「奈良に、ポップアップレストランを作って欲しい」とオファーがあったのが2020年2月末のこと。「ポップアップ(限定店舗)」と聞いててっきり、2、3日ほどの短期間と考えていたが、なんと「半年」という短いようで結構長い期間だった。。すでに明日は3月1日、、ということは、たった1ヶ月でレストランを立ち上げなければいけない状況に陥ったのだ。

しかし、オファーを受けたからには、すぐさま企画をまとめなければならない。僕が飲食店を立ち上げる際に、具体的に6つの項目を作り上げることを決めている。①ビジョンを作る ②道具を揃える ③人を集める ④資金を集める ⑤つくってもらう ⑥世に出していくだ。この一連の流れに沿って、意味作り、サービス・仕組みを作るのがポイントだ。

まず、①ビジョンを作る。実は僕にとって「奈良県」は、人生でも1、2度、しかも「仕事」で行ったことがない場所だ。1度目は、高校の修学旅行で訪れた東大寺だ。今回東大寺に気分転換で一度訪れたが、久々に大仏を拝むことができた、というほどのご無沙汰である。その中で、この奈良でどんなポップアップレストランが展開できるのかを、奈良市内を歩き回り、飲食店を食べ歩きしながら、それらからうける「第一印象」を大切に、業態を検討した。

その奈良の飲食店で受けた印象は、どこにでもある「観光地方都市」であった。営業時間がやたら長いファミレス、何十年も変わらない夜18時にはすべて閉店する商店街など、アップデートがなく、「これをやっていれば潰れない店作り」が見えてきた。とすると、飲食店も似たような店作りとなり、昼はテイクアウト専門、夜は居酒屋というパターンに気づいた。「これは、安定した手堅い一つの業態ではなく、複数の業態が入り込む、一見困難で不安定だが、業態、料理人も時間、曜日、期間で入れ替わるような飲食店が、奈良の風景を変えるきっかけを作り得るかもしれない」と、今回のビジョンづくりのきっかけを得たのだ。ときには地元で居心地のよいフレンチ、朝はコーヒー専門店、夜は小料理屋のような、ちょっと落ち着いた和食屋。そんな、街のような風景が、このポップアップレストランに似合うかもしれない。

そんな状況を描きながら、次に足を運んだのが、気の利いた用具屋だ。僕が通う用具屋は、実は東京の一等地で展開する大手チェーンから、星付きレストランまで幅広く取引している会社で、今回のイメージを探すべく、お皿からカトラリー(フォーク、ナイフ)、厨房内備品(タッパーからナイフ、ボールまで全て)まで全て出揃う環境を作れる会社である。結果、2、3時間ほどで、すべての機材のリストアップを終え、結果、発注まで2日という短期間でおおよそを決め切ったのだ。

次に奈良の現場に足を運んだ。実は、今回のポップアップレストランは、4月4日(土)にオープンしたばかりの「奈良蔦屋書店」の2階のスペースだった。厨房設備は、これまた設備会社が半日で図面をまとめ、工事含めて大特急で進めたプロジェクトだった。2月末にオファーをいただいた時、僕が図面をいただけたのはラッキーだったが、それをもとに、何が必要で何が足りないかを瞬時に判断しなければならない。

そしてなにより「誰にこのポップアップレストランに出演していただくか」だ。その一番手に、地元のフレンチ田舎料理「ブラッスリー ロワゾブリュ」に依頼した。業態を探す際に、今回は多くの飲食店に、事前にお声がけさせていただき、その中で、「ブラッスリー ロワゾブリュ」を指名し、まずスタートからお店を開いていただいた。営業時間は11:00−17:00というカフェ営業の時間帯だ。この奈良蔦屋書店の営業時間は08:00−23:00という長丁場の舞台だ。その真ん中、いわゆる「第2幕」をロワゾブリュに、そして第1幕(08:00−11:00)、第3幕(17:00−23:00)と、続々とポップアップレストランとしての出店を促している。

そうして開業のために、資金を調達、無事に4月4日、お店をオープンすることができた。その名も「ブラッスリー アンド カフェ ウグイス」だ。もともと奈良市の市鳥は「鶯(ウグイス)」であり、弊社もoiseauで、フランス語で「鳥」、さらに、今回一番手のブラッスリー ロワゾブリュも「鳥」ということで、たまたまではあるが「鳥」に紐づいた名前になったが、あくまでも料理を食べられるレストランということだけではなく、一つの場所で複数の業態を演出し、そこで生まれるコミュニケーションやきっかけを作るのが、このお店の主旨であると理解している。またポップアップならではの「意外性」も大事だと思っている。先ほど挙げた⑤のつくってもらう、も自社でシェフを雇い、半年だけのお店を作り上げても、利益目的以外は、明確なゴールがないと感じていた。このお店を皆で、地元の人間とともに作り上げ、その半年なりのプロセスの中で、⑥世に出していくということが大事だと感じている。特別なものを作るのではなく、むしろ奈良市内の飲食店こそ特別なもので、ここでしか食べられないシーンを演出することが大切だと弊社は感じているのだ。

ただ、誤解を受けて欲しくないのは、「飲食店は1ヶ月で(プロがやれば)出来上がるものだと思ってしまう」ことだ。正直、出来上がりません(苦笑)。もちろん多くのプロが携わったことが大切ですが、「特急で作り上げる」には、パワーとコミュニケーショが必要であり、時にはシビアな話も繰り広げながら、進めなければならない、そんな状況を1ヶ月で作り上げることは、できるだけお勧めしません。また開業はしましたが、お店の内容もこれから、そして、昨今の新型コロナウィルスの感染拡大防止により、緊急事態宣言が発せられたタイミングでの船出です。事業を進めていく中で、どのくらいのリスクを背負い、避けながらも、それでも受けざるを得ないリスクを減らす作業を継続するのが弊社の役割でもあります。

スタートしたロワゾブリュは、少しずつお店のイメージを変化させていくはずだし、僕らも、また新しい業態を増やしていくことで、新たなコミュニケーションが生んでいく。そんな場所を作り続けます。

●ブラッスリー アンド カフェ ウグイス

〒630-8013 奈良県奈良市三条大路1丁目691-1 奈良 蔦屋書店 2F

(アクセス:https://store.tsite.jp/nara/access/
(店舗facebookページ:https://www.facebook.com/uguisu.nara

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp