和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第84回

スピード感が違い。需要と供給のバランスが崩れる。

正月は実家青森で過ごした2020年。さっそくこの1月は、これまで中国上海、香港と取り組んできた地域団体商標「北海道味噌」の海外事業展開支援も2019年度も佳境となり、上海、香港に住む現地の料理人、飲食店経営者にわざわざ北海道・札幌へお越しいただき、北海道味噌を作り、販売をしている事業者とともに、マッチングイベントを開催させていただいた。

今回、事業に参加している7社のお味噌を活用し、北海道の料理研究家に依頼、8品目の味噌料理を作っていただいた。7事業者のお味噌は見た目も味も、特徴も異なる、それぞれ個性豊かなお味噌ですが、一般的な味噌料理は「味噌汁」がメイン。もちろん調味料としての味噌というだけではなく、生でそのままいただいたり、「酢味噌和え」や「味噌ディップ(味噌とマヨネーズを合わせたソース)」として、他の調味料や食材と合わせ、特徴を際立たせるものは、非常に中国人にとっても有効であることがわかった。

けれど、この事業で一番参考となったのは、商品云々という前に、「中国」の体質を理解しなければならないということだ。今までは、「中国に進出するのは難しい」「中国人とのビジネスがうまくいかない」という言葉も多く聞かれたが、現代においては、だいぶそうした誤解が少なくなり、むしろ「日本人は判断が遅すぎる」「補助サポートが半年かかるのは、タイミングが悪い」といった、「即ビジネスにつなげる感覚」の「時代格差」である。

中国の食業界は、担当者レベルは20代、そして決済者、経営者は30-40代がほとんどだ。一方、事業者は50-60代が担当者、70代が決済者、経営者ということもあり、すぐに現地に飛んで、自分のお味噌がどんな場所に置かれて、どんな風に食べられているのかを確認するにも、「海外」という土地性から腰が重いのだという。できれば明日からでも、次の予定が見えている予定があるのであれば、まずは、「とっかかりのきっかけ」をできるだけ早く作る。そして、満を辞して食品を持って行こう、そこから関税を通そうとおもったら、普通にやると半年はすぐにかかる。その時中国という場所は、場所も政治もどんどん変わり、ビジネスを始めようとしていたときから、心変わりするのも、わからなくもない。

しかしこの状況は、中国だけに限らず、世の中のスピードは「かぎりなく早く」動き始めようとしている。そして、中国含めた、新たな先進国は人口も増え、爆発的に、日本料理のニーズが高まっているのだ。以前も申し上げたが、ここ3-4年で、中国内の日本料理屋の店舗数が4倍ほどに膨れ上がり、いわゆる「日本料理パクリ」も多くなっているのだ。これは、中国人が日本料理を知らず、真似して作っている状況もあるかもしれないが、それだけ「ビジネスチャンスだ」と彼らは認識し、正直「パクってでも」日本料理屋をやりたいニーズが存在している。

ただ、香港、そして上海は、「中国の食のメッカ」だ。中国本土においては、この2都市へのPRは欠かせない。けれど香港は政治的な問題で、年末年始、そしてこの1/24から始まった春節時期ふくめ、香港から撤収、閉店に追い込まれているレストランが増えている。非常に厳しい時期を迎えており、すぐさま復活するのは難しいのではないかと感じている。一方、上海は、日本料理のスキルアップは目を見張るものがある。どのお店も、日本と変わらない味を提供し始めているのだ。だからこそ、その爆発的に増えている日本料理屋を相手にしていくために、彼らのニーズに瞬発力高く反応したい意識が必要だし、結果大きな展開になることも予想しながら、まずは小さくともそのアクションを起こすことが必須だということを、本マッチングイベントでも十分感じていただいたと思う。

しかし、このスピード感のズレは、非常にリスキーだと感じる。いまはビジネスチャンスだが、いったん広がったものが落ち着くタイミングが、すぐさま、1−2年でやってくる。この時に本物の日本料理とはなんなのかを、問われる時代がまもなくやってくる。

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp