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食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第83回

「地元」「故郷」はリセットのスイッチ

2020年、新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします!このブログも、かれこれ3年ほど経とうとしております。

毎月、多くの場所をたずね、多くの出来事に対応しているのですが、いつもながら気にしているのが「第一印象を強めるための、バランス調整」です。いつしか仕事は慣れてくる、同じような見方になる、もっというと年齢と経験の実績が、実はチャレンジに対して、ブレーキをかけているのではないかという危惧が生まれます。

そんな中、「地元」「故郷」を、働く場所である東京以外に持っている自分にとっては、ありがたいことだと思います。生まれ育った土地から離れて20数年。自分がどんなふうに変わっているのか、また、地元がどんなふうに変わってきているのかを感じることができる。

そこで2019年年末、年越しをかねて地元である青森県弘前市に帰りました。私が地元故郷で「リセット」する場合、いくつか場所へ出向いたり、食材を試すことをします。

まず、地元で採れた野菜です。野菜は、もともと八百屋を経営していたこともあり、「その地元でしか採れない野菜」を食べることにしています。その地元弘前で育った野菜「大鰐温泉もやし」と「一町田のセリ」です。

まず「大鰐温泉もやし」は、青森県の中南地域に位置する大鰐町(おおわにまち)には、古くから伝わる幻の冬野菜です。温泉熱と温泉水のみを用いる温泉の町ならではの独特の栽培方法により、およそ350年以上前から栽培されてきた津軽伝統野菜の一つで、津軽三代藩主・信義公が大鰐で湯治する際は必ず献上された代物です。

とくに大鰐温泉もやしは、 独特の芳香とシャキシャキとした歯触り、味の良さ、品質の高さで人気が高い自慢の味です。東京ではほとんど食べることができず、出回ったとしても、数量も少なく、それでいて人気が高い商品です。いま、会員制で有名な和牛専門店「WAGYUMAFIA」のラーメン専門店でも、この大鰐温泉もやしを活用したメニューが開発され、多くの国内外のファンでも人気という食材です。

そのもやしを、地元で見つけた場合、「どんな状態で販売しているか」をみています。僕はあくまでも「食の接点づくり」で判断しているので、このもやしの、地元での扱い方を気にしてみています。今回、弘前で購入したのは、弘前市内の小さな八百屋です。ものの見事な新鮮さで、購入する側も「欲しい」と思わせる理由が生まれます。消費者としては、「その店にわざわざ来る理由が欲しい」のはもちろん、商品の見せ方が、生産者から消費者までをつなぐ、とても大切なきっかけです。また、300円という値づけが素晴らしい。現在、大手スーパーのもやしの値段は安いものだと10円台、高くても40−50円ほどでしょうか。もちろん大鰐温泉もやしは、「豆もやし」のなかでも 「小八豆(こはちまめ)」 という大豆を使用しており、他の商品と異なりますが、その味わいは、青森ならではと思います。この商品の良さを、自分も感じられる、もしくは感じる人を増やしていきたいという思いが、重要な「リセットボタン」だと思っています。

次に、「一町田のセリ」です。一町田のセリは、独特の強い香りとシャキシャキとした食感が身上です。鍋物の他おひたしやみそ汁、漬け物などで食べますが、本領を発揮するのは実は「鍋焼きうどん」です(笑)

ちなみに実家では、このセリをごま油で軽く炒め、塩を少し振り、そのまま食べます。これがまたおいしい。この一町田のセリは、以前八百屋スタッフを青森に連れていき、その生産者のもとへ視察に行ったことがあります。そもそも「一町田」とは土地の名前、岩木町の一町田(いっちょうだ)地区に紐付き、昔からセリ産地として、地元では有名な場所です。『清水っこ(しみずっこ)』と呼ばれる清らかな湧き水が、気温にかかわらず一定の水温を保つため、この地域の田んぼは真冬でも凍ることがなく、昔からセリ栽培が行われていたのだと言います。このセリもまた、地元以外ではほとんど手に入らない。だからこそ、地元で食べたくなる食材です。

けれど、地元以外では、「一町田のセリ」ではなく「青森県産セリ」です。価値が変わります。値付けも変わりますし、東京—青森といった物流が発生すると、さらに価値は変容します。もっというと、地元の新鮮さを、できるだけ時間をかけずに食べるためには、その地元で食べるしか、その良さを味わうことができないのです。

先日、フーディスト(日々、料理や食を楽しみながら、ブログやInstagram、TwitterなどさまざまなSNSで積極的に発信をして活躍している方)で世界一を取られている浜田岳文さんが、「わざわざその食材を食べるために飛行機に乗り、食事を楽しむ為だけに行く人間にとっては、そのお店を選ぶ理由が欲しい」と話したことが印象的でした。飲食業に長くいる僕らにとっては「その理由を知りたいんですけど」と思いがちなのですが、見方を変えると「その理由づけができていないお店を運営していること」自体がヤバイと思わないといけない。これは生産者も一緒かもしれません。その土地で生まれたハーブや西洋野菜が欲しい、視察したい、そんな、日々ファンが訪れる理由を作る、きっかけを作ることが大切なのです。

新春、東京で地方へ副業、兼業される方に交通費の補助金が2020年度から一定額出るニュースを見ました。僕は、労働力のマッチングには、こうした生産者、飲食店を新たにサポートする仕組みとして、「関係人口」を作り上げる仕組みが必要だと思っています。生産者が高齢化しているのであれば、東京の人材が、収穫時期にお手伝いに行く、もしくはもっと収穫前から手伝いに行く、そうしたことが、あらたな農業に携わるきっかけを作るのではないでしょうか。

さて、最後に青森といえば「りんご」ですが、この一升瓶、1.8リットル、そして価格が620円!(僕は恐ろしく安いと思います!)けれど、瓶の種類が変わっていますが、中身の種類がわからない(表記なし)、1.8リットルで破格すぎる商品が、逆にもったいなさすぎです。大鰐温泉もやし、一町田のセリと同様、地元でしか味わえない、最高のリンゴジュースを僕は見てみたいです。

松田龍太郎

松田龍太郎

慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後企画・プロデュース業に転職ののち、2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を立ち上げる。
主に食にまつわる事業開発・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在2019年11月1日にオープンした渋谷スクランブルスクエアB2階に、ハワイのヴィーガンカフェ人気店「PeaceCafe Hawaii」をデリスタイルに業態変更、店舗展開のお手伝いをしている。また一般社団法人日本パイ倶楽部理事を務める。
http://www.oiseau.co.jp