和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第78回

「ちょっと一服」のご褒美を、シングルオリジンの抹茶にて。

実は最近「業態開発の限界」を感じている。どんな魅力的な企画内容、それを実現するシェフやスタッフの力量では賄えないほど、時代の早さは、特に都心部においては、異常な速さで進む傾向があり、多くの新規出店数を見ながらも、それに伴い、ひっそりと閉店していく飲食店もまた、比例するかのように増えているのも事実だ。

さらに、人材不足と呼ばれている昨今においては、新規出店でさえ、出店するための人材確保に追われているのも事実だ。しかし、新規出店は待ってくれない。渋谷や銀座、至る所で新規物件、商業施設のオープンが盛んで、至る所で「新規人材募集!」「新規出店目指しませんか?」という、心躍る言葉を見かけるに、新規出店もさることながら、そもそも新規出店へのあり方、仕組み作りが急務ではないかと検討している。実は来年夏に都心で検討しているのが「キュレーションレストラン」という仕組みを使った飲食業態を作ろうと考えている。その業態の根幹は「飲食人材の働き方」について特化した内容にするつもりだ。

朝から晩まで、厨房で腕をふるうのではなく、食材自体がどれだけ価値があり、次の世代に残していくべきかを考え、その作り手たちを応援し、自らも成長できる、そんな業態を作りたいと考えている。それはメニュー構成や料理人の力量だけではない。あくまでもレストランオーナーとしての役割が変わりつつあるのだと僕は思っている。そのレストランオーナーの立ち位置が変わるタイミングであると、感じているのだ。

前置きが長くなったが、今回ご紹介するお店は、100%宇治産、シングルオリジンの抹茶を提供する「IPPUKU & MATCHA」だ。僕は「業態開発の限界」という問題点について、一石を投じる店舗開発、そして、「シングルオリジンの抹茶」を提供する、とても「日本らしい」提案であると感じたからだ。

オーナーの佐藤氏は、元々カフェ展開を手がける企業にお勤めの後、かの東京タワーの麓に「タワシタ」という会員制レストランの「走り」を手がけたレストランオーナーである。彼が、このお店を手がける2年前ほど、江戸切子のグラスを拝見させていただき、「一般にほとんど流通しないシングルオリジンの抹茶を飲んだことがありますか? それを飲むような場所を、東京のど真ん中に提案したい」という野望を聞いた。

まさに野望で、そもそもシングルオリジンで抹茶を提供するために、抹茶自体を手に入れることができるのか? はたまた、その界隈にある「抹茶カフェ」のようなお店を作りたいのか? といろいろと妄想しながら、今年完成した「IPPUKU & MATCHA」に訪問した時に、その思いをギュッと詰め込んで、たった6坪のお店に入れ込んだ度胸と、細部へのこだわりが、とても素晴らしかった。

抹茶は、合組(ブレンド)せず、品種の違いを楽しむことができるシングルオリジン。400年以上続く手摘みで生まれた茶葉は、収穫量もごくわずか。つまり「旬」を感じる抹茶をいただくことが可能で、単一品種、単一茶園の生産者の顔が見える抹茶にチャレンジしているのだ。そして宇治抹茶の伝統を踏まえつつ、新たな価値観を創出するため、これまでセレモニー要素が高い「抹茶」にフォーカスしつつも、その作法に囚われない新しい楽しみ方を考えている。

そしてその楽しみ方を最大限にする方法の一つとして、彼らは「抹茶専用の江戸切子グラス」をわざわざ職人に作らせているのだ。抹茶自体の美しい色、さわやかな豊潤な香り(実はぜひお店で感じていただきたいのだが、ここの抹茶の素晴らしさは「香り」だ。)そして深く豊かな味わいを提供する演出の一つとなっているのだ。

その一杯をいただく、極上のスペースとして、店舗奥にある「茶室」があるのだが、その壁面の細やかな土壁は、稀代の左官、挾土秀平氏のオリジナルで、その色質が半端なく上品だ。そして、ガラスの茶釜(!まさにアート作品だ)が、提供される抹茶のクオリティをさらに押し上げている。いずれにせよ、演出もさることながら、「深堀」されているサービスを目の当たりに感じたのだ。いわゆる企画性が高い飲食店ではなく、熟知されて生み出された飲食店であることは間違いない。

このお店の作り方に、2020年以降の飲食店、あるいは外食の作り方の一端ではないかと感じている。もっというと、こうしたこだわり抜いた飲食店がやがて増えていくが、その業態が持つ歴史、価値観、そこに携わる生産者から作り手まで、一環としたブランディングの必要性を感じた。なにより「事業主自身のこだわり」に心が熱くなったのだ。もちろん一人の力では限界があるが、腕利きのオーナーシェフのお店づくりではなく、飲食を知り尽くしたレストランオーナーの必要性だ。このオーナーの存在はやがて稀有な存在になるだろう。単純なフランチャイズ展開や、多店舗展開ではなく、いかにこだわり抜いた業態を幾年も提供できる仕組みを作ることができるのか。時代の早さに応じていくには、このレストランオーナーの体力、瞬発力、そして理解力が試されている。

●IPPUKU &MATCHA 日本橋店

https://ippukuandmatcha.jp/

〒103-0022 東京都中央区日本橋室町2丁目1−1 日本橋三井タワー 1階

03-6262-3224

営業時間 08:30-20:00 定休日無

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp