和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第77回

広島から1時間。離島で生まれた国産レモンを収穫へ。

広島駅から車に乗って小一時間。竹原という港に朝早くついた。ここから、広島の離島である「大崎上島」に向かうフェリーが出ている。車も搬入でき、いわゆる「通勤可能な離島」だ。この離島に向かうのは、2010年から大崎上島でレモンやミカンを育てている農家、佐々木司氏に出会うためだ。佐々木氏は、主にレモンをはじめとした柑橘、そしてブルーベリーを主に収穫し、広島市内の飲食店や、私たち、八百屋を経営していた業者に商品を卸している。今回、広島市内で私がお手伝いさせていただいている飲食店のドリンクメニューに、国産レモンをつかった商品を提案することとなり、佐々木氏の柑橘を使ったアルコールドリンクとノンアルコールドリンクを提供することとなったのだ。この機会にぜひお会いしたいと思い、わざわざ車を借りて、早朝から収穫のお手伝いに出向いたのだ。

船に揺られて20分、僕は大崎上島、白水港についた。そこには佐々木氏が出迎えてくれて、佐々木氏の奥様とともに「ここからレモン畑に向かうので、付いてきて」と、島を横断して15分。着いたのは閑静な住宅街。

佐々木氏は準備が済むと、おもむろに、住宅に囲われた場所の柵を外し、中に入り込んだ。そこには、たわわに実った「青いレモン畑」があった。佐々木氏は「松田くんも一緒に収穫して、それを広島に持ち帰るのがよい」ということで一緒に30分ばかり、20キロ相当のレモンを佐々木夫妻と収穫することになった。

「青いレモン? 普通、レモンって黄色だよね?」と首を傾げている人も少なくないと思う。実はレモンの実(み)は「緑色」ということをご存知でしょうか?レモンの木は、熟すと緑色の実を結び、その実が成熟するごとにだんだんと色が薄くなり、最後にようやく黄色へと変わるのです。

といっても、ひと昔前までは、スーパーや八百屋に並ぶレモンのほとんどが輸入レモン。日本に入ってくるまでに完全に熟されて黄色くなったものしか目にしないのですから、当然、「レモン=黄色」という思い込みが生まれても不思議ではありません。

レモンの輸入が自由化される1964年以前は、日本でも多くの農家がレモンを栽培していました。レモン農家のほとんどが小さな家族経営だったので、海外から大量に安価な価格でレモンが入るようになると、割高な国産レモンでは太刀打ちできなくなり、栽培を断念せざるをえない状況に追い込まれたのです。

ところが、近年世界的なオーガニックやナチュラルフードブームにより、日本人の「食」へ対する意識も一気に高まり、時代がより安全な食を求めるようになるとともに、レモンをめぐる状況にも変化が見られています。ここ数年で、スーパーの棚にもごく当たり前に「国産レモン」が並ぶようになりました。輸入レモンは輸送時間の影響で色が変わるだけでなく、輸送中の腐敗を防ぐため必須とされる防腐剤も、日本では使用禁止とされているような強い薬が使われることも多く、しばしば問題視されています。

また、栽培時にどんな殺虫剤や化学肥料が使われているのかよくわからないという不安もあります。それに対して、国産レモンは「食べ頃は収穫してからすぐ」であり、かつそのタイミングで出荷できるので、輸入物とは異なり、防腐剤やワックスを使用せずに消費者の手に届けられます。(もちろん、送料や手間が上がるので。輸入物より3-4倍の価格はするでしょう。)

加えて、作り手の顔がちゃんと見えるというのもポイントで、この「信頼性と、輸入レモンにはない風味の豊かさ」が国産レモンの魅力で、徐々に支持が高まってきているというわけです。

佐々木氏は、もともとは、東北の米農家の次男坊。現在50代半ば、サラリーマンを辞め、2010年にこの島に移住して来ました。佐々木氏自身、就農するなら、最低のスタートラインは「農薬、殺菌剤 除草剤 化学肥料は一切使わないこと」と固く決心。トレーサビリティのしっかりした物を使用する。今後の目標は土壌を整え、無肥料で柑橘を育てること。僕らはその気構えに共感し、国産レモンの農家として、 仕入れさせていただいている。果物をできるだけ農薬を使わずに、そして無肥料で育てるのは大層な事です。しかしそこで育てられた果実の完成度は、抜群。鼻を近づけるだけで、レモンの酸っぱい香りが、強烈にそしてシンプルに嗅ぐことができます。

今回特別に、国産レモンの他に「すだち」や「ミカン」の畑も見させていただきました。「すだち」は香りがよく、見た目も小さくて、それでいてジューシー。お菓子はもちろん、使い方を工夫して、ドリンクにも提供しやすい。早速広島に持ち帰り、酎ハイあたりで使ってみようかと思う。そして小さな「小みかん」を多くいただいた。あまり美味しいので、これは広島に持ち替えらずに、東京に送ることとした(笑)。今も食べているが、少しずつ黄色くなってきている。

柑橘は、10月からスタートし、来春まで続く商品だ。温州みかんを始め、レモン、シークワーサー、ポンカン、ネーブル、はるか、そしてデコポンへと品を変えて徐々に出てくる。もちろん、多くはこしらえてはいないが、佐々木氏の果物は、とても良い状態だ。

この大崎上島、そして近くには「岩城(いわき)島」など、同じくレモンの産地が多い箇所だ。瀬戸内という温暖で柑橘系の栽培に適した島々がおおいのも、今のように国産レモンが注目を集めるようになるずっと前から、安全で美味しいレモン作りにこだわり、露地やハウス栽培でレモンを育てている。もちろん、佐々木氏のように、他県出身者が多いというのもポイントだ。こうしたIターンの受け入れをはじめ、様々な新しい試みを積極的に行っているのも離島ならではの利点なのかもしれない。

●佐々木氏のホームページ

農粋(のうすい)つかさ庵 https://tsukasa-an.jimdo.com/

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp