和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第74回

薪火料5%、鎌倉に生まれた薪火調理の和懐石風アメリカン料理屋『季音』

 

お店の名前は「季音」と書いて「Kinon(きのん)」と言います。このお店の名前はここのお店のシェフ、村野敏和(むらの・としかず)さんのお子さん、お二人の名前がはいっているそうです。その「柔らかく、音感覚のような店名」なのですが、お店はがっつりアメリカン(笑い)。そして、わざわざ店外の壁を這わせて、建物屋上まで伸ばしきった排気口のダクトがすごいくらい、素晴らしい薪焼き場が存在する、カウンターのみ8席の「ごつい」感じなのだ。

メラメラと、細やかな見た目の一方、肉、魚、野菜に、じわっと我慢強く火入れをおこなう薪火。「実は、いきなり大きな薪木には火は点かなくて、小さな木々から少しずつ燃やし、そこから2、3段階に分けて木の大きさを変えながら、火をうつしていきます。熱すぎても火入れが難しいので、この火入れが1日の大きな仕事です。」と村野さん。カウンターに座るとじわっと、薪火の暖かさを感じる。

料理のラインアップはコース一本。鎌倉野菜や相模湾長井漁港の魚介を薪火で火入れした、サンフランシスコの現代風アメリカ料理を提供するスタイル。薪が生み出す独自の味わいと、見ているだけで温かな気持ちになれる炎のゆらぎを鑑賞しながら、カウンターで食するのが自慢だ。

そもそもなぜ「アメリカン」なのかというところだが、実はこのお店を出店する前に村野さんが勤めていたお店は、アメリカ・サンフランシスコにあるミシュラン三つ星のフレンチレストラン「Saison(以下セゾン)」なのだ。セゾンのシェフ、ジョシュア・スキーンズさんは、フロリダ州出身。ニューヨークの料理学校を出てボストンで働いたあと、サンフランシスコにやって来て、シリコンバレーの「一つ星」CHez TJでシェフを務めたころから、注目の御仁。

そのジョシュア・スキーンズさんが、セゾンで出したレストランの特長は、「和」のイメージ。材料も日本で活用する「あわび」や「松茸」が登場したり、調理法も「茶碗蒸し」や「焼き魚」があったりと、和・懐石風なんです。それでもフレンチが基調となっているので、前半は和、後半はフレンチと、和洋折衷のコース仕立てになっているのが特徴。そのメニュー構成ふくめ、村野さんは現地で修行し、鎌倉にお店を構えることになったのです。

そして村野さんがこだわったのが、前述したアメリカ仕込みの「薪火での調理」です。薪が与える繊細な燻香が一番の魅力で、日本の食材のみずみずしさを保ちつつ風味を効率よく凝縮させる点も優れています。

薪火はオーブンのように温度や時間をセットすることができません。火の強弱はその時々で変わり、火入れは自ずと不均一になります。でもそこを村野さんが操り、薪火の魅力、ガスの火では出せない味わいを提供しています。焦がし具合、燻し具合など、料理人の技量と経験、個性がそのまま料理に反映されます。

特に、いただいた牛ステーキは抜群の火入れ。特に赤身のお肉ということもあり、肉汁がじわっとにじみ出てきて、添えつけのナスに染み込み、これまたうまい味わいになるのです。

2019年8月にオープンしたばかりのお店。8席しかないので、予約は必須。現在村野さんが料理からドリンクまで1名でディナー時間帯は対応しています。一つ一つこだわった提供方法、料理の中身など、ぜひご堪能いただけると嬉しいです。

ちなみに、お会計時、不思議な表記が、「薪火料5%」。

村野さん曰く「こだわりの薪火だけど、やはりガスやオーブンと比較するとよりコストがかかるのが現状です。そこでこのように薪火料を設けさせていただいております。」とのこと。

しかし、この薪火はぜひチェックすべきだ。

●季音 -Kinon-

http://kinon-kamakura.com
住所    :〒248-0012 神奈川県鎌倉市御成町13-22
T E L   :0467-39-5091
E-Mail  :reservation@kinon-kamakura.com
定休日  :日曜日・第2/第4月曜日
ランチ  :11:30-14:30 (L.O 13:00)/木、金、土曜日のみ
ディナー:18:00- (L.O 19:30)

別途 薪火料5%+消費税

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp