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食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第57回

3つの「くっつかない?」摩訶不思議スイーツで忘年会。

年の瀬、大阪出張。

打ち合わせ終わり後に、今年最初の忘年会として西天満にある「香味(シャンウェイ)」に連れられて行った。ここは、日本パイ倶楽部理事でもあり、料理雑誌『あまから手帖』編集顧問、門上武司さんが予約してくださった店だ。今日はメンバーも多かったので、お店は貸し切り。お任せのコース料理を食する事になった。

香味・矢谷シェフのこだわりで、前菜からメインまで、ありとあらゆる食材がどれも美味しく、その中でも特に「油」の食材に対する使い方が絶妙で、久しぶりに美味しい中華をいただけた。

そのメニューの中で一番興味深かったのは「デザート」だった。中華の定番である「杏仁豆腐」(これも非常に美味しかったのですが)と共にできたのが、「三不粘(サンプーチャン)」だった。

みなさん、「三不粘」をご存知でしょうか?

中国語で「粘る」は「くっつく」を意味する言葉。

「三不粘」=「三つくっつかない」、つまり「皿にくっつかない」「箸にくっつかない」「歯にくっつかない」という「三つのくっつかない」中華デザートなのです。

原材料は「卵」「砂糖」「ラード」「片くり粉(おもにでんぷんを使うこともあるそうです)」だけでつくられます。レシピも極めてシンプルだが、調理の難度が高く、本場中国ですら、ほとんど提供していない、幻と呼ぶに相応しいスイーツとも言えるのです。

そんな三不粘を、大阪の忘年会でいただく事になるとはおもわず、その出来上がりまでを見させていただく事になりました。

調理の大半は、熱した中華鍋で、延々と先程の原材料を混ぜたものを炒めていくというもの。「ガッシ、ガッシ、ガッシ」と厨房で音が聞こえ、この作業がなんと10分以上続くという。

そして出来上がったのは、焦げる事もなく、ラードの香りを背負った、ピカピカの黄金色、粘質性の高いお餅のようなものだった。

すぐさま矢谷シェフは、冷めないように、三不粘をおもむろにスプーンとフォークで小分け用に切り始めていく。さすが「くっつかない」スイーツ、皿にもスプーンにも物体は粘らずに、ツルツルとした感触で、小皿にそれぞれ取り分けられていくのだ。

さてさっそく実食。カスタードクリームをそのまま温めたようなしっとりとした食感と味わい、見た目以上の甘さと、油の香りが香ばしい。これまで辛いもの、濃いものでお酒が進むメニューから、舌も驚く、さっぱりとしたデザートとして非常に興味深いものに出会ったような感じだ。そもそも「金色のお餅」という珍しく、高貴な?物体のスイーツなので出席者も驚きつつも、あっという間に皿から三不粘がなくなってしまった。

僕がこの「三不粘」を食べた瞬間「なぜサンプーチャンが生まれたのだろう」と気になって仕方がなかった。材料と調理内容については、ものすごく愚直に鍋を振り、単純だが、狙ってスイーツが作られるものでもない、ということは明らかだ。「これを開発しよう」ということでうまれたスイーツではなく、熱を使いながらも、それをうまく利用して、甘くて美味しいものに仕上がっている。まさに「摩訶不思議」。10分以上かけて中華鍋で戦う矢谷シェフを見ていると、「手間」が「価値」に繋がっているさまを見ることができた。

2018年、12月も残りわずか。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp