site_logo

光文社厳選!和食情報ナビ

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第50回

「もったいない」がビジネスの主軸に。

8月も終わりに近づき、「酷暑」と呼ばれる今年の夏も、少しは和らぐのではと期待しつつも、9月以降の気温予想も、例年以上に暑いという予想が出ている。

この暑さが、前倒しで暑さが続いていくと、温暖気候ではなく、すでに「亜熱帯気候」の土地になりつつあり、特に弊社の八百屋においては、野菜や果物の仕入れに打撃を与えられた。6月から7月にかけて、梅雨の時期と重なった大雨洪水などの水害は西日本、とくに中国・四国地方を襲い、特に柑橘をはじめとした果物の収穫にダメージを与えた。また7−8月は、酷暑から日照りも長く続き、野菜の成長が、例年以上にはやく、「欠品」が続くようになった。特に7月後半から8月初旬については、果物が「端境期(はざかいき)」でもあったように、野菜が主体の時期だったので、仕入れられる商品も少なく、農家さんとのやりとりも、大変だったことを覚えている。

一方で、農家も知らないわけではなく、毎年、こうした日々を過ごしている中で、気温気候に振り回されず、産地ならではのビジネスデザインを検討している。

例えば、僕の実家がある青森県のリンゴ農家では、リンゴを育てる時に、実の収穫量をあげていくため、余分なリンゴを選定してしまう「摘果(てきか)」という作業を実施している。実はこの摘果の物量は、リンゴの木一本から収穫されるリンゴと「ほぼ同等数」の、未成熟なリンゴを、捥いで選定しまうのだという。そんな摘果リンゴを、「もったいない!」と思ったのが、青森県弘前市のリンゴ農家「もりやま園」は、そのリンゴを原材料にした「シードル」をこしらえた。その名も「TEKIKAKA CIDRE(テキカカシードル)」である。

もりやま園が、このプロジェクトで目指すものは、りんごの栽培工程から生まれるロスを、商品の付加価値につなげること。もりやま園さんは、実際に、リンゴ栽培を1年というタームで作業を時間分割して分析し、例えば「摘果」であれば「津軽というリンゴには●●時間、ふじというリンゴには●●時間」というようにデータ化した。その結果、収穫は、全体の1/4、そのほか、収穫に必要というよりは「色付けがいい」「形がいい」といった、いわゆる市場向け商品にしていくための「手間」が、全体の3/4占めていることに気づいたのだ。

これまでは市場経由で、たくさんのリンゴが盛んにでていたが、現在のようにマーケットが変わり、市場価格も大幅に変化、リンゴが豊作の時期は、1箱10キロのリンゴも数百円という取引価格に成り下がってしまうのである。そうした価格変動は、人口減少、高齢化がすすむ地方生産現場においては、大打撃で、リンゴ生産自体を見直したり、手放してしまう農家さんも、最近では多くなっている。

またリンゴも、誰でも彼でも作れるわけではないので、作れないと、そのままの状態で農地が残されていることもある。そこでもりやま園は、シードルを作り始めた。また、リンゴづくりについても「付加価値を作れる品種」に限定し、いわゆる「津軽」「ふじ」といった市場流通品は作らず、新品種やビジネスとして適正価格で流通する品目を中心に作り始めている。さらに、「剪定」といって、2月3月の冬寒い時期に実施する、手間がかかる枝切りも、その枝を再活用し、「きのこ」も作り始めている。まさに「もったいない」から、「リンゴ農家の最前線」を新たに切り開いている。非常に面白い試みだと思う。

そして、もう一つこの摘果について「みかん」も面白いと思っている。実は、千葉県南房総地区は温州ミカンの産地でもあるのですが、温州ミカンは、ちょうど今の時期に「摘果」を行っている。この摘果作業によって、大量の摘果ミカンが採取されます。この未熟な摘果ミカンを商品化できないかと、ぼくらは今検討中だ。

未熟で酸味が強いので、そのまま食べるといよりも、スダチやカボスのように料理の香り付けやポン酢、シロップ等の材料に使える。今のところ加工に関する生産体制が貧弱なため、大量に採取される摘果ミカンのペースに追いつかないというところ。

時に南房総は、かんきつ類の産地の最北地ともいわれ、温州みかんやレモン等の農家が多いのですが、この摘果はほとんど畑に捨てられています。高齢化が進み、それらを商品として加工はもちろん、販路を開拓する気力のある若い世代もほとんどいないとも言われている。

こうして考えていくと、日本における「豊かさ」では、当たり前に「もったいない」という言葉に非常に価値があると思っている。完成品のリンゴ、ミカンが美味しいのは当たり前だが、「美味しさのもっと手前」で光り輝く期待を持った果実たちが、別の付加価値をつけて生まれ変わることが、ビジネスの本流だと思うし、6次化産業とは異なり、既存農家には無い発想で、IoTを活用した農作業最適化事業、ほか食品事業等が盛んになっていくことが、国内だけではなく、海外に向けた戦略としても十分にあると思う。

普段の日常で、何気なく実施している作業に、新価値があるのでは。誰かが言った、「お米は、生涯中、そんなにたくさん作れない。せいぜい年に1回だ。10回だろうが20回だろうが、同じものはできない。それを価値にできるワインをもっと見習いたい」。

ものの価値を変えることは、「見方を変えること」だと思う。

 

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp