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食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第49回

食を通じて、変わり始めている、コミュニケーション。

旅に出ると、「レストランを紹介する」もしくは「紹介される」ことはありませんか? 僕も、食を通じた仕事をさせていただくと、そういう機会に出会うことは多いです。

そうした機会の中で、僕が紹介するのは、予約がいっぱいで、なかなか座ることができないお店というよりは、「飲食サービスが気にならない雰囲気を持ったお店」を紹介するようにしています。例えば、たまたま僕が紹介したお店に、はじめて彼女を誘って行くかもしれないし、グループで5−6名で楽しく飲みたいのかもしれない。または、親子連れで、初めて海外に行くなかでのワンシーンかもしれない。人それぞれに、あらゆる食の接点があり、「誰と行くのか」「どんな場面か」といった状況によって、レストランは、大きな経験と「思い出」となって行く存在でもあります。その時に、ネガティブなポイントやサービスが発生すると、なぜか気になり、心に残る状況を作りだしてしまうことがあります。食べ終わった時、「心から喜べる状況にある」状態になることは、人間の心情的にもとても裕福で、食を提供する人間にとっては、それこそがありがたく、また明日も食を通じて、人を幸せにしたいという気持ちにさせてくれるものだと思っています。

ここでちょっと別の話になりますが、以前、僕が参加したレストランイベントについて話をさせてください。

それは、海外で活躍する日本人のフレンチシェフのポップアップイベントで、彼のお店はフランスでも予約を取ることが難しく、その日も新店舗のオープン準備の合間をぬけて、わざわざ日本に来られ開催されたものでした。

展開する料理メニューは、その時期に合わせた食材と、そのシェフの引き出しとも言える料理の手法、さらにソムリエが合わせたペアリングワインの組み合わせが、それは見事で、僕も久しぶりに舌鼓を打ちました。しかし、最後の料理を食べ終わった時に「ああ、もうこの料理人の料理は食べることはないかもしれない」とふと思いました。そのときハッと、以前襲われた同じ感覚を思い出しました。実はこの感覚は、以前フランスに行った時に、当時、新進気鋭の日本人フレンチシェフの料理を食べた時の印象と同じでした。あんなに美味しい料理を食べ、あっという間に数時間が経過、ワインもこれまでになく心地よく感じたのに、「また食べたい・・!」という欲求よりも「もういいかな」という寂寥感に襲われたのです。

なかなかこういう想いになることはありません。むしろ次の予約も取りたい、もっというとシェフに近づき、友達になりたいという想いが出てくるのが普通ですが(笑)、シェフが纏う雰囲気と、そのイベントの雰囲気、提供されるサービス、そして会計までの流れのなかで、シェフの提供したい内容が不明確になってしまい、期待感や欲求ではなく、おなかいっぱいという満足感とも異なる感覚にならざるを得ず、少し残念な気持ちになりました。

ふと、食が提供するコミュニケーションってなんだろうか、とレストランに行くたびに思います。美味しいものを提供するだけではなく、その料理を提供する際の言葉、メニューの内容、作り方の説明、それに合わせるワインのラインナップ、そのどこかがほころび始めると、シェフの仕事が「崩れていく」感覚に襲われます。それは料理とサービスのバランスが悪い時に感じる感覚です。僕が襲われた感覚もまた、それに近いです。シェフがすごすぎると、それに追いつけないサービススタッフ。1日、2日限りのポップアップでは、彼の良さに全く触れることもなく、時間に消えて行く・・。

料亭なのに、大声で「いらっしゃいませ!」と居酒屋のような雰囲気を味わいたいわけではなく、また小難しい料理人が黙々と調理し、何十分も待たせられて、「待てないなら帰ってくれ!」といわれるようなサービスにも、実は、できるだけ会いたくない。レストランで時間(とき)を過ごす、もしくは、そこに行かざるを得ないタイミングで行く場合は、できれば、そういうポイントで「伺わざるを得ないレストラン」を友人や親友、親、お世話になった人たちに、行って欲しくないと思っています。

いま、商品開発や店舗開発においても、「情報伝達のデザイン」が非常に大切だと思っています。僕らが提供できる料理の味も、すごさも、正直なところ「一杯一杯」のところまでやってきていると僕は思います。付加価値をレストランはどこに見出すか。働く人が減り、食材も限定され、お店が少なくなってきている今、この先10年、20年後のレストランの形はどんな形態になるのか。特に日本の、このスピード感は、企画立案・実行スピードよりも劇的に速度が上がっています。「業態開発」という言葉も必要ないかもしれません。このスピード感を構築している「コミュニケーション・デザイン」をレストラン市場はどう作り上げるのか。2018年の新たな食の議題だと思っています。

松田龍太郎

松田龍太郎

1977年生まれ。青森県弘前市出身。慶応義塾大学環境情報学部卒業後、日本放送協会に入局。
報道カメラマンとして、全国各地の事件事故、災害など日々のニュースの現場をはじめ、紀行番組の撮影に従事。その後、2007年企画・プロデュース業に転職。2010年より株式会社オアゾ代表を務める。
積極的に女性クリエイターを活用し、特に食にまつわる事業・店舗開発、PRコンテンツ制作を得意とする。現在神楽坂6丁目に「八百屋瑞花」という青果販売する八百屋 を展開中。
http://www.oiseau.co.jp