Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第7回
鯉こがれて六十里。米沢鯉を食す。
「僕らは感じたことはないんですけどね」と岩倉社長。そう、店内に入ると、ふわっと甘い醤油の香りが、かおる。
この古民家は、山形県米沢市にある老舗「米沢鯉六十里」。
昭和23年に市内に鯉屋を創業、その後、鯉の養魚場を設けて、現在のお店が経営されている。紐解くと、ここ山形県米沢の鯉は、かの藩士、「上杉鷹山」が水産資源が乏しいこの内陸の地、その米沢に福島県相馬より鯉の稚魚をとりよせ、米沢城のお堀で育てたのが始まりと言われています。
雪深い土地が産み出す清流は、川魚独特の泥臭さを消し、「米沢鯉」としてブランド食材になるほど、有名。現在地元もさることながら、都内大手百貨店でも流通し、贈答用商品になるなど、ニーズがあります。
お店の横には池があり、養魚場から運んできて放しながら、使う分だけをそこから取り出すというもの。活きもよく、早速だがいただくことにした。
今回は「鯉づくし」ということで、「鯉の刺身」「鯉のうま煮」「こいこく」「鯉の蒲焼」をいただくことに。
「鯉の刺身」は筋張った感じではあるが、海魚にあるような脂っこさはなく、あっさりしていて、それは、「うま煮」「蒲焼」にも見られる。特に「蒲焼」はそれこそ、うなぎの脂っこさが得意ではない人にとっては、さっぱり食べられる「うなぎの蒲焼」のような味わい。地元の醤油屋や食材を使った秘伝のタレが使われた「うま煮」は、「甘しょっぱい」味わいと、冒頭の「甘い香り」を感じる一品だ。
そして、「こいこく」は、鯉料理では定番だ。輪切りにされた鯉を、味噌汁で似た味噌煮込み料理である。煮込まれた鯉の身は、どことなくタラのような白身魚に近い。味噌の塩梅は、それこそ地元によって異なるので、先日埼玉は浦和で食べたものとは別物だ(浦和もまた鯉料理が盛んだ)。
そんな鯉料理を守り、新たな料理法、加工法をチャレンジしている岩倉社長をいま継続的に応援している。なかなか日常生活では食べることがない鯉ではあるが、地元の米沢だと、「お祝い」「正月」では必ず食べると言っていいほどの縁起物であり、地元で愛されている食の一つだ。
最近では、山形の料理人、アル・ケッチァーノの奥田政行シェフが、鯉の骨をつかった商品開発や、地元出身の料理研究家が、カレーライスを提案したりなど新しい試みにつなげようとしている。
古くからある食材とその活かし方。時代が進めば、味覚の変化や食べ方も変わってくる。
「鯉と言うと敬遠される」と岩倉社長。しかし鯉だからこそ出せる味がある。「鯉に焦がれて六十里」ではないが、山形は米沢に足を運ぶ機会があれば、米沢牛ももちろんだが、鯉を食するのもありだ。それだけの商品価値がここにはある。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp