和食STYLE

豆腐百珍のすべて 36 通品 赤みそのしき味曾とうふ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

『赤みそのしき味曾とうふ』とは、赤味噌で作った田楽味噌を先に器に敷いて、その上に温めた豆腐を乗せた料理です。これも[通品]に振り分けられているため、『豆腐百珍』に調理法は掲載されていませんが、前回の『葛田楽』と違い、第18回『しき味曾とうふ』の調理法が掲載されているため、味噌を赤味噌に限定したものだと想像がつきます。田楽味噌の配合や薬味はお好み次第で。
味もまさしく、豆腐田楽を焼かずに温めたイメージですが、豆腐田楽の起こりを考えると、白味噌は関西好み、赤味噌は関東好みと言えるでしょう。

そこでここからは前回に続き、豆腐田楽の元祖と言われている『祇園豆腐』を紹介致します。

室町時代末期より、祇園さん(八坂神社)の南楼門の門前に、向かい合った茶屋が二軒(西に「藤屋」、東に「中村屋」)あり、そこで出していたのが『祇園豆腐』です。木綿豆腐を短冊型に切り、竹の串の先を二股に割いて豆腐に刺し、味噌から浮き出る汁(たまり)をつけて焼いていたものが評判となり、やがて味噌そのものをつけて焼くようになりました。

江戸時代に入ると、揃いの髪型と着物を着た茶屋娘たち(髪は両輪髷、霰小紋の緋色の着物に黒繻子の襟、こぼれ松葉の帯)が、三味線の音色に合わせて豆腐の早切りを披露する「曲切(きょくぎり)」が見世物として人気を博し、大坂や江戸でも『祇園豆腐』の看板を出した茶店が現れました。

『祇園豆腐』はやがて、串を刺した様子が田楽踊りに似ているからと、『田楽豆腐』あるいは『豆腐田楽』と名前を変え、江戸では赤味噌を使った田楽味噌が主流になったとのことです。

ちなみに、この祇園に二軒あった茶屋の一軒、「中村屋」の流れを汲む「柏屋」は、現在は料亭「中村楼」として現存しており、直営の「二軒茶屋」では、江戸時代から続く、白味噌を使った木の芽田楽が名物となっています。

■赤みそのしき味曾とうふレシピ
【材料】
おぼろ豆腐…1パック
赤味噌…大さじ3
酒…大さじ2
みりん…大さじ2

【作り⽅】
1.豆腐を水から茹で、温めておく。
2. 小鍋に赤味噌と酒とみりんを入れてのばし、弱火で混ぜながら温める。
3. 2の田楽味噌を器に敷き、1の豆腐の水気を切って、田楽味噌の上に乗せ、お好みの薬味(ねぎ、削り節、すり胡麻、柚子皮、山椒など)をかける。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

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『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』