和食STYLE

豆腐百珍のすべて 29 通品 軟とうふ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

第25回に登場した『豆乳(よせとうふ)』の回で先に触れさせていただきましたが、今回の『軟(おぼろ)とうふ』は、現在の『おぼろ豆腐』『汲み上げ豆腐』『寄せ豆腐』『ざる豆腐』などと呼ばれている商品と同じものです。

これらの作り方は、豆乳ににがりを打ち、完全に固まりきらないうちに汲み上げたもの。豆乳がもやもやっと固まった状態が、朧月夜の空のようなので、この名がつきました。

このおぼろ状になった豆腐を、木綿布を敷いた、穴開きの四角い型箱に入れ、上から圧搾して水分を絞り出して固めたものが『木綿豆腐』です(ちなみに『絹ごし豆腐』は、木綿豆腐より濃度の高い豆乳を型で直接固めたもので、脱水をしていません)。
一昔前までは、輸送と鮮度のキープが難しかったので、製造元付近で食べられるだけでしたが、それが商品化されたのは、ちょうど昭和から平成に元号が変わった時期のこと。

老舗豆腐店の主人から聞いた話ですが、国民的グルメ漫画『美味しんぼ』の豆腐対決で、汲みだし豆腐とざる豆腐が紹介され、「え? こんな(木綿豆腐の)製造途中のものが、商品になるの?」と、まずは驚いたのだそうです。そんなものでいいのなら、と商品化して店頭販売したところ大ヒット。

豆腐店にしてみれば、圧搾の手間が省け、豆乳が少量で済むのでコストがかからず、ワンランク上の豆腐と世間が認識してくれているので高値がつけられると、いいことづくめだったとか。

上記のことから、豆腐の中で実際には最も大豆の含有量が多く、栄養価が高いのは木綿豆腐なのですが、柔らかくて滑らかなものが好きな現在の日本人には、今ひとつ響かないようです。

■軟とうふ レシピ
【材料】
無調整豆乳…300cc
にがり…大さじ1

【作り⽅】
1. 一人用の土鍋に無調整豆乳とにがりを入れ、泡立たないように気をつけながら、丁寧に混ぜる。
2. 弱火でゆっくりと温め、周囲が泡立ってきたら火を止めて蓋をし、15分ほど置いて固まったら器に取り、お好みの味でいただく。

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⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
江戸時代の料理の研究、再現(1200種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『チコちゃんに叱られる!』『美の壷』『知恵泉』等のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。著書に『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)、『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)など多数。
小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。最新刊は『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』(東京書籍)。
http://kurumaukiyo.com

『江戸っ子の食養生』
『免疫力を高める最強の浅漬け』
『蔦重の教え』
『発酵食品でつくるシンプル養生レシピ』