和食STYLE

豆腐百珍のすべて 16 尋常品 金砂とうふ

時代小説家/江戸料理・文化研究家 ⾞ 浮代(くるま うきよ)



【⾖腐百珍とは】
天明2(1782)年5月に刊行され、大ベストセラーになった江戸時代のレシピ本。豆腐料理だけを100品、6段階に分けて紹介するという斬新さで話題に。大根、卵、鯛、蒟蒻といった百珍ブームのきかっけとなり、『豆腐百珍続篇』『豆腐百珍餘録』も刊行された。

16番『金砂(すなご)とうふ』は、手が込んでいて見た目も美しく、おせちに入っている錦玉子(二色玉子)にそっくりな一品です。

ネーミングもゴージャスな上(「金砂」とは金粉、または砂金のこと。現代は「きんしゃ」と読む)、江戸時代は高級食材だった卵(ゆで卵が1個20文=約500円)を複数個使っているのですから、本来なら「尋常品(各家々で日常的に調理するもの)」ではなく、「佳品(尋常品より風味が良いか、見た目が美しいもの)」以上に分類されるべき料理です。

このように、『豆腐百珍』の「尋常品」「通品」「佳品」「奇品」「妙品」「絶品」という6つのカテゴリー分け(『豆腐役珍のすべて2』参照)には、当時の価値観を鑑みたとしても、「なぜここに位置付けられているのか?」「なぜこれとこれが同じカテゴリーにないのか?」など、疑問が残る料理が多数存在します。

理由として一つ考えられるのは、読み手側に立った時、日常的に見かける豆腐料理のレシピばかりが冒頭に並んでいても面白くない、ということです。それゆえ、田楽の中でも一番見栄えのする「木の芽田楽」を1番に持って来たのでしょうし、地味な茶色い料理ばかりが並ぶ中、黄色と白の華やかな料理を入れたかったのではないでしょうか。

■金砂とうふレシピ
【材料】
木綿豆腐…1/2丁
卵白…1個分
塩…小さじ1/2
ゆで卵の黄身…2個分
かまぼこの板…1枚

【作り⽅】
1. 木綿豆腐をしっかりと水切りし、すり鉢でよく摺り、卵白と塩を混ぜてよく摺り合わせ、かまぼこ板の上に厚みをつけて塗る(流し型を使っても)。
2. ゆで卵の黄身を裏ごしし(砂糖を混ぜておくと粒立ちが綺麗に残ります)、1の上にまんべんなくかけて押さえる。
3. 温めた蒸し器に2を入れて15分程度蒸し、小色紙形(正方形)に切って盛り付ける。

※豆腐の水切りは、豆腐の上にまな板と重しを乗せ、1時間ほどかけてゆっくりと水分を抜くと綺麗に仕上がります。時間のない場合は、豆腐をキッチンペーパー等でくるみ、割り箸などを敷いて皿から浮かせ、電子レンジに3分かければOKです。

※記事と写真の無断転載を禁じます

⾞ 浮代
(くるま うきよ)

時代小説家/江戸料理・文化研究家。
企業内グラフィックデザイナーを経て、故・新藤兼人監督に師事し、シナリオを学ぶ。現在は、江戸時代の料理の研究、再現(1000種類以上)と、江戸文化に関する講演、NHK『美の壷』他のTV出演や、TBSラジオのレギュラーも。
著書に『免疫力を高める最強の浅漬け』(マキノ出版)『1日1杯の味噌汁が体を守る』(日経プレミアシリーズ)など多数。小説『蔦重の教え』はベストセラーに。西武鉄道「52席の至福 江戸料理トレイン」料理監修。新刊『江戸っ子の食養生』(ワニブックスPLUS新書)発売中。。
http://kurumaukiyo.com