和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第三一回 すし良月

第三一回 すし良月

技術もすごいしセンスもある将来有望の若手ホープ

第20回でご紹介した 「鮨 心白」の後に入った「すし良月」がすごいと評判で気にはなっていたものの、すでに予約困難でお伺いできずにいたところ、グルメなお方の予約席にちゃっかり座ることができました。2019年に28歳でこちらをオープン、現在32歳という大将の前岩和則さんは年齢を言われなければベテランさんと思ってしまうほどお鮨も人間性も威風堂々としたもんです。おまかせコースはおつまみからの握りスタイル。食べログ情報だと12:00、18:00、21:00の3回転だけどこの日は貸切のせいか、常連さま予約のせいか19:30からでこの後はなかったと思います。

おもしろいのがお鮨屋さんにはないものがあったこと。それはヒートランプウォーマーで フレンチとかイタリアンとかでお肉やお皿を温めておくのに使うんですけど、前岩さんは鮑にも鮪にも結構駆使していました。そんなんで初っ端が鮑だったんですけど、これがまぁご立派で思わず「おぉ〜っ!」と叫んでしまいました。「ただ炊いただけです」って言うけど、アッツアツでプリプリでやわらかくて磯の香りとうまみがすごい。 これ最初に持ってきちゃうんだ。もしかして相当自信ある?

続いて鮑を炊いた出汁を合わせた赤雲丹や鮑の貝柱(大きくないと取れないそう)、鮑の生の肝をポン酢でとか「おぉ〜っ!」と叫びっぱなし。京都宮津で獲れた天然鳥貝の身と肝もおいしかったなぁ。なんか 4番バッター級 だらけって感じ。そうそう、牡丹海老は握りじゃなく炭火焼き、これが中心だけ透明っていう見事な焼き加減でニンマリ。海老、握りじゃじゃなくていいんじゃないかなと思ってしまう。昆布の香りが素晴らしい鱧のお椀が出た後、ガリが登場したので握りへGO。このガリも甘酸っぱくてめちゃおいしい。

握りは鮪3連続から。ここであのウォーマー偉大さがわかりました。中トロも大トロもトロりんでほんわかな鮨飯とピッタリなんです。もうお口が歓喜の舞を踊っちゃいます。でも、鮪そのものがおいしいのかもしれないので一度ウォーマーかけたのとかけてないので食べ比べしてみたい。赤身の漬けもそんなんで煮切りは刷毛で塗るだけ。最後なのは鮨飯の温度が下が るのを考えてなのかしら? 赤身のくせに脂を感じるムチムチさ。これもウォーマー効果か? もう握りも初っ端から最高じゃん、このあとどうなる?と思っていたけど心配は無用でした。アオリイカ、そんなに包丁を入れた感がなかったのに鮨飯との一体感が半端ない。おそらく包丁の入れ方がものすごい技術なのだと思われます。

そしてノドグロの飯寿司、白甘鯛、大葉を挟んだ縞鯵、美しい新子、1パック2万円の福井小浜の赤雲丹、毛蟹の蒸し寿司……、握りも4番バッターしか出てこない。いやはや、参りました。まだ32歳でこの技術と鮨のセンスとは。あと10年経ったらどんな巨匠になっちゃうんだろう。さてお会計はと、うっ、41,500円か。若手と思ってなめてました。まぁ、このお鮨ならば仕方ないか。確かに日本酒もワイングラス8杯飲んだしな。また行けるといいな。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★
ロケーション&設え ★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★★★★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。