さかな歳時記「二十四節気・立冬」 天下一品の塩焼きは一升のご飯も
二十四節気●立冬●11月7日
冬間近を感じさせる秋の深まりとともに脂がのり、大きく育ってきました。 白身の淡泊な味わいは、塩焼きにすると天下一品。この魚の塩焼きが一尾あれば、一升でもご飯が食べられるというほど、その塩焼きは定番です。背開きにした干物も絶品といわれるこの魚を選びなさい。
①カマス②キス③サヨリ④サンマ
【解説】
カマス(アカカマス)は夏場の産卵前後を除けばいつでも美味だが、とくにおいしい旬は脂がたっぷりのった大物がとれる秋から冬。 「カマスの焼き食い一升飯」といわれるほど、淡泊で上品ながら脂ののったカマスを焼くと、ごはんが進むこと間違いなし。
刺身や煮付け、天ぷら、フライよりも、塩焼きこそ甘みと旨みが堪能できる身がやわらかく水分が多いカマスは、干物にすると旨みが凝縮されておいしくなる。カマスの干物はもっともおいしい干物のひとつ。アジなどと異なり頭を残した背開きで作る「小田原開き」は、神奈川県小田原地方の伝統だ。細長い魚の開きにはこの方法が最適とされ、大きさや脂ののり具合で塩水の濃度を変える、絶妙の塩加減で天日干ししたカマスの開きは極上品だ。
身離れがよい熱々のうちに、ハフハフいいながら食したい小田原開きの干物家庭で手軽に作れる「一夜干し」も人気だ。まずウロコを落として開き、内臓を取り出して流水でよく洗う。次に海水程度の濃い目の塩水に20~30分漬けて風通しのよいところで半日、夜から朝方まで干せば、一夜干しが出来上がる。 やわらかい魚なので、皮がはがれないよう丁寧に焼き上げればふわふわになる。
この時季の大きくて鮮度が良いものは刺身にも向き、酢締めもいける。これに目をつけた料理人の間で近年、刺身にすることが流行っている。とくに皮つきのアカカマスの炙りは絶品の味わいという。
皮目が香ばしいカマスの炙り刺身小田原の漁師の間では、とれたてのアカカマスをやはり皮つきのままさっと熱湯をかけ氷水でしめる「湯引き刺身」がこの時季の愉しみだとか。余分な脂が落ち、皮もやわらかく、噛めばかむほど甘みが出るという。
カマスは本州から南の海域に生息し、関東近海では千葉県や神奈川県沖(相模湾)で漁獲される。一般にカマスというとアカカマスのことを指し、別名ホン(本)カマスとも。やや水分の多いヤマトカマスはミズ(水)カマスともいわれ、アカカマスの半値以下で干物に向く。紀州や四国の「かます寿司」はこちら。
ところで、カマスは美しく繊細にも見える外見とはほど遠く、その実とても獰猛(どうもう)な魚らしい。昔の文献にはこうある。“鋭い歯で小魚を追い、獰猛、貪欲ぶりを発揮する。憎々しい下あごを突き出している” あんなにおいしいのに、憎々しい、とは少々気の毒にも思えるが、ともあれ大きく裂けた口と鋭く尖った歯が特徴的で、気性がとても荒い海の暴れん坊というのが昔からの定評らしい。 というところから「かます」は攻撃的な意味あいを持たせるために使われる。 ‘はったりをかます’‘一発かます’と。
鹿の子模様も美しい「焼きかますの押し寿司」 京都の秋の味わいだ日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一
【解答】①カマス
日本さかな検定(愛称:ととけん)とは
近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。 この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。 魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。 2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。 今年平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。 日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/