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さかな歳時記「二十四節気・清明」 春うらら、潮干狩り日和には

二十四節気●清明●4月5日

潮干狩りにふさわしい陽気になると、食卓の主役はアサリに。パスタに酒蒸し、味噌汁に潮汁、炊き込みご飯と、なんでもござれ。日本人の食卓にもっともなじみ深い貝ともいえるこのアサリ、全国的にみると、好みが分かれるようです。
日本一アサリ大好きな県民を選びなさい。


①青森  ②山梨   ③島根   ④沖縄

【解説】

アサリの家庭内消費(購入)量日本一は、意外にも甲斐(かい)の国、山梨県。なぜ海を持たない山梨県民がかくもアサリを好むのか。甲府市の関係者によると、「貝はもともと県内では高級品として扱われて、手に入るのは乾物や煮たものがほとんどで、祭りや祝い事のときにしか食べられなかった。新鮮な貝があたりまえのように流通する現在でも、山梨県民には貝に対するあこがれがあるのではないか」と推測する。
1日に約5キロのアサリが売れるという甲府市内の鮮魚店では、「ハマグリや赤貝などほかの貝は人気がなく、客の多くが“刺身はマグロ、切り身はサケ、貝はアサリ”と決めている節がある」という。それにしても謎が残る。
ざるの上にとって眺めると、その殻の模様や色の美しさについ見とれてしまう。モダンな幾何学模様にモノト-ンの渋い色合い。コム・デ・ギャルソン顔負けの素敵なデザインだ。左右で柄が違うところも個性的。さりげなく、こんな“天然おしゃれ”をしているところが憎い。外海のきれいな環境に棲んでいるものほど殻が薄く、斑紋も美しいといわれる。



生息環境によってこんなに違う殻模様。左上、浜名湖産、時計回りに千葉九十九里浜産、愛知三河湾産、熊本有明海産。

アサリにはビタミン12、カルシウムのほか、鉄や、コレステロールを下げるタウリンも豊富。、うまみエキスをたっぷり含み、縄文時代から日本人に親しまれてきた。



安くてうまくて、庶民に大人気だった「深川丼」は江戸時代のファースト・フード。いまも門前仲町、清澄界隈で味わえる。写真は“ぶっかけ”スタイル、ほかに“炊き込み”バージョンも。

東京湾がまだ美しい内湾であったころ、下町では「あさぁり、むきみ!」「あさり、からあさりぃ!」という呼び声で売り歩く子どもの声が響きわたり、江戸の朝はあさりの味噌汁で明けた。名物料理といえば「深川飯」。アサリのむき身をねぎとともに甘辛く、汁たっぷりに煮て、熱い丼飯にかけたもので、下町には必ず屋台が出ていた。
アサリといえば、砂出し。バットにアサリを重ならないように並べ、海水と同じ3%の塩水をひたひたになるくらい入れ、新聞紙などをかぶせて冷暗所で3時間から一晩おいておく。


春野菜をそえて、ボンゴレ・パスタに

アサリは日本のみならず、世界中で食べられているが、ヨーロッパでは1960年代半ばにアサリが激減してしまったためにアメリカから輸入し、アドリア海などで養殖するようになった。こう記すと現在の欧州のアサリは米国がルーツのようだが、実はこのアメリカのアサリ、もとをたどると明治時代に宮城県から輸出された養殖用のマガキに混ざって海を渡り、アメリカとカナダの西海岸で大増殖したものなのだ。
とはいえ、日本も1980年代前半をピークに、漁獲量が大きく減少。一部地域でアサリの養殖も行われるが、多くは自然繁殖に依存している。天然のアサリの出現量は年によって大きく変動する。
本州や九州では春と秋に、北海道では夏にそれぞれ産卵し、生まれたばかりのアサリの幼生は、海中を浮遊し、時には潮の流れにのって100kmも移動することも。2~3週間で、親に近い形の稚貝になると足糸と呼ばれる細い糸で海底の砂にくっつく。10ミリほどの大きさになると、砂に潜るようになり、25ミリを超えると産卵を始める。
好条件では、それこそ湧くように増えるが、10ミリに満たない稚貝はたくさんいても、20ミリ以上に大きくなる育つ前にいなくなってしまうことが多いという。


あさりの酒蒸し。コツはアサリをたっぷり使うことだけ。白ワインを使ってフレンチにしても。

ところで、アサリとシジミとハマグリの関係をご存知だろうか。室生犀星は「アサリのうた」という詩にこう書いている。

おまえのにいさんはといえば
ハマグリだとこたえる。
そんならシジミは孫かとたずねると
うんという。
きょうだいけんかはめったにしないが
アサリもシジミも
深い海の中にはついていけない。
にいさんのハマグリだけは、
きょうも深いところであくびをしている。

ちなみに、①青森、 ③島根、 ④沖縄はアサリの消費量がもっとも少ない3県である。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】②山梨   
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。
また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――2月2日よりWEB先行申し込み開始」となっております。
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