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さかな歳時記「二十四節気・春分」 早春にひときわ輝く“魚界の麗人”

二十四節気●春分●3月20日

ご覧の外見から“魚界の麗人”、“海の貴婦人”とも昔から呼ばれるこの魚、かの北原白秋も「・・・お姉さまに似ている」とその美形を称えています。
水ぬるむ春を告げる魚のひとつで、特に大きいものはカンヌキと呼ばれ、市場では高値で取引されます。すしダネの光ものとしても重宝される、この魚を選びなさい。


①カマス
②サヨリ
③サンマ
④ワカサギ
【解説】

解説:早春に旬を迎えるサヨリ。産卵のために岸辺の藻場に群れる春告魚のひとつで、石川県・能登半島で春に漁獲されるサヨリは地元で「花見魚」の愛称をもつ。
スリムで燦然(さんぜん)と輝くその姿から“海の貴婦人”ともいわれる。漢字では細魚、または針魚。北原白秋はサヨリをこううたっている。
--サヨリはうすい、サヨリはほそい。ぎんのうを、サヨリ、きらりとひかれ。
ぎんのうを、サヨリ、おねえさまににてる。(『コドモのクニ』)

針のように伸びている、下あごの先の赤いのが、紅をさしたよう。



佳人の趣きがあるその印象は、やせぎすの和装をした日本娘の感じである、といったのは著名な魚類博士だが、そういわれると竹久夢二が描く儚(はかな)げな女を想わせる風情がある。

この季節、築地市場の仲卸売り場を歩くと「カンヌキ」という耳慣れない魚の名前を聞くことがある。市場の目利きが選りすぐった特上のサヨリのことだ。
カンヌキは漢字で書くと「閂」。観音開きの扉の錠で横に渡す棒のことだ。体長30㌢を超える特大のサヨリが一見このカンヌキによく似ていることから、こう呼ばれるようになったとか。市場では細くて小さいものを「エンピツ」と呼ぶ。



お味のほうはといえば、脂肪分が少なく淡泊ながら、多少クセを感じさせるほどのコクがある。刺身など、あまり手を加えず、味と透き身の美しさをひきだすような料理がいちばん。
食通のオススメは薄造りにしてからの昆布締め。三枚におろしたら、薄く塩をして昆布にはさんで数時間置くだけ。淡泊な白身にほんのり昆布のうまみがしみ、上品な味わいに。サヨリは細工しやすく、クルリと巻くと料理屋と見まごう立派なお造りにもなる。
潮汁のお椀にしていただくのも上品。細めの切り身を結んだ「結びさより」を椀だねにすると、見た目も味も堪能できる。



この時季の光もの、サヨリの握り鮨 提供:築地玉寿司


見た目に美しく美味この上ない・・・といいこと尽くめのイメージだが、ひらくと腹の粘膜が真っ黒なので、腹黒い魚と呼ばれる一面も。これを人にたとえて、外見がよくて腹黒な人を「さよりのような人」ともいうが、実はサヨリの腹膜の黒さは新鮮の証(あかし)だとか。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】②サヨリ
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。 この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
今年平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡ほかの各会場で開催します。詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

  日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/