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さかな歳時記「二十四節気・夏至」 きらめく夏、清流に女王奔る。

二十四節気●夏至●6月21日

6月、日本各地の河川でこの魚の釣りが解禁になります。姿、味、香りのよさから“清流の女王”ともよばれ、古来、多くの釣り人や食通たちを唸(うな)らせてきました。初夏の清流の贈り物ともいうべき、この魚を選びなさい。


①雨子
②鮎
③岩魚
④鯉

【解説】

初夏の日差しを受けながら、清らかな水の流れに銀鱗(ぎんりん)を躍らせる鮎。そのすらりとした容姿の美しさ、香気溢れる食味のよさから“清流の女王”ともたたえられ、昔から日本を代表する川魚として愛されてきた。
神話のなかにも、鮎は縁起の良い魚としてたびたび登場する。たとえば『日本書紀』には、神武(じんむ)天皇が大和平定の成否を占うため奈良の丹生(にう)川に酒の入った壺を沈めたところ、大小の鮎が木の葉のように浮き上がる。これを吉兆として平定を成し遂げた、とある。また、神功(じんぐう)皇后が新羅(しらぎ)遠征の前に鮎釣りで戦況を占ったとの記述もあり、ここから「魚」と「占」を組み合わせて「鮎」の漢字が生まれたともいわれている。



川魚のなかでも、鮎ほど人々を魅了する魚はほかにない。季節の移ろいを愛でる日本人の感性を刺激する優美な姿と、香り高く繊細な味わいがその所以(ゆえん)だろう。

また、鮎は将軍家や皇室への献上品とされてきた歴史があり、あらためて日本人との深いつながりがうかがえよう。鮎は背びれと尾びれの間に脂びれがあることやその習性から、鮭や鱒と近縁の魚といわれる。産卵期は秋。川の中流から下流域でふ化した仔魚(しぎょ)は海に流され、岸に近い浅い場所でプランクトンを食べながら冬を越す。春になり、川の水が海と同じくらいの温かさになると川に戻って上流を目指す。体長5~7㌢ほどの成長した若鮎は川の流れに負けないほどのたくましさをもち、川底の石についた藻類を食べながらぐんぐん大きくなる。
とれたての鮎がスイカに似た独特の清々しい香りを放つのは、餌(えさ)となる藻類に由来する、とも。また、鮎は育った川によって香りや味が違うといわれるが、これは藻の違いや川の流れなどの環境によるものとされている。



「魚の塩焼きといえば、何といっても鮎だろう」と著したのは池波正太郎。淡泊ながら、香り高い風味は格別。塩焼きならば、脂ののる7~8月が最もおいしい時季といわれる。


清流に躍動する姿そのままに串を打つ‘おどり串’。鰭までおいしく食べられるよう化粧塩はまぶさず、焦がさず焼き上げる。

夏の間、川の上流で過ごした鮎は秋になると卵を抱え、産卵のために再び下流におりてくる。これを「落ち鮎」と呼び、卵を産み終えると海に流れて、わずか一年でその短い一生を終える。
川と海とを旅しながら、四季のなかで儚(はかな)い命をまっとうする鮎は、文献に取り上げられた歴史も古い。712年(和銅5年)に編纂された『古事記』には、すでに「年魚(あゆ)」という名前で登場する、つまり、この時代には秋になると産卵し、死滅する生態まで知られていたことになる。 平安時代中期に作られた辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』にはこうある。

春生じ 夏長じ 秋衰え 冬死す 故に年魚と名づくなり

初夏の若鮎から、真夏のしっかり脂ののった成魚、卵を抱いた秋の落ち鮎まで、短い期間に風味が刻々と変化するのもこの魚が愛されてき理由のひとつだろう。



秋の落ち鮎を燻製にして一年を通じて食べられる保存食に。そのままでも佃煮でも、正月には雑煮の出汁にも。

一般に鮎の旬は夏とされており、7月頃までは小骨もやわらかく、丸ごと食べられる。なかでも独特の苦みのあるワタ(内臓)は、鮎ならでは美味。美食家として有名な北大魯山人(きたおうじろさんじん)は、6月にとれた若鮎を頭から食し、はらわた、身、皮を同時に味わう食べ方が一番おいしいと著している。調理法も多彩で、最もポピュラーな塩焼きは、頭を下に向けて焼くと良い具合に脂が落ちて、おいしく焼けるそうだ。このほか、背ごし(刺身――冒頭の写真――骨が柔らかい若鮎の頃、透きとおるような身の美しさと皮の香り、そして骨の食感を愉しむ逸品)や干物。
甘露煮、炊き込みご飯、内臓でつくった塩辛“うるか”など、鮎は夏の日本料理に欠かせない食材のひとつになっている。



栄養を蓄えた秋の鮎でつくる、内臓の塩辛「うるか」。鮎の鮮烈な香りと独特の苦みが愉しめる珍味で、酒との相性が抜群。腹ワタだけでつくる「渋うるか」(左)。雌の卵と雄の白子を混ぜて塩漬けする「子うるか」(右)。


日本三大清流にも名を連ねる長良川で育った鮎のおいしさは全国屈指といわれるが、なかでも鵜飼でとれた鮎は「鵜鮎」と呼ばれ、希少な高級品として扱われている。

①は日本固有の魚でヤマメ(山女)に似ているが、体側に朱点があって美しいアマゴ。③は日本の淡水魚のなかでも標高の高い川に生息するイワナ。天然ものは幻の魚といわれるほど貴重。
④は古くから各地で養殖されているコイ。洗いやこいこく、甘露煮で親しまれる。

 

日本さかな検定協会 代表理事 尾山 雅一

【解答】②鮎(あゆ)    
 

日本さかな検定(愛称:ととけん)とは

近年低迷が続く日本の魚食の魅力再発見と、地域に根ざす豊かな魚食文化の継承を目的として2010年から検定開催を通し、思わず誰かに伝えたくなる魚介情報を発信する取り組みです。
この四半世紀に街の魚屋さんが7割近くも姿を消し、またいまや地方にも及ぶ核家族化により、魚の種類・産地・季節・調理の情報や、祖父母に教えられた季節の節目に登場する魚の由来や郷土の味が伝わらなくなっています。
魚ほどそれをとりまく情報や薀蓄が価値を生む食材は他にないのに、語るべき、伝えるべき魅力が消費者に届かなくなっているところに、「魚離れ」や特定魚種への好みの偏りの一因があると捉え、愉しくおいしい情報を発信する手段として日本さかな検定が誕生しました。
2010年の第1回を東京・大阪で開催、2015年の第6回では八戸から福岡の12会場、昨年の第7回では函館から福岡にいたる11会場へと広がり、小学生から80歳代まで累計2万名を超える受検者を47都道府県から輩出しています。
平成29年は、6月25日(日)に札幌(初)・石巻・東京・静岡・名古屋・大阪・兵庫香美(かみ・初)・宇和島・福岡の全国9会場で、6歳から88歳まで2800余名を集めて開催しました。
また今年行われる第9回の日本さかな検定は「2018年6月24日(日) 札幌 酒田(初)石巻 東京 静岡 名古屋 大阪 兵庫香美 下関(初)――5月21日申込み締切り(5名以上のグループ受検は5月14日締切り」となっております。
詳しくは、「ととけん」で検索、日本さかな検定協会の公式サイトをご覧ください。

日本さかな検定協会 http://www.totoken.com/