Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第90回
新型コロナウィルスが及ぼす、食の接点崩し。
4月もまもなく終わるが、こうした「2020年」を迎えるとは思わなかった、と思う人が多く存在していると思う。まさに新型コロナウィルス感染拡大について、世界各地で、多くの感染者と死亡者の数が増加、商業施設や飲食店を始め、まもなく始まるゴールデンウィークがおおきな境目になるのでは、と考えている。
正直、かなり厳しい状況である。目先の部分でいえば、人件費、家賃といった「固定費(一部変動費だが)」が重い。というより、食に付加価値をのせて提供するサービスや業務においては、その固定費は大変辛い。飲食店の悲鳴をきけばきくほど、どういう形でサポートするべきかを至難して対応するタイミングであることは間違いない。かなりの国、行政のサポートが5月から随時始まっていくが、どのくらいの事業者が頑張っていけるか。まさに人類が「飲食業」をはじめ、食をビジネスとみた場合の、スキーム、成り立ちが崩されつつある。
一方、少し長い目で見ると、ちまたで『オンライン飲食(参考記事:https://telewo-rk.com/restaurant/1/)』の反響が凄まじい。つまり飲食店での食の提供ではなく、テイクアウト、UberEATSなどのデリバリー、食のビジネスをサポートするアプリ、サービスの隆盛が一気に目立つ格好になっている。
いずれにせよ「これまでの『食の接点』が崩されている」状況は見過ごせない。つまり、食の接点こそ付加価値のネタであり、そこをどのように深めていくのかがポイントであった。すくなくとも僕が経営しているoiseauは、まさにその接点作りこそが、腕の見せ所と感じている。
特にその付加価値のポイントは、「『場』のメディア化」だ。それはオンラインでも同様に「場のメディア化」が付加価値をもたらす。例えば「オンライン飲み会」についても、離れた場所で乾杯するにしても、その場が情報発信のネタであり、人が、物理的に集まらずとも、場が盛り上がり、付加価値を提供できる。またオフラインにおいても、最前線で戦う医療従事者に、シェフがお弁当を無償で提供する「Smile Food Project」のように、食が『生きる』ということを演出する企画を作り上げている。こうした意義深いことに、メディアも反応し、多くの病院に少しずつお弁当を提供することを進めているのだ。だれもがすごいことを、し出すのではなく、ふと「原点に立ち返る」ことを、僕らはこのコロナウィルスと付き合っていく(=with COVID-19)ことで見えてきているのは確かだ。情報発信されたコトは、かならずどれと限らず、特別で価値を持ち始める。むしろ、むりに付加価値をつけたものが、いま崩壊のタイミングを生み出しているのではないか。
あえて、この状況から脱するタイミングを見つけるのではなく、「どのように付き合っていく」かだ。この状況下で、原稿の中身を検討していたが、この話題に触れざるを得ない。だからこそ、5月の原稿は楽しみにしてて欲しい。どんな食の接点をプロデュースするか、僕もネタを検討する。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp
Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第89回
奈良に、ウグイス。最速立ち上げ、ポップアップレストランの作り方。
「奈良に、ポップアップレストランを作って欲しい」とオファーがあったのが2020年2月末のこと。「ポップアップ(限定店舗)」と聞いててっきり、2、3日ほどの短期間と考えていたが、なんと「半年」という短いようで結構長い期間だった。。すでに明日は3月1日、、ということは、たった1ヶ月でレストランを立ち上げなければいけない状況に陥ったのだ。
しかし、オファーを受けたからには、すぐさま企画をまとめなければならない。僕が飲食店を立ち上げる際に、具体的に6つの項目を作り上げることを決めている。①ビジョンを作る ②道具を揃える ③人を集める ④資金を集める ⑤つくってもらう ⑥世に出していくだ。この一連の流れに沿って、意味作り、サービス・仕組みを作るのがポイントだ。
まず、①ビジョンを作る。実は僕にとって「奈良県」は、人生でも1、2度、しかも「仕事」で行ったことがない場所だ。1度目は、高校の修学旅行で訪れた東大寺だ。今回東大寺に気分転換で一度訪れたが、久々に大仏を拝むことができた、というほどのご無沙汰である。その中で、この奈良でどんなポップアップレストランが展開できるのかを、奈良市内を歩き回り、飲食店を食べ歩きしながら、それらからうける「第一印象」を大切に、業態を検討した。
その奈良の飲食店で受けた印象は、どこにでもある「観光地方都市」であった。営業時間がやたら長いファミレス、何十年も変わらない夜18時にはすべて閉店する商店街など、アップデートがなく、「これをやっていれば潰れない店作り」が見えてきた。とすると、飲食店も似たような店作りとなり、昼はテイクアウト専門、夜は居酒屋というパターンに気づいた。「これは、安定した手堅い一つの業態ではなく、複数の業態が入り込む、一見困難で不安定だが、業態、料理人も時間、曜日、期間で入れ替わるような飲食店が、奈良の風景を変えるきっかけを作り得るかもしれない」と、今回のビジョンづくりのきっかけを得たのだ。ときには地元で居心地のよいフレンチ、朝はコーヒー専門店、夜は小料理屋のような、ちょっと落ち着いた和食屋。そんな、街のような風景が、このポップアップレストランに似合うかもしれない。
そんな状況を描きながら、次に足を運んだのが、気の利いた用具屋だ。僕が通う用具屋は、実は東京の一等地で展開する大手チェーンから、星付きレストランまで幅広く取引している会社で、今回のイメージを探すべく、お皿からカトラリー(フォーク、ナイフ)、厨房内備品(タッパーからナイフ、ボールまで全て)まで全て出揃う環境を作れる会社である。結果、2、3時間ほどで、すべての機材のリストアップを終え、結果、発注まで2日という短期間でおおよそを決め切ったのだ。
次に奈良の現場に足を運んだ。実は、今回のポップアップレストランは、4月4日(土)にオープンしたばかりの「奈良蔦屋書店」の2階のスペースだった。厨房設備は、これまた設備会社が半日で図面をまとめ、工事含めて大特急で進めたプロジェクトだった。2月末にオファーをいただいた時、僕が図面をいただけたのはラッキーだったが、それをもとに、何が必要で何が足りないかを瞬時に判断しなければならない。
そしてなにより「誰にこのポップアップレストランに出演していただくか」だ。その一番手に、地元のフレンチ田舎料理「ブラッスリー ロワゾブリュ」に依頼した。業態を探す際に、今回は多くの飲食店に、事前にお声がけさせていただき、その中で、「ブラッスリー ロワゾブリュ」を指名し、まずスタートからお店を開いていただいた。営業時間は11:00−17:00というカフェ営業の時間帯だ。この奈良蔦屋書店の営業時間は08:00−23:00という長丁場の舞台だ。その真ん中、いわゆる「第2幕」をロワゾブリュに、そして第1幕(08:00−11:00)、第3幕(17:00−23:00)と、続々とポップアップレストランとしての出店を促している。
そうして開業のために、資金を調達、無事に4月4日、お店をオープンすることができた。その名も「ブラッスリー アンド カフェ ウグイス」だ。もともと奈良市の市鳥は「鶯(ウグイス)」であり、弊社もoiseauで、フランス語で「鳥」、さらに、今回一番手のブラッスリー ロワゾブリュも「鳥」ということで、たまたまではあるが「鳥」に紐づいた名前になったが、あくまでも料理を食べられるレストランということだけではなく、一つの場所で複数の業態を演出し、そこで生まれるコミュニケーションやきっかけを作るのが、このお店の主旨であると理解している。またポップアップならではの「意外性」も大事だと思っている。先ほど挙げた⑤のつくってもらう、も自社でシェフを雇い、半年だけのお店を作り上げても、利益目的以外は、明確なゴールがないと感じていた。このお店を皆で、地元の人間とともに作り上げ、その半年なりのプロセスの中で、⑥世に出していくということが大事だと感じている。特別なものを作るのではなく、むしろ奈良市内の飲食店こそ特別なもので、ここでしか食べられないシーンを演出することが大切だと弊社は感じているのだ。
ただ、誤解を受けて欲しくないのは、「飲食店は1ヶ月で(プロがやれば)出来上がるものだと思ってしまう」ことだ。正直、出来上がりません(苦笑)。もちろん多くのプロが携わったことが大切ですが、「特急で作り上げる」には、パワーとコミュニケーショが必要であり、時にはシビアな話も繰り広げながら、進めなければならない、そんな状況を1ヶ月で作り上げることは、できるだけお勧めしません。また開業はしましたが、お店の内容もこれから、そして、昨今の新型コロナウィルスの感染拡大防止により、緊急事態宣言が発せられたタイミングでの船出です。事業を進めていく中で、どのくらいのリスクを背負い、避けながらも、それでも受けざるを得ないリスクを減らす作業を継続するのが弊社の役割でもあります。
スタートしたロワゾブリュは、少しずつお店のイメージを変化させていくはずだし、僕らも、また新しい業態を増やしていくことで、新たなコミュニケーションが生んでいく。そんな場所を作り続けます。
●ブラッスリー アンド カフェ ウグイス
〒630-8013 奈良県奈良市三条大路1丁目691-1 奈良 蔦屋書店 2F
(アクセス:https://store.tsite.jp/nara/access/)
(店舗facebookページ:https://www.facebook.com/uguisu.nara)
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第88回
千葉・房総のおいしさを「伝え手」としてつなぐ、Fusabusa。
新型コロナウィルスの影響で、とうとう2020東京オリンピック・パラリンピックが、最大2021年夏まで延期が発表。その後、東京を始め、日に日に感染者が増えている。週末の、都心での商業施設は軒並み休館。できるだけ多くの患者を増やさないよう、外出自粛ムードは拭えない。3月、そして4月以降のイベントや催しが軒並み延期、中止が叫ばれる一方で気晴らしに、千葉県鴨川に足を運ぶ機会を作った。
以前、鴨川の海岸沿いに「里海食堂+カフェ FUSABUSA(ふさぶさ)」という飲食店があった。このFUSABUSA、「房総」を訓読みでよむと「ふさふさ」からきていて、「房総の食の素晴らしさをもっとたくさんの方たちにつなぎたい、『伝え手』になりたい」という思いから「ふさぶさ」と命名。主に、食堂やカフェ、お取り寄せのロールケーキ やプリン、セレクトショップで販売する商品、またお店を活用したワークショップなど多岐に渡り、「食の接点」を演出していたお店であった。千葉房総半島の、旬の素材に拘った料理、地元の牧場からわけていただく新鮮な牛乳から作るスイーツが人気で、僕も時折、気分転換に足を運んでいた。
そのFUSABUSAが店舗を閉め、2017年春から、オーナーである小野さんの実家が代々所有する鴨川市内の休耕田を、里山の豊かな生態系を背景とした「耕さない田んぼ」として再生する活動を始めたのだ。荒地となった田んぼを、生き物と共生し、環境に負荷をかけない田んぼに蘇らせる活動だ。
「近くまで来たのですが、どのあたりですか?」と小野さんに電話をすると、すすっと、近くの民家から、愛犬「マルコポーロ(ジャック・ラッセル・テリアという小型犬で、名前から『マルコ』と呼ばれる、実はコンテストでアメリカでナンバーワン(!)を獲った可愛い犬がいるのです。。)」とともに小野さんが現れた。実は、小野さんのご実家であり、ご自宅の場所が、新たなフィールドだった。
その民家の横に「naya(なや/納屋)」があった。中に入ると、きれいにリニューアルされた場所で、以前海岸沿いにあったFUSABUSAの名残として、椅子や机、そして、小野さんの、相変わらずセンスの良い家具や小物が飾られている。
また、以前、小野さんとやりとりして進めていた、「摘果みかん」を活用して作った果実酒まで置いてある。小野さんの世界観が、ひとつずつ、ものすごく丁寧に、表現されているのがとても感心した。
ちょうど小野さんの手料理を、いくつかいただくことになった。小野さんとときおり、話をしながら、小野さん手作りの、房総半島の食材を纏った料理をいただき、小野さんが、このふさぶさファームを通じて、食に限らず、生き方の提案をされている印象を感じ取った。そこの中心に「食」を据えているのは共感できる。
このFUSABUSAの、「ふさぶさファーム」はもちろん誰でも参加が可能だ。鴨川の山側の地域だが、その里山風景は、日本の各地の風景に似ている。なにより空が広い。新型コロナウィルスを、この2020に経験し、食もさることながら、生き方の再定義が求められている気がする。だからこの空の広さこそ、再定義のきっかけを与えてくれる「余裕」を感じるのだ。
FUSABUSAが伝えていく「おいしさ」こそが、人として生き抜く時間と、その余裕を演出していくのではと思う。家具ひとつ、使用する食材ひとつ。春の、良い時期に、鴨川を訪れて感じたことだ。
FUSABUSA:http://fusabusa.jp/
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第87回
北海道すすきので大人気! 大人の牧場「ミルク村」
今年は暖冬というべきか。1月、2月と例年以上に雪が少なく、このブログでもいくつか報告させていただいたが、北海道についても雪は、非常に少なかった印象だった。特に2月に、道路の雪面が削れ、12月初冬あるいは4月上旬のような景色が広がっていたことが、印象的だった。
そんな暖冬の北海道ではあったが、まさに初夏のように、ワイワイガヤガヤと賑わう牧場に足を踏み入れた。場所は札幌市「すすきの」の飲食ビルだった。
その名も「北海道ミルク村」だ。エレベーターを降りると目に飛び込んでくる、キャッチーな入り口。いわゆる飲食店やバーが連なっているビルのフロアで異彩を放っているのだが、入ってみると、異質な空間が広がっていた。
なんとそのミルク村、20−30代の女性で満席!というバー業態だったのだ。しかも席と席の幅が狭く、席数以上にお客様が座っている。僕らも3名席の大きさの場所に、大人5名で座って、この牧場を楽しむことにした(笑)
座るとまず、スタッフがジョッキグラスにたっぷり入れ込まれたソフトクリームを運んできた。「このソフトクリーム、おかわりは1回目まで可能です。是非」と。
こんな量は食べ切れないだろうと、一口口(くち)に運ぶと、バニラ味ではなく、どこかからバナナのような、甘さを感じた特徴的なソフトクリームだった。そのソフトクリームを頬張りながら、パンケーキや、お菓子が次々と運ばれてくる。「二口目はこちらと合わせてソフトクリームを頬張ってください」と。そこからスイスイと、あっという間に1杯目のソフトクリームが無くなろうとしている。いささか驚いた……。
さて、ミルク村は前述、「バー業態」と書いた。実はここの醍醐味はこのソフトクリームと、リキュールを合わせて飲む(食べる?)という仕組みを提供している。お店のカウンターでは、100を超えるリキュールが並べられ、ミニグラスに入れられて運ばれてくるのだ。お菓子の次は、リキュールの嵐が続く。ブランデーやウィスキーが国内外のものが揃っており、それを2、3種選択する。
バーのメニューは、たったの2つ。Aセットは「カップアイスクリーム(ソフトクリーム)」「リキュール2種」「クレープ、ヨーグルト、キヌア、ラムあずき(絶品!)」「コーヒー」で¥1,390円+税、Bセットは「カップアイスクリーム」「リキュール三種」「コーヒー」で¥1,390+税(2020年3月現在)。
大人の牧場……とはよく言ったものですが、ソフトクリームとリキュールのマッチングが非常に相性良く、それでいて、女性受けが良いというのが印象的でした。
冬の北海道といえば、まさに冬景色一色ではありますが、こうした牧場めぐり?も「すすきの」あたりでチャレンジするのも大人的にアリかもしれません。昼から営業しています(笑)
店舗情報:ミルク村 SAPPORO本店
北海道札幌市中央区南四条西3-7-1 ニュー北星ビル6F
定休日:月曜
営業時間:火・木~日/13:00~23:40(L.O.23:00)水/17:00~23:40(L.O.23:00)
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第86回
食材が生まれる現場が、味を物語る。
非常に天候があやふやな2020年。雪は例年以上に少なく、すっきりと晴天が続く毎日、僕は高知県土佐清水を訪れました。
2013年にユネスコ無形文化遺産として認められ、和食(日本食)が世界中の人々から注目されるようになり、和食の基本となる「だし」という言葉も注目され始めました。日本の「だし」という言葉を聞いて、多くの人がイメージするのは鰹(かつお)節。和食(日本食)の繊細な味付けは、だしの原料となる鰹節の風味や味を活かした料理がベースとなっています。
今回訪れたのは、有限会社ヤマアさんという宗田節一筋80年を超える製造業社です。宗田節とは“ソウダカツオ”から作られた節のことです。スーパーや百貨店で販売している鰹節削りは荒本節という鰹節を削ったもので、荒本節の素となる鰹は“マガツオ”と言われるものです。同じ鰹という名前が付いていますが、種類が違うため、節になった時の見た目やだしをとった時に味の違いが出ます。また、ソウダガツオには表面に優良なカビを人工的に発生させた枯宗田節もあります。ソウダカツオは西日本で“めじか”とも呼ばれることから、宗田節のことを目近節(めじかぶし)とも呼びます。
宗田節の主要生産地は高知県です。ソウダガツオは釣り上げてからの鮮度が落ちやすく、水揚げから節の製造までにあまり時間が掛けられない魚なのです。そのため漁港の近くで加工する必要がありました。なかでも高知県土佐清水市は2017年のソウダガツオの漁獲量が3500トンと第2位の長崎県800トンと比較しても4倍以上の水揚げ量があるため、宗田節の生産量は多く、宗田節づくりの一大産地となっています。
そして、ソウダガツオは1年を通し漁獲されるのですが、時期によってソウダガツオの脂肪分が違うため、宗田節からだしを取った時に味に違いが出るといわれています。
これは、脂肪分が多いソウダガツオを宗田節にすると、だしを取った時にだしに脂肪分が溶け出してしまい、だしの旨味や色調に影響が出る場合があります。もちろん脂肪分が多いとだしを取った時に影響が出やすいのですが、少なすぎても旨味を感じにくくなってしまいますので、程よい脂肪分が必要となります。その中で土佐清水市では年間を通してソウダガツオ(めじか)の呼び名が変わります。これは、ソウダガツオの大きさと脂肪分をどの程度含んでいるのかが分かりやすくなり、宗田節作りの指標ともなります。
その宗田節づくり現場は、1階から3階にかけて作業が分かれており、3階屋上にでると、土佐清水 中浜の海岸がひらけて、天日干しされた「宗田節」を拝むことが出来ます。
いくつか、宗田節をいただきましたが、思いの外「さっぱり」とした味わい。麺つゆにしたり、そのまま食べたり、開発中の商品も試食しました。味わい深いものばかりです。宗田節だけではなく、それを扱う商材ふくめ展開すると面白いと感じました。また、今まさに商品開発している商材があり、いくつかサンプルを味合わせていただきましたが、宗田削りの美味しさともいえる、「香りとだし」のコクが素晴らしい。特に、宗田節は香りも良く、コクのある旨味も感じる事が出来るので、香りと味を楽しめる煮物や鍋物・麺つゆなどで使用すると美味しさが引き立ちます。
こうした味わいをこしらえているのは、この製造に関わっている、若いスタッフたちです。主にこうした食品工場では、玄人のシルバー人材が多いのですが、ヤマアさんのところは、20代の男性が多いのが印象的でした。だから、といってはおこがましいのですが、非常に「イキのいい宗田節」が出来上がっている印象です。(節、なので、イキがよいとはおかしな表現ですが、、)
たまたま訪れた日が快晴の日でした。そんな環境で働く人たちを応援するために、どういう風にスポットを当てていくのかがポイントだと常に感じております。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第85回
福島県のくだもの屋が仕掛けた、ふくしぼりりんごジュース
2019年夏より、先日まで、福島県福島市にある「くだもの畑」さんのお仕事をさせていただいておりました。今回は、りんごジュースの販促に関わるお仕事についてです。
当初お話をいただいた時は、「東北パッケージデザイン展2018 優秀賞(東北農政局長賞)」を受賞した「ふくしぼりりんごジュース」をどのように消費者に届けるのかというお題でした。
「ふくしぼりりんごジュース」は、福島盆地が育んだ「サンふじりんご」を100%使用したもので、これまで、通常のりんごジュースとして、「くだもの畑」さんで販売されていた。そのりんごジュースを、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒、現在神奈川にお住まいの大原菜桜子さんが、コンペ用にデザインし、晴れてデザインを一新、販売に漕ぎ着けたのである。
大原さんは、
「福島で作られたりんごジュースらしさを福島の伝統工芸である『土湯こけし』をアレンジして表現した。こけしというモチーフを用いる事で、①老若男女を問わず福島らしさ・安心感が伝わるデザイン。②売り場での目立ち感と共に家に飾りたくなる愛らしさがあり、人に贈りたくなるデザイン。③こけしの様にこだわって一品一品作っている事が伝わるデザインである事を目指した。
顔の形や絵柄にりんごの要素を散りばめたこけしのイラストを瓶に大きく配置。店頭でこけしが賑やかに並んでいる様に見える事を狙った。贈答用の箱はりんごの段ボール箱をイメージし、クラフト調と色数を絞った印刷で親しみと産地ならでは感を表現している。シリーズ展開時はこけしの高さを調整して他容量へ展開が可能で、モチーフの果物を変えることで他のジュースにも対応可能となっている。商品名は「福島のおいしさをぎゅっと絞った」という意味の「ふくしぼり」と名付けた。」
とし、くだもの畑さんが経営している場所の近く「土湯温泉」の伝統工芸、「土湯こけし」をアレンジし、これまでのりんごジュースのパッケージにはなかった、個性的で見栄えの良いアレンジを施したのである。
一方、くだもの畑さんは、そのジュースを、福島に限らず、もっと世の中に広めていきたい、マーケットを広くしたいという思いから、「2、3本をセットにして販売したい」「りんごに限らず展開を検討したい」「りんごはもちろん、そのほかの『福島の果物』にもスポットを当てたい」という要望があり、大原さんに引き続きデザイン部門を依頼しながら、「消費者へのお渡し方法」をさらに検討させていただきました。
一番苦労したのは、「2本、3本セットの化粧箱」です。アウトプットが「ガラス瓶」ということで、それなりに重くなります。まずその2、3本を入れ込む化粧箱の「強度」がポイントなります。また、「お持ち帰り」ではなく「贈答用」という部分も議論しました。いわゆる小売店やスーパーでそのまま購入して持ち帰る方にとっては、2、3本のリンゴジュースはなかなか重い。よって、宅配でお客様の元に届くような状態が望ましいということで、「紙」「木」といったそれぞれの版を何度かこしらえ、最終的に「紙箱」という部分で落ち着きました。もちろん、その箱についても、細部にこだわりをもつべく、「木目柄」「デザインにとりこんだ、そのほかの福島の工芸スケッチの紹介」といった部分も入れ込み、「贈答用」「お届け用」として、より「福島を感じてもらう」デザインに溶け込ませた内容にしております。
また今回に合わせて、りんご数個といった「果実のお持ち帰り袋」も検討させていただきました。僕も八百屋事業を経験したことから、こうしたビニール袋の良いものの検討はしてきましたが、最終的なコストや内容に応じて、通常のビニール袋になるのが妥当です。ただ、今回は「福島らしさ」という部分で、ポジティブに持ち帰って欲しい、そうした袋をつかって、福島のくだものを「つつみこみ」、そのつつみこまれた果実に愛情を持って接してもらいたいという意図から、透明袋に、印刷をかけ、あたかも「籠に盛られたフルーツ」として見栄えるようなデザインを施しました。ちょうど、こうしたオリジナルの型を持った会社がおり、その会社とともに、デザインを見直すきっかけをいただいたのですが、デザイナーの大原さんも、積極的に、福島の果実とデザインが邪魔にならないように、工夫して検討してくださったことも大変助かりました。
福島は、東日本大震災からまもなく10年、まだまだ関東より以西にむけての販促効果が出にくく、影響はこれまでも、これからもまだまだ続くと思います。そうした中で、今回お手伝いさせていただいたのは、その現場で戦おうとしている事業者の心意気でした。商売は「儲けてなんぼ」の世界です。りんごジュースをつくって販売するのであれば、それこそ僕の地元でも青森県のリンゴをつかい、デザイン性の高いリンゴジュースを販売することが一番でしょう。しかし、福島に限らず、日本の全国各地で、地元の食材を販売し、より多くの消費者につたえ、商売していくことは、至極大変と思っています。しかし、その大変さを凌駕し、より多くの人に伝わり、購入いただくためには、今回のようなチャレンジ、デザイン性の高いものの価値は、より重要だと感じております。その価値をどのように発信していくのかが僕らの仕事と思っています。デザインはもちろん、りんごジュースのスペックも非常に高いので、ぜひこの機会に購入、飲んでいただけると嬉しいです。
くだもの畑:http://www.kudamonobatake.jp/
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第84回
スピード感が違い。需要と供給のバランスが崩れる。
正月は実家青森で過ごした2020年。さっそくこの1月は、これまで中国上海、香港と取り組んできた地域団体商標「北海道味噌」の海外事業展開支援も2019年度も佳境となり、上海、香港に住む現地の料理人、飲食店経営者にわざわざ北海道・札幌へお越しいただき、北海道味噌を作り、販売をしている事業者とともに、マッチングイベントを開催させていただいた。
今回、事業に参加している7社のお味噌を活用し、北海道の料理研究家に依頼、8品目の味噌料理を作っていただいた。7事業者のお味噌は見た目も味も、特徴も異なる、それぞれ個性豊かなお味噌ですが、一般的な味噌料理は「味噌汁」がメイン。もちろん調味料としての味噌というだけではなく、生でそのままいただいたり、「酢味噌和え」や「味噌ディップ(味噌とマヨネーズを合わせたソース)」として、他の調味料や食材と合わせ、特徴を際立たせるものは、非常に中国人にとっても有効であることがわかった。
けれど、この事業で一番参考となったのは、商品云々という前に、「中国」の体質を理解しなければならないということだ。今までは、「中国に進出するのは難しい」「中国人とのビジネスがうまくいかない」という言葉も多く聞かれたが、現代においては、だいぶそうした誤解が少なくなり、むしろ「日本人は判断が遅すぎる」「補助サポートが半年かかるのは、タイミングが悪い」といった、「即ビジネスにつなげる感覚」の「時代格差」である。
中国の食業界は、担当者レベルは20代、そして決済者、経営者は30-40代がほとんどだ。一方、事業者は50-60代が担当者、70代が決済者、経営者ということもあり、すぐに現地に飛んで、自分のお味噌がどんな場所に置かれて、どんな風に食べられているのかを確認するにも、「海外」という土地性から腰が重いのだという。できれば明日からでも、次の予定が見えている予定があるのであれば、まずは、「とっかかりのきっかけ」をできるだけ早く作る。そして、満を辞して食品を持って行こう、そこから関税を通そうとおもったら、普通にやると半年はすぐにかかる。その時中国という場所は、場所も政治もどんどん変わり、ビジネスを始めようとしていたときから、心変わりするのも、わからなくもない。
しかしこの状況は、中国だけに限らず、世の中のスピードは「かぎりなく早く」動き始めようとしている。そして、中国含めた、新たな先進国は人口も増え、爆発的に、日本料理のニーズが高まっているのだ。以前も申し上げたが、ここ3-4年で、中国内の日本料理屋の店舗数が4倍ほどに膨れ上がり、いわゆる「日本料理パクリ」も多くなっているのだ。これは、中国人が日本料理を知らず、真似して作っている状況もあるかもしれないが、それだけ「ビジネスチャンスだ」と彼らは認識し、正直「パクってでも」日本料理屋をやりたいニーズが存在している。
ただ、香港、そして上海は、「中国の食のメッカ」だ。中国本土においては、この2都市へのPRは欠かせない。けれど香港は政治的な問題で、年末年始、そしてこの1/24から始まった春節時期ふくめ、香港から撤収、閉店に追い込まれているレストランが増えている。非常に厳しい時期を迎えており、すぐさま復活するのは難しいのではないかと感じている。一方、上海は、日本料理のスキルアップは目を見張るものがある。どのお店も、日本と変わらない味を提供し始めているのだ。だからこそ、その爆発的に増えている日本料理屋を相手にしていくために、彼らのニーズに瞬発力高く反応したい意識が必要だし、結果大きな展開になることも予想しながら、まずは小さくともそのアクションを起こすことが必須だということを、本マッチングイベントでも十分感じていただいたと思う。
しかし、このスピード感のズレは、非常にリスキーだと感じる。いまはビジネスチャンスだが、いったん広がったものが落ち着くタイミングが、すぐさま、1−2年でやってくる。この時に本物の日本料理とはなんなのかを、問われる時代がまもなくやってくる。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp
Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第83回
「地元」「故郷」はリセットのスイッチ
2020年、新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします!このブログも、かれこれ3年ほど経とうとしております。
毎月、多くの場所をたずね、多くの出来事に対応しているのですが、いつもながら気にしているのが「第一印象を強めるための、バランス調整」です。いつしか仕事は慣れてくる、同じような見方になる、もっというと年齢と経験の実績が、実はチャレンジに対して、ブレーキをかけているのではないかという危惧が生まれます。
そんな中、「地元」「故郷」を、働く場所である東京以外に持っている自分にとっては、ありがたいことだと思います。生まれ育った土地から離れて20数年。自分がどんなふうに変わっているのか、また、地元がどんなふうに変わってきているのかを感じることができる。
そこで2019年年末、年越しをかねて地元である青森県弘前市に帰りました。私が地元故郷で「リセット」する場合、いくつか場所へ出向いたり、食材を試すことをします。
まず、地元で採れた野菜です。野菜は、もともと八百屋を経営していたこともあり、「その地元でしか採れない野菜」を食べることにしています。その地元弘前で育った野菜「大鰐温泉もやし」と「一町田のセリ」です。
まず「大鰐温泉もやし」は、青森県の中南地域に位置する大鰐町(おおわにまち)には、古くから伝わる幻の冬野菜です。温泉熱と温泉水のみを用いる温泉の町ならではの独特の栽培方法により、およそ350年以上前から栽培されてきた津軽伝統野菜の一つで、津軽三代藩主・信義公が大鰐で湯治する際は必ず献上された代物です。
とくに大鰐温泉もやしは、 独特の芳香とシャキシャキとした歯触り、味の良さ、品質の高さで人気が高い自慢の味です。東京ではほとんど食べることができず、出回ったとしても、数量も少なく、それでいて人気が高い商品です。いま、会員制で有名な和牛専門店「WAGYUMAFIA」のラーメン専門店でも、この大鰐温泉もやしを活用したメニューが開発され、多くの国内外のファンでも人気という食材です。
そのもやしを、地元で見つけた場合、「どんな状態で販売しているか」をみています。僕はあくまでも「食の接点づくり」で判断しているので、このもやしの、地元での扱い方を気にしてみています。今回、弘前で購入したのは、弘前市内の小さな八百屋です。ものの見事な新鮮さで、購入する側も「欲しい」と思わせる理由が生まれます。消費者としては、「その店にわざわざ来る理由が欲しい」のはもちろん、商品の見せ方が、生産者から消費者までをつなぐ、とても大切なきっかけです。また、300円という値づけが素晴らしい。現在、大手スーパーのもやしの値段は安いものだと10円台、高くても40−50円ほどでしょうか。もちろん大鰐温泉もやしは、「豆もやし」のなかでも 「小八豆(こはちまめ)」 という大豆を使用しており、他の商品と異なりますが、その味わいは、青森ならではと思います。この商品の良さを、自分も感じられる、もしくは感じる人を増やしていきたいという思いが、重要な「リセットボタン」だと思っています。
次に、「一町田のセリ」です。一町田のセリは、独特の強い香りとシャキシャキとした食感が身上です。鍋物の他おひたしやみそ汁、漬け物などで食べますが、本領を発揮するのは実は「鍋焼きうどん」です(笑)
ちなみに実家では、このセリをごま油で軽く炒め、塩を少し振り、そのまま食べます。これがまたおいしい。この一町田のセリは、以前八百屋スタッフを青森に連れていき、その生産者のもとへ視察に行ったことがあります。そもそも「一町田」とは土地の名前、岩木町の一町田(いっちょうだ)地区に紐付き、昔からセリ産地として、地元では有名な場所です。『清水っこ(しみずっこ)』と呼ばれる清らかな湧き水が、気温にかかわらず一定の水温を保つため、この地域の田んぼは真冬でも凍ることがなく、昔からセリ栽培が行われていたのだと言います。このセリもまた、地元以外ではほとんど手に入らない。だからこそ、地元で食べたくなる食材です。
けれど、地元以外では、「一町田のセリ」ではなく「青森県産セリ」です。価値が変わります。値付けも変わりますし、東京—青森といった物流が発生すると、さらに価値は変容します。もっというと、地元の新鮮さを、できるだけ時間をかけずに食べるためには、その地元で食べるしか、その良さを味わうことができないのです。
先日、フーディスト(日々、料理や食を楽しみながら、ブログやInstagram、TwitterなどさまざまなSNSで積極的に発信をして活躍している方)で世界一を取られている浜田岳文さんが、「わざわざその食材を食べるために飛行機に乗り、食事を楽しむ為だけに行く人間にとっては、そのお店を選ぶ理由が欲しい」と話したことが印象的でした。飲食業に長くいる僕らにとっては「その理由を知りたいんですけど」と思いがちなのですが、見方を変えると「その理由づけができていないお店を運営していること」自体がヤバイと思わないといけない。これは生産者も一緒かもしれません。その土地で生まれたハーブや西洋野菜が欲しい、視察したい、そんな、日々ファンが訪れる理由を作る、きっかけを作ることが大切なのです。
新春、東京で地方へ副業、兼業される方に交通費の補助金が2020年度から一定額出るニュースを見ました。僕は、労働力のマッチングには、こうした生産者、飲食店を新たにサポートする仕組みとして、「関係人口」を作り上げる仕組みが必要だと思っています。生産者が高齢化しているのであれば、東京の人材が、収穫時期にお手伝いに行く、もしくはもっと収穫前から手伝いに行く、そうしたことが、あらたな農業に携わるきっかけを作るのではないでしょうか。
さて、最後に青森といえば「りんご」ですが、この一升瓶、1.8リットル、そして価格が620円!(僕は恐ろしく安いと思います!)けれど、瓶の種類が変わっていますが、中身の種類がわからない(表記なし)、1.8リットルで破格すぎる商品が、逆にもったいなさすぎです。大鰐温泉もやし、一町田のセリと同様、地元でしか味わえない、最高のリンゴジュースを僕は見てみたいです。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第82回
情報が溢れている時代だからこそ、情報を捨てる勇気。
2019年、今年は5月より「令和」という新しい年に生まれ変わり、いよいよ消費税10%という増税もスタートした。消費税10%、飲食店に限って言えば、「テイクアウト(持ち帰り)」と「イートイン(その場で飲食)」での軽減税率もあり、それに伴いメニューや、店舗の業態変更もみられた。さらに11〜12月の渋谷周辺の大規模開発商業施設のオープンと、あっという間に、2020年に突入しそうな「師走」である。
これだけ「新規開店」が多い一方で、2019年は、例年になく「閉店・倒産」の数字も軒並み上がっている。2019年の飲食店事業者の倒産は、11月までに668件発生し、既に前年(653件)を上回った。過去最多となっているのは2017年の707件であるが、2019年はこのままのペースで推移すると通年の倒産件数は728件前後となり、過去最多を更新する可能性が高い。消費者の節約志向は高まる一方で、外食を控えて中食や内食を選ぶ消費者が増加しているのは前述した通りだ。
そうした中、弊社では現在、飲食点経営者や料理長といった、世代でいえば40後半から50代前半、そして北海道から沖縄まで全国幅広く、地域活性化において活躍している事業者・キーマンをターゲットに、丸の内にて「食の学校」を運営させていただいている。その名も「丸の内 食・コトデザイン研究所」だ。
主宰は、大手ディベロッパーの三菱地所が仕掛け人。これからも5年、10年と中長期のスパンで、商業施設におけるオフィス以外の部分、特に「レストランフロア」においては、その商業施設に足をはこぶお客様、ひいては、その魅力作りに非常に敏感であり、次の一手を打ちたいという部分が、私たちもとても感慨深く、勉強になる試みの一つでもある。
この学校は、2019年7月から開講。月に一回、12月まで合計6回の講座は、大きく三つの構成となっており、「1、地方食材をどのように活用するかを考える試食会」「2、飲食業界のトップシェフ、ゲストを招いたトークセッション」「3、受講生とともに、飲食業界の質の向上を考えるグループワーク」を実施、おかげさまで、70名弱の受講者とともに、いまの飲食というワークスタイル(働き方)から、その飲食業界で働いていくための手法、これからのステップ、いま戦っている状況を、ガラス張りにして伝えることを実施させていただいた。
その中で、第6回、12月に実施されたトークセッションにおいて、「丸の内シェフズクラブ」のシェフのひとり、和食「分とく山」の野崎洋光総料理長が受講生に話された言葉が、まさに今の時期にぴったりなメッセージだと思う。
「みなさん、和食のことをどのくらい理解されていますか?なぜ、和食の基本は『だし』をとることからはじまるのでしょうか。どれもこれも「知識」の一部。『知らないことを言えない時代』だからこそ、その本質が見えなくなるのです。いま情報が溢れている時代だからこそ、情報を捨てる勇気をぜひ持ってください。」
***
僕は2008年から飲食の業界に足を踏み入れ、「飲食店の立ち上げ」に関する企画会社で修行をしていた。その時、現場で感じたのは「時代のスピード感」だった。100店舗展開、来週には5店舗オープンという、スピード命の「ベンチャー的飲食企業」と、それに反するように、何年、何十年と、その技術と実績で「老舗」と呼ばれる飲食企業と数多くみて、その土地、その時代、そのルールにしたがった様相をみてきた。
だからこそ、分とく山・野崎総料理長の言葉は、改めて聞くと、新鮮なメッセージだった。実績とノウハウは、若いだけでは培えない、もっと奥深く、時間が必要だということも。
特に、2019年のスピード感、いや「脱皮感」は、2020年に控えている東京オリンピックにむけてに、間違いない。東京オリンピックを潜り抜けた時、脱皮後の「進化」はどこに向かっているのだろうか。政治も変わり、ルールも進化し、そして、そこに働くスタッフもまた「脱皮」と「進化」を繰りかえす。その中で考えなければならない「情報を捨てる勇気」。
皆さんにとって、今捨てるものはなんですか。いまテレビで話題の「グランメゾン東京」が注目されているように、「まず目の前のお客様に対して最大限にサービス、料理を提供する」という主人公の台詞が一つのヒントかもしれない。
●丸の内 食・コトデザイン研究所 2020年1月より第2期が開催!
https://shoku-koto.jp/
●分とく山
https://waketoku.com/
●丸の内シェフズクラブ
http://shokumaru.jp/chefsclub/
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第81回
酒のあてを、スッとあてがう、ほろ酔い月島。
海外から国内と毎年秋冬は、まさに移動の季節。12月に入り「師走の季節」といわれているが、先日、出張で北海道に行った際にはすでに雪国。今年初のダウンジャケットをもち、首元までしっかり締めながら歩いた寒々しい北国から羽田に戻ると、そのダウンジャケットを脱ぎすて、今度は薄手の長袖で歩かねばならないほど暑い東京という場所は、忙しなくも、2020年オリンピックに向けて颯爽としている。季節は冬。秋があっという間に過ぎ去った。
そんな東京でも、少しの時間、「一服」したくなるような時間に、出会いたくなる。気の利いた友人から「月島駅から徒歩5分。ちょっと佃(つくだ)寄りだけど、友人が店を作ったのでぜひ!」と言われて、日暮れが早くなった17時、いつもより早い時間に、月島にむかった。「もんじゃ焼き」の街として知られ、日中は少し煙った香りがする月島。
友人がくれた地図を頼りに、そのもんじゃストリートを背中に、佃方向に足を向ける。とある高層マンションの裏手に、ひっそりと「ategatte(あてがって)」というお店を見つけた。11月初旬にできたばかりのお店だという。
お店の前にはオープンしたばかりの祝い花が。ガラス戸を引いてお店に入ると、「どうやって入れたんだろう?」と思うくらい、立派な木をかち割った、素晴らしい木目のカウンターにでくわす。僕もこういうカウンターは大好きだ。そのカウンターの中に、お客様の座った位置と同じ目線になるような低めのポジションにスタッフ男性2名がいる。なるほど、「飲食を知っている」。また、お店の雰囲気はbar(バー)のような感じで、特に、お店の造りが長細いということもあり、奥の壁は「鏡」で奥行きをだしていた。
先に来ていた友人は、入り口すぐのカウンターの端に座っていた。正面すぐのカウンターは、5−6名が座れるように、ぐるっと囲い込むようにカウンターの端が、四角いテーブルのようになっている。どうしても一直線のカウンターであれば、4名以上のお客さんは、それぞれ端どうしの人と話がしづらく、座り位置などを気にするものだ。けれど、このカウンターテーブル席は、そこをうまく使っていて、このbarのようなお店でも、十分「小料理屋」のように、常連がグループで来ても問題ない造りになっている。これもお店を運営し、飲食できちんとビジネスをしようという意気込みを感じた。
「酒、ツマミ(あて)を【あてがう】ことからお酒や、ツマミなどをあてがってほしい(提案する)ことから名付けました」。
酒の伝道師という肩書を持つ、店長の永友氏にお店の由来を聞いたときに話されたことだ。日本酒、ワインと、いろいろオーダーをだし、永友氏に「あてがってもらう」と、まさにコンシェルジュのように、うまい酒が出てくる。
「うまい酒」は、お店の店員に勧められたときに、実力がわかる。これは、久しぶりにほろ酔いになりそうだ。
宴席も中盤。ふと提供された鮮やかな「馬刺し」に目を見張った。赤身と脂身を合わせながら食べると、辛口の日本酒がぴったりだ。他メニューも季節に応じて、お客様の飲み物に応じてあてがわれる。友人はおもわずもう一皿注文した。もちろん、それにあわせてスッとサワー系のドリンクがあてがわれる。僕は永友氏が「バーテンダー」に見えた。
聞くところによると、永友氏は、天王洲アイルにある、某有名クラフトビール屋で働いていた強者で、今回、物件を探しに探して見つけたとのこと。夜に訪れた店だが、普段であれば、住宅の入り口のような物件だけど、そのなかで、世界観がきちんと入り込んだお店になっていて、好感がもてる。僕も、自宅周辺でしっぽり飲むときはたいてい、門前仲町だったが、築地・勝どきからも程近い月島で美味しいお酒とつまみを「あてがう」ことができるお店が新しくできたのは嬉しい。
ぜひ「ategatte」を探してみてください。たまに僕も「あてがって」います。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp