Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第10回
今年の新物は「新あずき」で決まり!
師走とともに、秋の収穫を祝う事柄も多くなります。
その最もたるものが「ボジョレー・ヌーボー」。フランスで始まったこの新酒を飲む習慣は、瞬く間に世界に広がり、11月の第3木曜日の解禁日になると、今年も美味しいワインを飲もうと、マーケットは華やぐ。一時期の賑わいよりも熱は下がったが、新物といえばこの話です。その他、「新米」「新(日本)酒」など、日本も穀物や果物に由来する、こうした催しや歳時記を目にする機会が増えました。
そんな師走の中、福島・郡山で始まったのが、「新あずきをつかったお饅頭」の販売だ。嘉永3年創業、今年165周年、郡山の銘菓「柏屋」の「薄皮饅頭」がそれにあたる。
柏屋の薄皮饅頭が、「新あずき」を銘打ったのが2015年の昨年12月。それまでも、もちろん北海道十勝産の新物あずきを使っていたが、「新あずきを使った新物まんじゅう」をお客さんに明確にアピールすることはなかった。いつもこの時期になれば、小豆が変わり、胴鉢で煮込まれる小豆が、アンコとなり、代々伝わる「薄皮饅頭」としてお客さんの口に届けていた。
しかし、お饅頭は、ケーキと違って、歳時記があるわけではないし、旬ものとはまた異なる。あくまでもお土産として考えられていたが、ふと「新あずき」をアピールしようと考えた、5代目本名善兵衛社長は、パッケージから何から、12月の新あずきが出た時からガラッと変更して販売を開始。それまで同じ時期に販売していた「薄皮饅頭」の売り上げが前年比を大きく超える成果をだしたのだ。
広い和菓子業界でも、なかなか「新あずき」と銘打ってアピールすることはほとんどない。むしろ「当たり前」ということで見過ごすところを、原点回帰し、価値につなげた好例といえるだろう。
柏屋はさらに、「日本三大まんじゅう」の一つであり、東京の塩瀬総本家の「志ほせ饅頭」、岡山の大手饅頭伊部屋の「大手まんぢゅう」と並び称され、最近注目のお饅頭屋さんである。先日も日本橋三越本店で行われた催事では、3社が勢揃いし、お客様を楽しませたのは他でもない。
足下を掘れ、そこには泉がある。
その昔、ニーチェが言ったその言葉にまさにあたることではあるが、お饅頭の価値を見出そうという企業の志もさることながら、「当たり前の中に気づく本当の価値」が、これからの地方の食における究極のヒントである。
僕はもともと、こし餡のファンだが、この「新あずき」の時だけは、「つぶ餡」ファンになろうと心に決めた。
●柏屋 薄皮饅頭
http://www.usukawa.co.jp/
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp
Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第9回
情熱の赤、白河のルバーブ
師走に入った。今月も多くの土地を巡る旅を続けています。
おかげさまでこの連載を始めてから、多くの土地に呼ばれるかのように、出向くことができ、その全てが新しい出会いばかりで、僕自身非常に勉強になっています。
師走なのに、非常に真っ青な青空に恵まれた、東北、福島は西郷(にしごう)村に足を運ぶ。
訪れたのは、「ルバーブの島田農園」だ。40年前からルバーブの株を、ひょんなことから受け継ぎ、畑で育て始めて、7年前からは、とあるECショップの販売をきっかけに、かれこれ300坪の広さまで耕し、生育をしている。その頃から本格的に、完全無農薬、鶏糞を使った肥料をつかって育てているのも特徴的だ。
土の肥沃さも確かで、手の行き届いた状況。これを、島田弘美さんと、お父様の廣行さんの二人でやっているということが驚きだ。いまでは年に3トンほど生育し、そのうち1トンの生果は、東京・表参道「ファーマーズ・マーケット@UNU」で販売されるというからにはすごい。
そんな島田さんの思いは、「40年自宅で育てられたルバーブを、たくさんの人に食べてもらって、広めたいこと」である。
僕らの仕事で多いのは「認知を広げること」。先日ご紹介した「日本パイ倶楽部」も、それを体現する一つの活動でもある。とはいえ、広告のような認知を取るのではなく、あくまでも「価値を共感、共有できる」というところに重きを置いている。
だから島田さんの思いは、「ルバーブ好きが転じて認知につなげる活動」にして始めて広がる。販売はその後付いてくるはずだ。どうしても小規模事業の場合、予算が限られて、商品開発に予算を回しがちだが、小規模の場合は特に、「認知をいかに取るか」ということが大事になってくる。
島田さんは、ルバーブを愛する人だからこそ、ルバーブを広げる活動ができる。これはルバーブを愛する人でなくてはできないこと。この思いが、島田さんの情熱を示す赤色のルバーブとして伝わるはずだ。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第8回
ミニ庄内柿×ミニャルディーズ 小さい秋、見つけました。
「小さい秋、小さい秋、小さい秋みーつけた・・」という童謡を歌うかの様に、小さい秋を見つけました。
それがこの「庄内柿」のミニです。手のひらに4個も乗るくらい小さい。
こんなミニ庄内柿を扱っているのが、山形が産んだ「柿オタク」金三郎18代目、五十嵐大輔さんだ。
まさに柿のために生まれてきたんじゃないかと思えるくらいの柿オタク。柿について語らせたら、2時間でも3時間でもずっと話をしている。
そもそも柿自体は、幾千もの種類があり、だれが親で子なのかということも分かり難いくらい。一般的なものとして「富有柿」「平核無柿」がある。
また柿は、日本原産の果物で、「KAKI(カキ)」の名前で世界に流通している。なにより栄養価が高く、他の果物には少ないビタミンAや、みかんの2倍と言われているビタミンCも豊富。ただ、「渋柿」と評されるほど、渋みも多く、この渋を抜いて食べるのがポイントだ。
そんな五十嵐さんがこのミニ庄内柿と出会ったきっかけは、まさに「偶然の産物」。
主に、商売用に柿を生産している五十嵐さんは、柿の木を増やすために、「接木」と呼ばれる方法を取っている。その「突然変異」で生まれたのがこのミニ庄内柿だ。
普段の柿であれば、摘果(わざと果実を間引く手法)して、調整するのだが、このミニ庄内柿は、まさに鈴なりにたくさん育てる。そして丹念に渋を、ヘタに焼酎をつけて変化させることで、あの甘い柿に転化させるのだ。(どうやら「渋を抜く」という表現は異なるらしい)
そんな「ミニ庄内柿」に興味を持ってくれたのが、これまた「一粒のお菓子」で、2016年スイーツ業界に旋風を起こした「UNGRAIN(アングラン)」の若きシェフ、金井史章(かないふみゆき)だ。「ミニャルディーズ」という一つまみサイズのお菓子を展開しており、お土産、お持たせで大変人気のパティスリーである。
http://www.ungrain.tokyo/
そのUNGRAIN(アングラン)が月に3日だけ実施する「シェフズテーブル」という催しで、これまた金井シェフの右腕、スーシェフの昆布氏(こんぶさん、というのはこれまた珍しいが)が、ミニ庄内柿を、これまた凝縮されたお菓子の世界に封じ込めた。
砂糖を一切使わず、少しのコアントローというリキュールと、真空冷凍したミニ庄内柿を、解凍してソースにしたものに、さらにオレンジ果汁とオレンジの果皮に一晩マリネした柿をいれたものを合わせたスイーツにした。
※左から金井シェフ、五十嵐さん、昆布スーシェフ
残念ながら、このシェフズテーブルが人気すぎて、予約叶わず食べることができなかったが、ちょうど東京に訪れていた五十嵐さんと、金井シェフ、昆布スーシェフを引き合わせることができた。
ぼくの仕事は、日本全国津々浦々見てきたものを、さらに付加価値をつけて世に送る、料理人やパティシエの存在を大事にしていくことである。食に関わる仕事は本当に多い。ぼくがやっていることは微々たることかもしれない。けれど、小さな商いほど、飽きないし、継続ができる。それを少しでも多く活動を広げたり、回したりすることで成り立つものが生まれる。
そうした「小さな商い」がいま、食周辺で必要な活動である。作ることも大切だが、まず食べること。そしてそれをつなげて、やがていろんな人に食べてもらうこと。
そうした「食物連鎖」を生み出すのがFoodnia Japanだ。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第7回
鯉こがれて六十里。米沢鯉を食す。
「僕らは感じたことはないんですけどね」と岩倉社長。そう、店内に入ると、ふわっと甘い醤油の香りが、かおる。
この古民家は、山形県米沢市にある老舗「米沢鯉六十里」。
昭和23年に市内に鯉屋を創業、その後、鯉の養魚場を設けて、現在のお店が経営されている。紐解くと、ここ山形県米沢の鯉は、かの藩士、「上杉鷹山」が水産資源が乏しいこの内陸の地、その米沢に福島県相馬より鯉の稚魚をとりよせ、米沢城のお堀で育てたのが始まりと言われています。
雪深い土地が産み出す清流は、川魚独特の泥臭さを消し、「米沢鯉」としてブランド食材になるほど、有名。現在地元もさることながら、都内大手百貨店でも流通し、贈答用商品になるなど、ニーズがあります。
お店の横には池があり、養魚場から運んできて放しながら、使う分だけをそこから取り出すというもの。活きもよく、早速だがいただくことにした。
今回は「鯉づくし」ということで、「鯉の刺身」「鯉のうま煮」「こいこく」「鯉の蒲焼」をいただくことに。
「鯉の刺身」は筋張った感じではあるが、海魚にあるような脂っこさはなく、あっさりしていて、それは、「うま煮」「蒲焼」にも見られる。特に「蒲焼」はそれこそ、うなぎの脂っこさが得意ではない人にとっては、さっぱり食べられる「うなぎの蒲焼」のような味わい。地元の醤油屋や食材を使った秘伝のタレが使われた「うま煮」は、「甘しょっぱい」味わいと、冒頭の「甘い香り」を感じる一品だ。
そして、「こいこく」は、鯉料理では定番だ。輪切りにされた鯉を、味噌汁で似た味噌煮込み料理である。煮込まれた鯉の身は、どことなくタラのような白身魚に近い。味噌の塩梅は、それこそ地元によって異なるので、先日埼玉は浦和で食べたものとは別物だ(浦和もまた鯉料理が盛んだ)。
そんな鯉料理を守り、新たな料理法、加工法をチャレンジしている岩倉社長をいま継続的に応援している。なかなか日常生活では食べることがない鯉ではあるが、地元の米沢だと、「お祝い」「正月」では必ず食べると言っていいほどの縁起物であり、地元で愛されている食の一つだ。
最近では、山形の料理人、アル・ケッチァーノの奥田政行シェフが、鯉の骨をつかった商品開発や、地元出身の料理研究家が、カレーライスを提案したりなど新しい試みにつなげようとしている。
古くからある食材とその活かし方。時代が進めば、味覚の変化や食べ方も変わってくる。
「鯉と言うと敬遠される」と岩倉社長。しかし鯉だからこそ出せる味がある。「鯉に焦がれて六十里」ではないが、山形は米沢に足を運ぶ機会があれば、米沢牛ももちろんだが、鯉を食するのもありだ。それだけの商品価値がここにはある。
http://www.yonezawa-koi.com/
松田龍太郎
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第6回
嫉妬したくなる、京都生まれの限定アップルパイ
みなさんは、百貨店の「デパ地下」に行く機会はありますか。
特に東京の百貨店の食品売り場は、僕にとっては「情報の坩堝(るつぼ)」のようなもので、「何が流行し、消費者が何を気にしているのか」が手に取るようにわかります。そこは、ニッチなものもあれば、誰でも聞いたことがあるようなブランドや商品もたくさんあります。そうした商品に感度を保ちながら仕入れてくる「バイヤー」と、それを販売する「売り場」の連携があってこそです。
先日、日本橋三越さんに行ってきました。僕のお目当ては、週に1度、数個しか販売しない、こちらのアップルパイ。京都は「足立音衛門」が製造している青森県産のりんごをふんだんに使ったプレミアムパイです。
「足立音衛門」は、栗を使ったお菓子で有名で、ちょうどこの時期、「栗のテリーヌ」という、これまた甘党好きには、もってこいの商品が出てきますが、同じ時期に隠れたヒットを飛ばしているのがこのアップルパイです。
http://www.otoemon.com/
実は何を隠そう、私、「一般社団法人日本パイ倶楽部」の代表理事であり、国内外に「パイの良さをお伝えする」活動を行なっております!その中でも「アップルパイ」は私の故郷青森県弘前市でも「アップルパイガイド」というものが作られるくらい、アップルパイ推しです(笑)
http://www.pie-japan.com/
ただ、、、その中でもクオリティーを持って、青森県人が「なんでこんなアップルパイがないんだ!」って叫びたくなるかつ嫉妬したくなるような美味しさを放っているのが、この足立音衛門さんのアップルパイなのです。
開くとやや小さめのポーションですが、こんがりと焼きあがったフォルムと「ガレット・デ・ロワ」を彷彿する作りはワクワク感があります。
ざくっと真っ二つにわると、りんご果汁をつかって丁寧にシロップで煮立てたりんごがたっぷり入っております。また特筆するのがパイ生地の香ばしさです。ふわっとバターの香りに包まれて、りんごの甘さとともに、「口福感」が広がります。
この時期、僕にとってもお気に入りの一品です。その商品、ネットでも買える!みたいなので、ぜひ気になった方はいかがでしょうか。
http://www.otoemon.com/item/945.html
ちなみに、11月15日まで、京都大丸のデパ地下で、日本パイ倶楽部のパイの催事が開かれております。
全国のパイを集めた商品たちが揃います。関西の方はぜひそちらにも足を運んでみてください。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp
Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第5回
近江商人の息遣いを感じるお菓子の国。たねやの大胆作戦。
今日お話しするのは、一番大きな湖「琵琶湖」が美しい、滋賀県。
実は、僕自身「日本で行ったことがない県」の上位ランクでもあるのですが(笑)、少し縁があり、最近行き始めております。
先日ちょうど彦根市を訪れたところ、彦根城はライトアップされ、NHK大河ドラマ「真田丸」の視聴率が好調、地元の武将でもある「石田三成」の展示が行われておりました。石田三成のお城は、彦根城近くの「佐和山(さわやま)城」。すでにお城は跡形もなく、その一部が彦根城に移築されたと聞きましたが、彦根市は城下町として風情よく、街並みもコントロールされ、非常に心地よい町でした。
そんな彦根市から車で30分。今回の目的は、近江八幡にある、「ラ・コリーナ近江八幡」です。ここは、和・洋菓子を展開している「たねや」さんの新たな拠点です。
http://taneya.jp/la_collina/
この施設は、「周囲の水郷や緑を活かした美しい原風景の中での、人と自然がふれあう空間づくり。和・洋菓子を総合した店舗および飲食施設や各専門ショップ、農園、本社施設、従業員対象の保育施設などを設けるたねやグループの新たな拠点(以上たねやホームページより)」と位置づけられ、今年の7月に本社社屋も完成し、さらに計画が進められています。
一つ一つのディテールが考えられ、この近江八幡に足を運ぶ人たちを魅了しています。建築は、日本の建築史家で、東大名誉教授でもある藤森照信氏。彼の起こした図面やスケッチを見る機会がありましたが、人の身長や作業で考えられる高さや導線設計がきちんと見ることができ、単に「デザイン先行」ではなく、一方で、周囲環境に馴染ませた結果がこの風景なんだと感じることができました。
地方の魅力を掘り下げた時に、そこで生まれるもの、存在するものをどうやって輝かせるかがポイントになります。もちろん建築やデザインも、おおきに目立たせることができる「サイン(=記号)」でありますし、生産者や事業者が行う活動をさらに活性化させる力を持っております。
一方で、デザインに頼りすぎ、商品力が行き届いていないものもありますし、その逆、商品力は抜群だけれども、どうもデザイン含めてイマイチというものも散見されます。
そんな中、たねやさんの「ラ・コリーナ近江八幡」での取り組みは、こうした目を見張るデザインもさることながら、自社商品である「お菓子」に対して、「楽しさ」「喜び」「甘さ」「雰囲気」を崩さずに、お客様に十分、空間を含めた体験価値を提供しているところです。そこにはウンチクもあるわけでもなく、「お客様への接し方」を細かくデザインにも反映され、表現されていることに感動しました。よく見ると、いろんな方がサポートしています。
http://taneya.jp/la_collina/about.html
また、「たねや」さんは、和菓子だけではなく、「クラブ・ハリエ」というバームクーヘンが主な洋菓子も展開、爆発的な売り上げを誇っておりますが、もちろんここまで来ることに苦労も絶えなかったと聞いております。並大抵なものではなく、亜流やパクリができるような代物ではないことは確かですが、一つ真似ができるとすれば「お菓子を楽しみにしているお客様のイメージを損なわないこと」かもしれません。
昔、商店街にあった、作り手が見えるお菓子屋さん。お客さんの声がはっきり聞こえる店づくり。そんな当たり前の風景を、デザインとともに昇華し、そこに真摯に取り組み、働いている人たちの環境とお客様の接点を近づけたことが、たねやの次の世代に送るメッセージなのかもしれません。オフィスも見させていただきましたが、東京のクリエイティブオフィスとなんら遜色のない空間づくりと働き方にもこちらも感動しました。大きな作り庭と、奥の小さな隙間のようなドアが、会社の入り口です(笑)
「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」。
まさに近江商人の心得どおりの、たねやさんの経営戦略を垣間見た滋賀でした。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第4回
耕作放棄地から始まった、tettaのワインドリーム。夢を支えるコミュニティの存在。
さて秋フルーツの主役といえば、私の出身県青森の特産「りんご」をはじめ、「みかん」「梨」「柿」「ぶどう」です。その中でも、今回は「ぶどう」の話。
岡山県の北部、鳥取と島根の県境ちかくに新見市哲多という場所があります。岡山市内から車で2時間。標高400m、中国山地に囲まれた土地には現在、3500本のぶどう畑が広がっています。
畑を所有しているのは、ぶどう栽培とワイン販売を手がける「tetta(てった)」だ。そんなtettaを訪問する機会を得た。
このぶどう畑を経営しているのが高橋竜太さん。地元の建設会社を経営していたが、2005年、耕作放棄地になったこのぶどう畑の存在を知ることに。
農業に関心を持っていた高橋さんは、その土壌を調べてみると、石灰岩と赤土が混じった水はけの良い土壌で、フランスのワインの名産地、ブルゴーニューと似ていることに気づく。
しかも寒暖の差が大きいこの土地は、まさにワイン向きという確証を得て、2009年に、畑を前の所有者からこの土地を借りたところから物語はスタートする。
http://tetta.jp/
先日、岡山県出身の著名なインテリアデザイナー片山正通(まさみち)氏がデザインしたワイナリーが竣工し、いよいよ念願の自社醸造が始まろうとしている。
スタッフも日夜、醸造の準備に大忙し。これからセンシティブな調整と並行して、今年のワインの出荷にと、息をつく暇もない。それでも、すでにtettaでは、どんどん注文予約が入り、このままでは来春ですべて完売、地元でも飲めないかもしれない恐れがあるので、調整を図っているとのこと。
この岡山の小さな街のワイナリーが話題になっているのは、昨今の日本産のワインブームもさることながら、「その志を支えたい」というファンが多いということだ。そのファンをうみ、育てる仕組みが「クラブテッタ」というファンクラブだ。先日も「星空ワイン会」なるものが開かれ、今年出荷されたばかりのワインと食事が振舞われるイベントが行われたばかり。
一方、その食事を提供していた岡山県倉敷イタリアンレストラン「トラットリアはしまや(http://www.t-hashimaya.com/)」さんは、「チームテッタ」の一人。またイベントを手伝ってくれるスタッフも、岡山市内の飲食店の皆さん。なかにはわざわざ東京から手伝いに来ているソムリエもいるという。そうしたtettaファンの一人一人が、tettaに「投資」をしている。
ちなみに「クラブ」はオーナー会員制でいわゆるクラウドファンディングのように、お金を投資し、その見返りとしてワインやぶどうの木のオーナーになるというもの。
また、「チーム」は、こうしたオーナー制度とは別で、純粋にtettaを応援するチームで、こうしたイベントなどにボランタリーとして参加したり、ともに地域を盛り上げようと頑張っている人たちのことを指す。
この「投資」こそが、地域の生産者を支え、挑戦する人へのメッセージだと思う。ちなみに、tettaでは、そんなワイン造りを一緒にやりたい人を募集中だ。
まずその風景を残したいと高橋さんが動いた。その高橋さん、tettaのメンバーのぶどうとワイン造りの志を支えるために、コミュニティが生まれた。「食」と「地域」と「コミュニティ」の新しい「食物連鎖」は、食(職)を生み出さそうと頑張っている地域の仕組みである。
その昔、村があり、街ができ、そして都市が生まれた。いま行政サービスの都合で、統廃合が繰り返されているが、むしろ生態系としては、どんどん小さな村のような組織、コミュニティが、なによりコンパクトで、「心地いい」。場所に紐づかれるのではなく、「志」に紐づかれて、地域は形成される。
食の国日本は、小さなコミュニティから、宝が生まれていく。そんな小さなコミュニティを応援していきたいと思う。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第3回
離島にこそ、宝あり。食材の宝島、喜界島。
この10月より、大手通信会社KDDI さんと鹿児島県喜界島町、喜界町商工会そしてNPO 法人離島経済新聞社が、離島の地域活性化をめざす「しまものプロジェクト」がスタートしたのはご存知でしょうか?
http://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2016/10/12/2081.html
もともと日本は島国ですが、日本の領土と言われる島は、6852(!)島で成立しております。
これを国土交通省は「本土(本州、北海道、九州、四国、沖縄本島の5島のみ)」と「離島(残り全て)」と分けており、喜界島は、「離島」に属していると言えます。
島は豊かな自然と風土、そして文化が色濃く残る特性がある一方で、海に囲まれていることから、交通の便はもとより、流通が弱いこと、IT が発達しているとはいえ、情報発信がまだまだ弱いというのが課題になっております。
そんな中、離島経済新聞社(http://ritokei.com/)という、離島にスポットを当てたメディアがあるのですが、そことKDDI さんが中心となって作ったのがこのプロジェクトです。
今回は、主に食を中心とした喜界島の生産者をはじめとする事業者さんに向けて、販路拡大や商品PR の課題について、その基礎ややり方を学ぶ「しまものラボ」の講師として、人生国内最南端(実はお恥ずかしながら、鹿児島以南はまだ未開の地だったのです・・。)、「喜界島」を訪問するチャンスをいただきました。
実際に講義のほか、喜界島を見学して歩きましたが、驚いたことに「どこまでいってもサトウキビ畑!」ということです。ちょうどサトウキビの背丈も大きく、収穫もこれからというところ、私の身長よりも高く、これが黒糖や砂糖へと変わっていくさまは、本当に楽しみです。
「日本の美しい村」として認定された喜界島。集落の軒先では「島みかん」が、そしてちょうど収穫を終えて色づき始めた「島バナナ」など、この土地ならではのフルーツがふんだんに生っていました。
海外のフルーツには負けない風味と味わい、そして糖度と旨味を感じることができ、まさに、この魅力をどうやって伝えて行くべきか、そしてどうやったらこの美味しさをみなさんにお届けできるか、と私も、八百屋のはしくれでございますので、いずれこの島々の「魅力」をお届けできるようになればと思っています。
喜界島は、フルーツでもさることながら、「胡麻(ごま)」も盛んな地域です。白ごまの生産量は日本一。まさに最盛期を迎えております。島のいたるところでは、ゴマの収穫作業、そしてあちこちでゴマの天日干しが行われることから「セサミストリート(ゴマ街道)」と言われるほどです。
まさに食材の宝島です。離島にはまだまだ魅力的な食材、そして風土、文化があります。もちろん食べて地域に還元したり、支える活動もとても大事ですが、それはあくまでも「都会」「消費地」の発想。最近では、仕事の価値観も変わり、離島でも十分に仕事ができる環境もできつつあります。
生産者にならずとも、生産者を支える仕事を離島で作ることも、食産業においては重要なことだと思います。
日本の食は、奥が深い。魅力的な、食の国です。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
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Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第2回
秘境奥島根弥栄。米の国日本、海外への挑戦。
この時期の地方出張では、移動の大半を車で回ることが多いのですが、
その風景のほとんどが、田んぼです。
稲穂の頭(こうべ)が垂れ、お米の収穫がはじまりとともに、
秋の様相が見えるのが、日本の秋の風物詩です。
こうしてみると、本当に多くの地域でお米が作られていることがわかります。
ちなみに国内のお米の生産量は800万トンですが、ほぼ国内消費です。
いまどのこの地域でも、たとえば、青森県の「青天の霹靂 せいてんのへきれき」、新潟の「新之助 しんのすけ」など新種を始めとする「新米」の進出、コシヒカリやササニシキといった定番商品もあり、食べ手である僕たちは、何を選べば良いのかという贅沢な悩みが生まれますね。
そんななか、各地域で起きているのが、「お米のブランディング」です。
私もお米のブランディングにおいて、いま島根県浜田市弥栄という自治区で
今年生まれた「秘境奥島根弥栄」というお米に携わっています。
10月1日に販売を開始し、地元のほかに、東京目黒区にある「スズノブ」さんというお米専門店、また私が経営している東京・神楽坂「八百屋瑞花」でも置かせていただくことになりました。特にスズノブ西島さんには、このお米の開発当初から関わっていただき、このお米の特徴をとらえて、どんな料理、どんな食べ方まで提案いただいております。こちらの詳しい情報は下記のURLにて御覧ください。
URL:http://okushimane.jp/nishijima/
もちろんお米は美味しい方がいいに決まっています。それは野菜もそう。けれども地域を救うには、キチンとした雇用をもたらし、次世代につないでいくことです。それはお米の味やパッケージデザインではなく、「地域づくり」 であり、食業プロデューサーの仕事です。
これからお米を作る農家さんが減ることは確実です。ただ、弥栄のような、「手つかずの土地(=秘境)」は日本として海外から再評価されることは大いにあります。海外から水を買い付けにくる外国人もいるくらいです。わたしたちは「人口減」「雇用減」「後継者不足」と目の前の問題がどうしても見えてきますが、もう少し先、10年、20年先の地球、日本、という捉え方を始めなければなりません。
弥栄で起きる、お米や野菜で始まる地域づくり。
こうした活動をいま私は、日本各地で始めています。
今後もぜひレポートしていきますね。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp
Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第1回
知られざる日本の食。食業プロデューサーがめぐる食の国日本レポート
わたしたち日本には誇れる土地と風景があります。
その土地を巡り、そこで出合う人、
食材や食べものを紹介していく連載を始めることになりました。
私の仕事は、「食業プロデューサー」です。
食生活に関わること、それは、農産物や料理だけではなく、
そこにまつわる、例えば食器や家具、プロモーションから製造工程まで幅広く
見つけ、育て、伝えていく仕事をしています。
こうした活動をすることになったのは、
私が、過去に報道カメラマンの仕事をしていたことがきっかけです。
まだまだ知らない土地や人、食材、食べ物の情報があります。
一方で、バレンタインやお歳暮のように、毎年たくさんの情報が世間に溢れかえります。
けれども、本当にみなさんが欲しい情報が必ずしも届いているでしょうか?
安心、安全、誰が作っていて、どんな商品になるのか。
そうした情報を扱い、ただ伝えるのではなく、共感として「伝わっていく」ことを私は大切にしています。
なにより食は、私たちの体や健康を作る源ですから、
切っても切れない関係です。
だからこそもっと知りたいし、専門的な知識はなくとも、
すこしでも知ることで、世の中の食のことがもっと身近になり、
少なくとも、自分の口に入るものが変わってくるはずです。
今回の連載では、まだまだしらない日本各地の食材をメインに、
皆様にお届けできればと思っています。
松田龍太郎
2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp