和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第39回

[美味しいものを届ける努力。]

11月、紅葉も終盤、まさに「凍(しば)れる」ような季節になりはじめました。そんななか、私たちが運営している「神楽坂 八百屋瑞花(すいか)」では、全国各地の農家さんから、露地物(主に屋外で育てられたもの)で自然栽培、有機栽培のものを中心に、野菜や果物を仕入れされていただいており、月に一度、その取引先の農家さんを巡る「ご挨拶出張」を執り行っています。

先日も、群馬の農家、埼玉の醸造場(味噌、醤油など)など関東近郊を巡りつつ、今月は私の実家がある青森県を一泊二日の強行軍で、三八地方(「三沢」「八戸」の地域のことを総じて「さんぱち」と呼ぶ)、そして津軽地方(主に弘前を中心とした津軽平野の地域を総じて「つがる」と呼ぶ)を回る旅に出ました。

まずは、三八地方では2つの農家、土嶺さんと赤石さんです。土嶺さんは、「長ネギ」の農家さんです。主に青森県内で流通させていますが、たまに東京のマルシェなどにも出店されていて、非常に元気なネギを育てています。(とはいえこの時期の長ネギは、この地域ではほぼ終盤。今年は全国的に品薄で高騰の兆し。)元気の証が、このどろっとした透明な液体。ネギから出てくる水分が粘質を持って、主に葉先の濃い緑の部分にたまるのですが、これがネギ自体がミネラル豊富な証拠です。

次に赤石さん。彼は、元々は弊社のスタッフだった人間です。新規就農を経て、自然栽培のハーブ農家になりました。CONSE(コンセ)という屋号です。今では、県内はおろか、東京のレストランからもお声がかかるほどの人気。

彼の農場は、一定の温度を保つために、ハウス栽培となっていますが、土も食べられるほど健康な農場。また三八地方は、津軽地方と比べて積雪も少なく、日照時間も長いため、ハーブを育てやすい環境とも言われています。管理している2つのハウスはおおよそ100メートルほど。その中を往復すると、この季節でも20-30種類のハーブやエディブルフラワーをみながら、 試食体験することができました(一般のお客様はできません)。同行した八百屋スタッフもその「エグ味」「甘み」「苦味」などを体験し、味覚が刺激されていました(笑)。

こうした30台前半の若い農家たちが、全国各地におり、自分たちのこだわりを産物に与えていこうという気構えがあり、共感できます。彼らの食材は、私たちの八百屋瑞花でもスポットで入る可能性がありますが、まだまだ「スターティングメンバー」にはいってきません。

その八百屋のスターティングメンバーとして頑張っているのが、津軽地方にいるお三方です。

まずは、ぶどうとセリの農家である伊東竜太さん。伊東さんは神奈川出身。大学時代を弘前ですごし、その後そのままIターンで弘前に移住。現在は、スチューベンと呼ばれるぶどうを主品目に、栽培をしています。また彼が農地を持っている地域は「一町田(いっちょうだ)」と呼ばれる地域で、津軽地方でも岩木山(いわきさん)の麓にあり、水が清らかで豊富。その地の利を生かした「セリ」の名産地でもあります。

そのセリを地元の農家さんと共同で管理しており、私たちの八百屋にも届けてくださっています。まずなにより、彼の農園は「綺麗」です。行き届いた管理状態と、そこで育った産物の「生きの良さ」が特徴的で、私たちも自信を持ってお出しすることができる商品を作っています。特に今年のスチューベンは、出来が良い。生で食べても良いし、彼が特に力を入れている「100%ジュース」は、全国でも秀逸の一品です。

次に、りんご農家「あっぷりんご園」の水木たけるさん。彼の、りんごにかける思い、もちろんりんごの状態もさることながら、「どうしたらマーケットで受けるか」をきちんと考えられている人です。そのために、わざわざ管理が難しい、完熟に近い状態でマーケットに出すため深夜早朝と、収穫から手入れまでに時間を割いています。この努力はいつもFacebookでも拝見しておりますが、いつも感心します。彼のりんご、そしてこちらもジュースを八百屋瑞花でも取り扱わせていただいております。

また彼は加工品などの「りんごの付加価値づくり」にも力を入れております。いまとあるミシュラン二つ星のフレンチレストランと共同で、商品開発を進めております。私が彼の紅玉をシェフに進めたところ、気に入っていただき、今に至ります。本当に良いものは、一般のお客さんもさることながら、飲食店などで付加価値をつけようとするオーナーさんやシェフ、パティシエには必要であり、彼らはそれを探すために日夜力を入れております。

八百屋瑞花は飲食店卸販売を基本実施しておりませんが、問い合わせがあれば、全国各地から良いものをご提案すべく、準備はできています。(実際にパティスリーやレストランでの需要も多く、小口ですが実施しています)

そして、八百屋瑞花には欠かせない農家、あおもり健康村の成田陽一さんです。八百屋瑞花創業主でもある矢嶋文子が独立する際に、「この人の野菜を是非仕入れたい!」とわざわざ仕入れた農家さんです。

成田さんは自然栽培の農家さんで都心の百貨店にも取引がある、小規模ながらも非常に卓越した技法と栽培を実施されています。特に、葉物、根菜などの味わいは秀逸で、八百屋でもリピーターが続出している人気商品です。

この時期は「赤カブ」「ビーツ」「インゲン」「長ネギ」などがメインで、まもなく雪が降ると来春まで収穫が終了という段階でしたが、ギリギリの段階で畑を視察することができ、私たちも成田さんのこだわり、作っている様子を改めてみることができ、人気の理由を改めて感じることができました。

飛び込みでお店に直接来られて野菜を持ち込まれることもしばしばあるのですが、できるだけ農地を実際に「見て」そして「食べて」という作業があって始めて、きちんと取引することにしています。消費者と生産者を結ぶハブとしての八百屋ですので、お互いのニーズや要望、説明をきちんと把握した上で「美味しさのコツ」を伝えられるように努力しております。(なので、何でもかんでも仕入れることはできません。良いものだからこそ、自信を持って販売したという自負があります。)

いま来春に向けてチャレンジすることがあるので、農家巡りをふくめて八百屋スタッフともども全国各地を飛び回っております。食のスタンダードをあげていくことが私たちの使命なので、皆様の食卓に届くまでの手間を惜しまず、チャレンジしてまいります!

八百屋瑞花:http://www.suika.me

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp