和食STYLE

食の国日本〝食〟プロデューサー 松田龍太郎ブログ

Foodnia Japan 食の国 日本 連載 第34回

「Tree to Bar」 大手食品メーカーが挑む、『お客様に届けつづける誠意』

9月初旬。以前もこのブログでお伝えした明治さんからのお誘いで、急遽ベトナムへ。僕自身、先日の大分や利尻島に続き、これまたはじめての場所。

空港に着くと、南国特有の暑さと湿気が漂う。

今回のツアーは、明治が現在取り組んでいるチョコレートの原材料「カカオ」の実験農園を視察するというものであった。僕自身、チョコレートの成り立ちについては、情報として知っている程度だったので、実際にカカオがどんな状態で育ち、収穫され、それがどんな工程を経て、チョコレートになるのかを現場でみたかった。

またアジアにおいてカカオを生産している国自体はまだまだ少なく、日本に入ってくる数量も少ない。一方で、いわゆるカカオの産地である中南米の政情不安もあり、輸入や現地での調達状況も最近芳しくないと聞く中で、「アジアのカカオ」は非常に興味があった。

ホーチミンから平坦な道のりを車で移動して1時間半。鬱蒼とした木々の中に、そのカカオ農園があった。ちょうど、明治の実験農園の開設式と重なり、村の人たちも多く集まっていた。

さっそく薄暗い木々の間を通り、カカオ農園に近づくと、木の幹に天に向かって突き出したように生えるカカオを見つける。少し赤紫のような発色の良いカカオ、まだ十分に色づきが終わっていない緑のもの、また種類が異なり黄色がかっているものなど大きさはまちまちではあるが、カカオが花の状態から実を結び、こうした大きさになるのは新鮮。

さっそく身を割ってみると、先日明治本社でみたような、果実のような実が中から出てくる。かじると実自体は落花生、コーティングされた周りの白っぽいところは、グレープフルーツのような酸味を帯びたゼリー状。また完全に熟していないものは、メロンやキュウリなどに似た食感で、熟したものよりは酸味は少ない。

収穫したカカオを今度は、その実を取り出す作業をし、それを搾汁し、絞ったカカオを発酵。

そして発酵させたものを天日干しし、乾燥したものを、今度は、機械にかけてカカオマスを焙煎、カカオニブと分離。

そのカカオニブを砕いてカカオマスにし、練り上げて香りを出し、そしてよく言われる温度調整としての「テンパリング」を仕掛け、ようやくチョコレートへ。ここまでをなんと1日で体験させていただきました(もちろん発酵の部分は割愛しましたが)。

普段私たちが目にしている商品からは、こうして手間をかけて出来上がったチョコレートであること自体、分かり得ないことです。

食してみると、ベトナムのカカオで作られたチョコレートは、特に酸味が強く、これまで敬遠されてきたきらいがあるのですが、昨今のサードウェーブコーヒーにも牽引され、「酸味のある味」が、選択肢として認められてきており、最近ではベトナムのショコラティエが世界の権威のあるチョコレートの賞を受賞するなど、目を見張る成長を遂げようとしています。

こと明治も、10数年前にベトナムのカカオ農園に進出を果たすが、カカオの質やこうした農場自体の質が整わずに断念した経緯がありました。ただ近年のチョコレートブームや産地の中南米の政情不安を含め、アジアでの実験農園としてその価値を見直され、あらためて復活を遂げました。将来的にベトナムのカカオで作られたチョコレートが、僕たちの生活に入ってくる可能性はあると思いますし、実際にベトナムカカオの生産量もここ数年で少しずつですが増えている現状です。

なにより、日本に近いという立地特性、そしてベトナム人の真面目な気質が、よりよい農園とカカオをプロデュースするのでは、という期待を感じさせます。また何より、明治の取り組む姿勢に感銘を受けました。多くの人にチョコレートを「届け続けること」の大変さは、並大抵なものではありません。「希少」「数量限定」といったことではなく、それと同等のものを、「安価」で「お届けしやすく」「誰の手にも届く」という、公平さ、安定感、スタンダードを整理させる大手食品メーカーの使命を感じるたびでもありました。

最後に、今回のツアー参加者一人一人に、カカオの木が明治より贈呈されました。3年後、無事にカカオが栽培できれば、まさにBean to Barではないのですが、「Tree to bar」ということで(笑)、自らの木からの栽培、そしてチョコレートまで作ることができます。たぶん板チョコ数枚程度かもしれませんが、そんな貴重な体験を経験できたことに感謝です。

●メイジ・カカオ・サポート

http://www.meiji.co.jp/csr/stakeholder/meiji-support-for-cocoa/index.html

 

松田龍太郎

松田龍太郎

2010年より株式会社oiseau(オアゾ)を設立。主に食にまつわる事業開発・店舗開発では、これまで50店舗以上を手掛け、一方企画・プロデュースの分野では、元テレビ局カメラマンとして、食に限らずメディア、PRコンテンツの発信、企画展開を得意としている。2020年4月より「奈良蔦屋書店」2階に「ブラッスリーアンド カフェ ウグイス」として新たなポップアップレストランを、そして同じく同月、青森県弘前市に開館予定「弘前れんが倉庫美術館」に付帯するカフェ「CAFE & RESTAURANT BRICK」を、それぞれ立ち上げ、運営・事業を作り上げている。
http://www.oiseau.co.jp