和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第十九回 鮨 美幸

第十九回 鮨 美幸

「鮨はしもと」のあった場所で独自の味を切り開く

「鮨 美幸」は第三回でご紹介した「鮨はしもと」の移転前の場所にあります。橋本大将が若手が握れるチャンスを作ると離れ的な扱いでそのまま残していて、二番手さんであった紺野隆さんが2022年6月から任されました。お店の看板には「鮨 美幸」と書かれているものの、そもそも店名が橋本さんのご両親の名前を合わせたものだし、暖簾は「鮨はしもと」のままだし、もちろん内観もそのままなので、なんだか奥から橋本さんが出ていらっしゃるんじゃないかと思ってしまいます。ところが始まってみると「本当に橋本さんのところにいました?」ってくらい独自の鮨道を歩いている感じ。

つまみ8品からの握り14品、追加で巻物って流れは同じだけど味がね、違うんです。例えば「あん肝」は鰹出汁で炊いているので白くてふわふわ。橋本さんのような甘さはなく柚子胡椒でピリッとさせているし、めざしの炙り(スペシャリテじゃないかと思うくらいおいしい!)が出てくるわで、おもしろい。握りになればまずもって酢飯が違う。大きめで硬めだけどほろりとほどける感じで酸味もしっかり。タネも訊いたところによると「コハダ」と「鮪」以外は自分で仕入れていらっしゃるとか。

だからなのか「鰯」に紫蘇を忍ばせたり、橋本さんでは見かけない(たぶん)「甘海老」を出したり、創意工夫が見受けられますし、「コハダ」の酢〆加減や「春子鯛」の昆布〆加減は素晴らしい。さすが任されるだけあります。それに若いだけあって今日のタネ全部いれた太巻きなんて無茶振りにも対応してくれる(はず)。なんか変幻自在というか、紺野さんとお客が一緒に盛りあげていく感じがして本当に楽しい!

と言っても完全に違うわけではなく、「季節の小丼」とか「ホッキ」は裏返しで切り口を見せる技とか、ちょいちょい橋本さんを彷彿させるところもありで、こちらとしては安心感とワクワク感が同居する。紺野さん、ハートをつかむのうまいなぁ。おまけに紺野さんに付いているのが橋本さんのお弟子さんの近藤弘幸さんで、まぁ、彼はどちらのお店にいても人気者なのですが、紺野さんとの掛け合いは聞いていて本当に笑える。おかげで自然と雰囲気がほんわかするので、初めてでもおひとりさまでもきっと楽しめるはず。
本日のお会計は麦焼酎ソーダ割りと日本酒グラスで7-8杯、ミネラル水を飲んで28,400円なんて、う〜ん、素敵!まだ予約は取りやすいし、週に3日だけランチ(握りのみ)もあるので通いたいと思います。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★★
ロケーション&設え ★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。