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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅 ④幸楽(静岡・浜松)

浜松の幸楽は全国に知られるとんかつの名店です。繁華街の小道にあり、「登運嘉通」と染め上げられた暖簾が目印です。1968年に創業し、以来50年以上にわたって稲勝義紀さんご夫妻二人で店を営まれています。ご主人は80歳を超えてもなお、とんかつを揚げ続けています。

営業開始は12時ですが、11時過ぎに店の前に行って待っていたところ、奥さんが買い物から帰って来て、「どうぞ」と店の中に招き入れてくれました。こじんまりした店内はカウンター8席のみ、昭和の雰囲気を醸し出しています。実際の営業は少し早めに始めるようで、11時45分頃には注文を聞かれました。

メニューはロースかつ、ヒレかつが大きさによってそれぞれ松竹梅とあり、その他にポークソテー、エビフライ、カニコロッケなどもあります。240グラムあるというロースの竹を選択しました。お二人の阿吽の呼吸で作業が進んで行きます。盛り付け、配膳、何度繰り返して来たことでしょうか.。ラードを中華鍋に入れ、肉を揚げていますが、長年の技のゆえか店内には油臭さが感じられません。

とんかつの豚肉には希少な静岡県産の黒豚(バークシャー種)を使用しています。このような希少種を使用するということは以前はあまりなかったことで、先駆者的な存在と言えるかもしれません。皿の上の分厚いとんかつはこれでもかと存在感を誇示しています。卓上の岩塩を少しつけて、噛むと濃厚な旨味と脂の甘みが口の中に広がります。銘柄豚が広まっている現在でも、高い水準の味であることは間違いありません。キャベツは手切り、ポテトサラダやお新香も一から作っています。

「昭和の良心」がこの店には残っています。一日でも長く営業を続けられることを願ってやみません。

お勧めポイント
①黒豚の濃厚な旨味
②とんかつ界のレジェンドに会える

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。