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とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅 ②とんかつ ふじ井(大阪・千林)

「とんかつ ふじ井」は大阪で彗星のように現れた店です。 2022年の9月にオープンしたばかりですが、瞬く間にとんかつ好きの注目を集めています。京阪電鉄の千林駅を出て、庶民的な商店街を横丁に入るとお店があります。真っ白なのれんが美味しいとんかつを出す店であることを訴えかけているようです。

店主の藤井さんはフレンチの出身で、東京の「成蔵」のとんかつを知ったことで、とんかつという料理の奥深さに惹かれ、とんかつ専門店を始めたとのことです。
調理場に掲げられた黒板はビストロを思わせますが、藤井さんは野球部の出身でコックコートではなく野球のユニフォーム風の服を着ているのがユニークです。

こちらの店では手の込んだ技法を惜しげもなく投入しています。バッター液をご存知でしょうか。通常、とんかつを揚げる際には卵と小麦粉をつけ、その後にパン粉をつけます。その卵と小麦粉の工程をバッター液というもので代替することがあります。衣が剥がれにくくなる、衣を薄くつけることができるなどの効果があります。
基本的には小麦粉、卵、水を混ぜて作るのですが、藤井さんはさらに酢やバニラなども入れているそうです。また、肉汁を中に封じ込めるギリギリのタイミングを見極めて揚げているようです。

ヘレカツ、メンチカツ、ささみかつ、ロースかつを少しずつ食べられる3000円のコースを注文してみました。いずれも噛んだ瞬間に肉汁が溢れ出し、肉の旨みが口の中一杯に広がります。このジューシーさは東京の名店でもなかなかお目にかかれません。
メンチカツは半分が肉のスープのように感じられます。この日はヘレが岩中豚、ロースが林SPF豚という、比較的一般的な銘柄豚でしたが、そのポテンシャルを最大限引き出しています。不定期にTOKYO Xや希少な南ぬ豚(ぱいぬ豚、パイナップルを与えて育てるあぐー豚)なども入荷するようです。

近い将来、大阪でトップクラスの名店と見なされるのは間違いないと思います。まだ予約が取りやすいので、とんかつ好きは千林に急ぐべきでしょう。

お勧めポイント
①溢れ出る肉汁
②至る所にみられる高度な技術

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河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。