和食STYLE

とんかつ3名士 河田部長の とんかつひとり旅 ①tonkatsu.jp(東京・表参道)

とんかつは明治の中頃には誕生し、長い間愛されてきました。
明治21年(1888年)生まれで、天皇の料理番と呼ばれた秋山徳蔵氏は、子供の頃、陸軍連隊の集会所でとんかつを食べたことをきっかけに西洋料理の道をこころざしたと書いています。秋山氏が日本の西洋料理の発展に大きな貢献をしたことは言うまでもありません。

そして100年以上経った今、とんかつは歴史上もっとも美味しい時代を迎えています。

その立役者となっているのが生産者です。日本の養豚は高度成長期に効率重視にシフトしましたが、安価な輸入豚肉の導入や、イベリコ豚のような銘柄豚が注目されたことで、高付加価値の豚肉生産に舵を切る生産者が増えてきました。現在では数多くの銘柄豚が生まれています。

これらの銘柄豚を味わうのにまずお勧めしたいのが表参道の「tonkatsu.jp」(トンカツドットジェイピー)です。眞杉由美さん、眞杉大介さんご夫妻が経営されている店です。
眞杉大介さんはとんかつへの偏愛では私など足元にも及ばない方で、全国のとんかつ店を食べ歩き、各地の生産者にも足を運んでいます。

あるとんかつ店をプロデュースした後、満を持してお二人で店を開きました。
生産者と信頼関係からメニューには垂涎の銘柄豚が並んでいます。天城黒豚、どろぶた、サドルバック、セレ豚など、どれもトップクラスの銘柄で、その数は20 種以上に及びます。

この日いただいたのは純粋中ヨークシャー種の上ロースと淡路島ゴールデンボアポークの上ロースの二種盛りです。純粋中ヨークシャー種は昭和30 年代までは日本の養豚の主力でしたが、体が小さく、生産効率が悪いことから今では希少な存在になっています。非常に優しい味わいです。
淡路島ゴールデンボアポークはいわゆるイノブタで、3種類の豚に猪を掛け合わせています。少しジビエの風味があります。2種類食べただけでも豚肉の個性の違いに驚かされます。

もちろん、この店では豚肉だけでなく、パン粉や揚げ油にも細心の注意を払っています。白を基調にした店内は清潔そのものです。店内で販売している御豚印帖を購入してみるのも良いでしょう。1 銘柄食べる度にシールを貼ってもらえます。全種類制覇したくなるので危険ですが。

お勧めポイント
①圧倒的な銘柄豚の品揃え
②細部まで行き届いた調理

河田 剛

大手証券会社の調査業務に携わる傍らでグルメアナリストとしても活躍。さまざまな料理を食べ歩き、著書『ラーメンの経済学』(KADOKAWA)で話題に。料理の背景や素材、流通に至るまで、幅広い視点での鋭い洞察が特徴。