和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第十七回 鮨つぐ

第十七回 鮨つぐ

脱サラからの鮨職人だから成せる新感覚

「絶対気にいるから」と食通のお友達にお誘いいただき横浜・馬車道の「鮨つぐ」へ。「ここかぁ」とちょっと残念な古いビルの 2 階へ上がり扉を開けた瞬間、ニンマリ! 落とし気味の照明に美しい檜のカウンター、高級鮨屋特有の木製氷室冷蔵庫、これは期待できる。お力のあるお友達のおかげで大将、髙田直嗣さんの目の前のお席だし、さっきの不安はどこへやら。

そして「名刺代わりに」と付け台に置かれたのが宮城県塩釜の「中トロ」。この手のやつで衝撃的だったのは「鮓ふじなが」の藤永大介さんが「すし通」にいらした時に食べた「50 回包丁を入れた中トロ」なので、ちょっとやそっとじゃ驚けないんだな。うん、でもおいしいです。とろりんとしていい鮪です。赤酢の酢飯はやわらかいけどちゃんと噛ませてからほどける感じでお酢の加減が好き。おまけにこの鮪とは本当に合います。

ここからは握りの中に適当におつまみが入ってきます。次は「もずく」でしたが、酢飯同様酢の塩梅がちょうどいい! 一緒に「ガリ」も出されたのですがこの甘酢っぱさも好き! 酢の加減がめちゃくちゃ私好みなので握りが楽しみだなぁ。
つまみは「セリのお浸し」に根っこもちゃんと添えてあったり、「茶碗蒸し」の餡が「ゆり根のすり流し」だったりと、工夫を凝らすとえてしてハズレがちですが、こちらのつまみはどれもとってもおいしゅうございます。

そして握りはモッチモチの食感の和歌山「もち鰹」や、とんでもない厚さの北海道厚岸の「天然帆立」とか、びっくり&おいしいタネがあるかと思えば、きっちり江戸前仕事した「すみいか」「鮪の赤身漬け」などもあり大いに楽しませてくれます。まだ髙田さんが完成されていない故、あれ?これはちょっと仕事が……、と思うタネとか煮切りも煮詰めも濃いな(これは好みの問題)とか、私的に言いたいことはちょびっとありますが、全体を通して構成の緩急がとってもいい!

これは髙田さんの経歴が成せるワザかもしれません。だってそもそも大手不動産会社の営業さんから「頑張れば板場に立てる」と「すし天」などを持つ会社に転職。当時一緒のお店にいた赤坂「すし晴」の佐藤治彦親方にいろいろ教えてもらった後は独学で、とにかく調べてやってみて覚えたそう。だから“鮨道一直線”で生きてこられた人より、いろんなジャンルを食べている私のような雑多人と肌感覚が一緒っていうか、こういうのが食べたいんだよねっていうつまみと握りなのです。
それでいつものように最初に泡っぽいものと日本酒を 4合くらい飲んでお会計が何と 13,200円! 馬車道まで来た甲斐があるってもんです。
しかしこの味でこの金額なので当然人気店でありまして、そのうち高騰するのではないかと思われます。願わくばこの価格をキープしていただきたいものです。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★★
ロケーション&設え ★★★
サービス ★★★★
のどの渇き度 ★★★★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。