和食STYLE

檀崎真由美のボルドー通信『フランス必食N E W S』②

ボルドーの4月後半はプリムール(PRIMEUR)という樽熟成中の新ワインの試飲晩餐会が名だたるシャトーで華やかに開催されます。
マルシェには春を告げるホワイトアスパラガスが美しく並び、フランス中のレストランでホワイトアスパラガス料理が色々な表情を覗かせながら、皿の上を華やかに装います。

先日ミシュラン三ツ星レストラン『トロワグロ』に行って来ました。そこでは何とホワイトアスパラガスはブルターニュ産の枕崎鰹節で味を優しく含ませる隠し技がありました!
日本贔屓のセザールシェフが『このキッチンで鰹節を削っていますよ』と私達のテーブルに挨拶に来て頂いた時に教えて下さり大感激!プレスしたキャビアがホワイトアスパラガスを優しく覆い、とても斬新なアイディアで贅沢の極みでした。この様なフランコジャポネスタイルはフランスでもすっかりモードで定着しています。

ホワイトアスパラガスの定番料理は何といってもオランデーズソース。このソースはボールに卵黄、塩、胡椒、レモン汁を入れて混ぜ、湯煎にかけ澄ましバターを少しずつ加えながら泡立て器でコンスタントに混ぜて軽やかに乳化させた温かいソース。この時期レストランでこのホイップ音が調理場から聞こえてくるとワクワクします。

このオランデーズソースは太陽王ルイ14世が濃厚な油脂のソースを卒業したいと考え、当時の宮廷のシェフが国王の大好物のホワイトアスパラガスの為に考案。第一次世界対戦の食糧難でオランダからバターを輸入していた事でその名が付いたとも言われています。王の菜園にはホワイトアスパラガスが一年中収穫出来るシステムが開発され『王家の野菜』と呼ばれ、かつては貴族しか味わう事が出来ませんでした。

<ホワイトアスパラガスの茹で方ポイント>
ホワイトアスパラガスの皮は筋が固く口に残る為、皮剥き機で丁寧に剥き筋を取り除く。
固い根元の部分は1−2cm程切り落とす。たっぷりのお湯に塩とスライスレモン、剥いた皮も入れて甘みが出る迄ゆっくりと茹でる。(皮と茹でる事で風味も旨味も凝縮される)
レモンの代わりに小麦粉をひとつまみ加えても白さが引き立ち綺麗に茹で上がります!

私の主人はジョエル・ロブションレストランのエグゼクティブシェフとしてフランス料理の偉大な巨匠ロブション氏と長年働き、世界中を共に旅してきました。
私は中華の著名なシェフの方々のアシスタントを務めた経験から、ホワイトアスパラガスは中華風に歯触りを残してシャキシャキ感を楽しみながら味わいたい!でも主人は『この茹で方ではロブションさんなら怒るよ。もっと良く茹でて』とお約束の茹で方バトルが勃発。
美食の国フランスではホワイトアスパラガスはクタクタになる迄茹でるのが好まれます。
茹で汁は鰹節を加えホワイトアスパラガスの和風リゾットにし、仕上げに削りたての鰹節を振りかけて出来上がり!フランス人はこの鰹節を削る作業に皆さん興味津々です。

フランス料理クラスでは最初はホワイトアスパラガスをクーリー(COULIS)にします。クーリーとはフランス語で食材を裏ごした粘性のある液体ソースの事。
アスパラガスを茹でてから半分に切り、穂先の方は盛り皿に移す。残りの半分は茹で汁と共にミキサーにかけてクーリーにし、甘酒(甘麹)で素材の旨味を引き出していくらの塩味をアクセントに2種のテキスチャーを楽しんで頂きます。

ホワイトアスパラガスの産地ブライ(BLAYE)はボルドー中心地から車で40分の距離。ブライのほぼ全てのアスパラガス農業者はボルドーのAOCワインの生産者です。
この土地の腐植質が非常に豊富な黒砂により、特別な風味が引き出され、ホワイトアスパラガスに独特の甘みや円やかなとろみを与えています。
ボルドーに流れるジロンド川北部と河口近くにある小さな家族経営の農場で生産され、2 月末から5 月末まで収穫されます。
4月中旬には春のワイン試飲イベントが開催され、下旬にはホワイトアスパラガス祭りで、産地特産品を最も良い状態で味わう事が出来ます。

ブライ城塞を建てたヴォーバン伯爵がルイ14世の宮廷に持っていったとの伝説があるこのブライのホワイトアスパラガス。春にボルドーに訪れる機会があれば足を延ばして世界遺産のブライ城塞を散歩した後、冷えたブライの白ワインと味わってみては如何でしょう?この時期ならではのフランスボルドーの必食情報で、本当にお勧めです!

AOCとはAppellation d’Origine Controlee(アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)の略で、フランスワインの品質分類である「原産地統制呼称」の事。

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檀崎真由美(だんざきまゆみ)

フランスボルドー在住料理家。ダンラキュイジーヌ(Dans La Cuisine)主宰。
La société MT GESTION CULINAIRE共同代表(フランス)。
Alchemist.Pte.Ltdコーポレートシェフ(シンガポール)。

和洋中の料理を専門的に学び、著名な一流シェフのアシスタントを経験後、仏料理店『シェ松尾』で5年修行し独立。
クッキングスタジオでの料理教室開催、大手企業や海外一流ブランドのパーティーフードをシェフとして手掛け、人気を集める。アメリカ、シンガポール生活後、現在ボルドーを中心にフランス政府正規就労許可の元、料理教室、オンラインレッスンを開催。英語と仏語でも和食レッスンを行い、全国放送『F R A N C E3』にてお節料理を作り、自身の料理活動と共に紹介される。フランス料理だけでなく、和食、本格中華点心迄ワンランク上のクオリティーに仕上げるテクニックで国内外問わず活躍中。

https://instagram.com/mayumi_bdx