和食STYLE

⾼橋綾⼦のNO SUSHI, NO LIFE – 第十四回 鮨 本店上ル

第十四回 鮨 本店上ル

思いが受け継がれたお鮨っていいもんです

名前は知っていたけどチェーン店ってことで足が向かなかった「築地玉寿司」ですが、築地本店の2階に趣を変えた完全予約制のお店がオープンしたとのことで、“初!玉寿司”しました。本店の左にある階段を上るので、なるほどそのまんまお店の名前にしちゃったのか……なんて思いながら暖簾をくぐると、あら、なんかこの古さ、いい感じ!靴を脱いでスリッパに履き替えるのも(本当は嫌だけど)この空間にはいいのかもと思ってしまう。
元は玉寿司の宴会大広間として使っていたそうでカウンターは13席と6席の2つに分かれています。奥には壁一面に大木を描いた大きな油絵が飾られているのですが、これが油絵とは思えないほど立体的で美しくて素晴らしい!カウンターには高級鮨店の象徴とも言える一枚板ではなく、あえてアンティークな寄せ木を使い、椅子(というよりはソファ?)にゆったり座れて、全体的に懐かしくて温かみがあって、新しい畳の匂いが気持ちよくて、ちょっと格調もあって好きだなぁ、この雰囲気。

おまかせコースは「極み(16,500円)」と「口福(14,300円)」の2種類。ペアリングは5,500円とかなり良心的価格です。本日の「極み」はおつまみが5品でたあとひと口丼と手巻き、続いて握りが途中に茶碗蒸しを挟んで8貫に玉とお椀、最後にお芋のデザートとなかなか満足感のある構成。酢飯には「玉寿司」に使用している赤酢に「興兵衛」をブレンド、少しやわらかめな炊きあがりだけど粒はしっかり立っています。

そうそう、特徴的なのが「発酵」に着目していて、自家製の「醤(ひしお)」を使うこと。スペシャリテの「卵黄醤漬け」は掌に海苔を置いて待っていると、酢飯と「醤」にひと晩漬けた卵黄をのせてくれます。海苔で挟んでパクリ。卵黄がじんわりとほどけるとめちゃくちゃコクのあるTKGに変身してマジうまい!鮑の肝醤油にも鰹の薬味にも「醤」を使っているそうで、これは名物になりますな。

タネは「鮪」「小肌」「車海老」「穴子」「白海老」「毛蟹」「ノドグロ」と王道路線。なんか安定の「玉寿司」って感じでむしろ安心でき、それを昭和ノスタルジックな空間でいただける。今までイメージしていた「玉寿司」が一気にランクアップしました。おまけに「玉寿司大学」なるものを開校し、100日研修プログラムで人材を育成、各店で活躍できる場を提供しているんですって。このお店の若手さんたちも“育成中”だそうで、ファミリー感も雰囲気作りにひと役買っています。いいお店って“鮨レベル”が高いだけじゃないんです。

綾⼦の⾃分勝⼿評価基準
おひとりさま度:ひとりではもちろんのこと、たとえ初めてでも楽しめるかどうか。また何か素敵なことが起こるか、客層はどうかも含む。
⼝福度=価格の満⾜度:鮨⾼騰の折、基準は⾷べて飲んで 4万円以下。おいしいは当然、⽀払いをした時にどう感じたか。
ロケーション&設え:「google map」で迷わずたどり着けるか。内観のセンス、器や酒器、トイレの清潔感など店内の印象。
サービス:スタッフの接客の満⾜度
のどの渇き度:完璧に個⼈的主観だが、塩分過多などでのどが乾くような味が苦⼿。評価は星が多いほど、のどは渇かないということ。

【評価】
おひとりさま度 ★★★★
⼝福度=価格の満⾜度 ★★★★
ロケーション&設え ★★★★
サービス ★★★
のどの渇き度 ★★★

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⾼橋綾⼦
(たかはしあやこ)

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人⽣そのものに。
その間に培った食のデータと人脈を武器に、年間 1000 軒ほどの外食で“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ⽇々。「綾⼦のギョーカイ総受けグルメ手帖」「BRUTUS」「GQ」「食べログマガジン」「集英社オンライン」などに寄稿。BS フジ「リモート☆シェフ」では審査員として定期的に出演。
東京都主催の食の祭典、「Tokyo Tokyo Delicious Museum 2023」のプロデューサーに就任。また企業のメニュー開発やアドアイザーにも携わる。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。